1
「うん、ん。…ふああ、もう朝、かな?」
とうとう料理教室初日になった。
なかなか寝付けなくて、ふっと意識が浮上してまた寝てを繰り返したからか、身体が重い。
寝ぼけ眼で目の端に入ってくる陽球の光が弱いことから、まだ日の出前の4時くらいだと推測する。
しっかり確認出来ないのは目の前が真っ黒だからだ。
クルビスさんには気がついたら頭を抱えるように抱きしめられている。
最近は苦しいと思うこともなくなったからいいけど、最初の頃はぎゅうって抱きしめられてて、苦しくて目が覚めることが多かった。
いまは慣れたし苦しくないけど、困ったことに、しっかり抱きかかえられてるせいで、私だけ抜け出して起きることはできない。
今の室温だと、私が起こさないとクルビスさんも起きられないから、結局二人で起きることになるんだけどね。
ちょっと早いけど、もう起きようか。
料理教室は午前と午後の2回あって、午前は朝の8時スタートだ。
通常の料理学校もあって、そちらは7時から始まる。
登下校の混雑を避けるために、6時半までにはついていて欲しいと言われてるから、早めに仕度しても丁度くらいだ。
ここから起こすにはちょっとコツがいる。
まず私からクルビスさんに抱き着いて、そこから魔素を調整して少しずつクルビスさんの魔素に流し込むようにしていく。
しばらくすると、クルビスさんの魔素もこちらに流れて来て共鳴が始まる。
一緒にいるだけで勝手に共鳴始めちゃうのには困ることも多いけど、こういう時はとても助かる。
しばらくすると、ひんやかしてた身体も温まってきて、身動ぎするようになる。
私の腰に手が伸びてきたら起きた証拠。
「おはようございます。クルビスさん。まだ少し早いんですけど、目が覚めちゃって。」
「ん。おはようハルカ。今日も可愛いな。」
うん。もう慣れたけど、可愛いは朝の挨拶じゃないと思う。
寝起きの顔が可愛いとは思えないんだけど、クルビスさんはよく寝起きの私を可愛いといってくれる。
そこからまたベッドに押し倒されるハメになるので、腰のあたりを触ってる手はどけておいた。
クルビスさんも今朝は早いとわかっているからか、大した抵抗もなくどけてくれた。
チュッ
かわりみたいにおでこにチューされて、身支度のために身体を起こす。
私は顔を洗いに洗面所に行き、クルビスさんはまだ眠いのか身体を起こしたままでぼうっとしていた。
う~ん。やっぱりちょっと起こすの早かったかなあ。
この間、シェリスさんをだました金物屋さんを検挙してから忙しいみたいだったし、疲れてるよねえ。
意外なことに、その検挙には、私が異世界初日に休憩に使った切り株も関係してたみたいで、誰にもしゃべってないことを確認されたうえで、今後もしゃべらないよう注意された。
金物屋さんと切り株の関係はわからないけど、それ以上深く関わる気もなかったので素直に頷いた。
知らない所で事件に関係してて、それをしゃべったりするなんて、恐ろしいフラグにしか聞こえなかったしね。
それで疲れてるようなら、普段なら寝ててもらうんだけど、料理教室の初日で例の夢の件もあるからそうもいかない。
イシュリナさんも参加してくれるそうだけど、丸一日傍にいてもらうのは無理だしねえ。
うん。眠気覚ましに暖かいお茶でも入れてあげよう。
朝から汗かいちゃうけど、後でシャワー浴びればいいよね。