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メルバさんを呼ぼうと思った時には、もう目の前でぐったりしているカバズさんを抱き留めていた。
早っ。でも、他のひと達は驚いた様子はない。
もしかして、これくらいの速度で動けるのって、こっちじゃ普通なのかな。
今までは、隊士さん達だから特にすごいんだって思ってたんだけど、違うのかも。
もし、これくらいの身体能力の高さが普通のことだとしたら、私はこっちでは子供よりのろまな子だろう。
あまり気にしないで出来る限り頑張ろうと思ってたけど、差を目の当たりにするとショックだなあ。
「ん~。具合悪いみたいだね~。この子、僕が医務局へ運ぶよ~。ご家族は~?」
「あ、こいつ一つだけです。俺が付き添います。幼馴染みで一緒に組んで仕事してます。」
ルイさんがカバズさんの付添いに立候補している。
カイザーさんはメロウさんに事情を説明に行ってくれている。
私が驚いている間に、皆さんテキパキと対応されていた。
メルバさんがカバズさんを守備隊に連れて行くことになったようだけど、大丈夫だろうか。
こうなると、事情を説明する役が必要になるけど、やっぱり私かなあ。この騒ぎの元凶だし。
クルビスさんに怒られるかなあ。でも、ちゃんと説明しないと。
そう思った時、カイザーさんが戻ってきた。
メロウさんも後ろに連れている。
「キャサリンさん、ハルカさん。今日は午後は休業です。おふたりも念の為に守備隊で見て頂いた方がいいでしょう。急ぎの荷物は午前中に終わりましたし、問題ありません。」
「そうだね~。近くにいたんでしょう?一緒に行こうよ~。あ、カイザー君も一緒だよ?念のためにディー君に見てもらおうね~。事情も聞きたいし~。メロウちゃん~。ごめんね~。また今度来るよ~。」
「お待ちしております。長。よろしくお願いいたします。」
迷惑をかけたのに、メロウさんからは心配する魔素しか感じられなかった。
いいひとだなあ。稼ぎ時に騒ぎを起こして申し訳ない。
周りの席はすっかり空になっている。
この騒ぎで皆出て行ったんだろうな。うう。営業妨害してすみません。
そう思って私もメロウさんに頭を下げたけど、メロウさんは「これは、ハルカさまのせいじゃありませんよ。」と気にしないように逆にフォローされてしまった。
喧嘩の気配に、厨房の入口から一部始終を見ていたのだそうで、カバズさんの様子がおかしかったのも見ていたらしい。
「それより、また食べに来て下さいね。うちの子たちも、次はいつ来て下さるだろうって楽しみにしてますから。」
「…ありがとうございます。是非また寄らせてもらいます。とても美味しい料理でした。」
その暖かい言葉をありがたく受け取って、また食べにくる約束をする。
ただ、その言葉で姿の見えないベッカちゃんとフルールちゃんの無事が気になって、それも聞いてみることにした。
すると、喧嘩自体は良くあることらしく、小さなふたりが影響されないようにと、喧嘩が始まるといつもすぐ奥に避難させることになっているとのことだった。
今回もふたりとも素早く避難し、今も厨房の奥で元気にしているそうだ。
良かった。あんな小さな子がさっきみたいな魔素の暴走にあてられたりしたらと思うと、すごく怖いことだ。
メロウさんにふたりにまた食べにくることを伝えてもらうことにし、今度はメニューのこととかいろいろお話出来たらいいなと思う。
その前に、クルビスさんに離してもらえるかなあ。
初日からこんなことになって、仕事にも行かせてもらえなくなったらどうしよう。