9(クルビス視点)
話がまとまった所でハルカを迎えにいく時間になった。
それを告げると会議はお開きになる。
「じゃあ、俺は先に出る。」
「ああ。行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃい。」
俺が部屋を出ていくとキィとリードの会話が少しだけ聞こえてくる。
どうせ俺の蜜月のことだろう。まだ続いてると言った時驚いてたからな。
「…よく続くよなあ。毎日だろ?」
「ええ。まあ、まだ蜜月ですしね。」
「フィルド隊長ん時みたいになるって思ってたけどなあ。よく我慢してるよな。」
「逆に誤解も広がってるみたいですが…。」
聞こえたのはそこまでで、予想通りの会話だったことで聞き流して下に向かう。
俺の蜜月は異例だからな。
周囲の誤解も含めてあの2つには苦労をかけるだろう。
だが、ハルカの顔を思い浮かべた途端、その考えも頭の隅に追いやられる。
何にしろ蜜月は蜜月だ。誤解する者がいようが、構うものか。
今の俺は伴侶に会えるが嬉しくて仕方ない。それだけだ。
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大通りに出ると見知った色が見えた。
あれは東のリリアナ副隊長。隣の女性は、例のシェリスさんか?
知り合いだったのか?とても親しそうだ。
向こうはこちらに気づいていないようだし、見たところ私服だ。
休みの日に仕事関係の者が無理に声をかけることもないだろう。
ハルカを迎えに行かないといけないしな。
彼女たちを視界から外し、さっさと転移局に向かう。
今日は書類も片付けてあるし、ハルカと食事をして、後はそのまま籠る予定だ。
深緑の森の一族のメニューだとルドが言っていた。
ハルカも喜ぶだろう。最近食欲が落ちているように見えたが、これなら食べられるはずだ。
リードにも言われたが、ハルカの故郷はこの辺りに比べてとても涼しく、それゆえに暑さに身体を壊す危険がある。
かつて深緑の森の一族がそうだったように、身体の熱を下げられなくて倒れるかもしれない。
だから、彼女の食べやすいものや冷やすものは部屋にも常備するようにしている。
果物は食べやすいようだから、朝に食欲がないようなら、冷やした果物を食べさせることもある。
雨季が終って気温が一気に上がった時は大変だった。
魔素が弱ってグッタリしているハルカを見た時は心臓が止まるんじゃないかと思った。
リードを引きずって来て「夏バテですね。」と言われた時はホッとしつつも、この程度の暑さに弱いことに驚いたものだ。
まだ夏というには早すぎるこの時期にバテるなら、真夏はどうなるのか。
リードやキィに相談して、部屋の温度を上げ過ぎないよう忠告を受け、それはすぐさま実践した。
陽球の設定は落として、部屋の温度を上げ過ぎないように気を付けるようになったが、そのおかげで起き辛くなった俺をハルカが温めてくれるようになったのは役得だ。
「あ。クルビスさん。」
すでに転移局の前で待っていた伴侶に足が自然と早くなる。
今日も無事に終わったようだな。
視界に入った警護の隊士に頷き、彼女の手を握って歩き出す。
密猟者が彼女を狙うことは無いと思うが、油断は出来ない。
「…帰ってからもお話しましょうね?私も今日はたくさんあるんです。」
俺の不安を読み取ったのか、少し心配そうに、でもいつものように明るくハルカが提案してくる。
まったく、ハルカにはかなわない。