8(クルビス視点)
だが、ここまで持ってくるのは少し大変だった。
俺とハルカの式のこともあってか、探らせてはいたものの表向きの演劇関係に精を出していて、最近はめっきり裏の動きがなくなっていた。
劇場の責任者が変わるというウワサもあり、このままでは証拠をつかむ前に逃げられるのではないかと危惧していたくらいだ。
しかし、雨季が終わってしばらくして、金物を扱ってる店が別件でやらかしてくれた。
シェリスという最近南地区から来た女性に不良品を売り付けたのだ。
ハルカが気付き、局長のカイザーさんが被害届を出しに来た。
カイザーさんが現物を持って来た時には中の状態に驚いたが、その箱の中にポムの木の欠片があったことにも驚いた。
相手は北西の地域に住むということでシェリスさんの色をバカにし、今にも壊れそうな調理器具を高値で売りつけたのだそうだ。
調べてみると、他にも被害があったので、そちらで踏み込むための材料をそろえられた。
後は中に踏み込んでその痕跡を捜すのだが、取引用に使ってる箱をうっかり一般の客に使ってしまうような店だ。
何かしら残っているだろう。
こう考えると、やつらに関する動きはすべてハルカに繋がっているな。
ハルカが関係してることは向こうには知られていないが、警護を強化しておいた方がいいかもしれない。
「劇場の方はどれくらい割く?」
「10だ。単色はのぞこうと思う。あくまで金物屋が対象だしな。」
「表の入口が見える位置に詰め所がありますし、そちらに配置してもいいのでは?」
「そうだな。今の担当の班には…単色が2つか。」
「一応、うちのも1つ入れてくれ。『探査』が得意なやつを出す。中にこっそり抜け道とか作ってるかもしれないしな。」
キィの言葉に、思い付かなかった可能性を示唆される。
そうか、密猟なんてやってるなら抜け道の1つや2つはあるだろうな。
思いつかなかったのは、抜け道のようなものは大抵地下にあるが、雨季で大量の雨が降るルシェモモでは向かないからだ。
地下には網の目のように雨季対策の下水の設備が張り巡らされ、それを崩すと建物の周りに水がたまり、通路も建物も水没の危険がある。だから、普通は作らない。
だが、相手は犯罪者だ。あらゆる可能性を考慮すべきだったな。
中の空間を認識できる『探査』か。
そうだな。今詰め所にいる班には使える隊士はいないし、術士部隊から借り受けよう。
「早速班に組み込もう。当日いきなりだと怪しまれるから、早めに班に入ってもらいたいんだが、大丈夫だろうか?」
「おお。いけるはずだ。誰を行かせるかは、キーファと相談したら、すぐ知らせるよ。」
「頼む。」
「本命の金物屋にも、もう少し術士が行った方がいいかもしれませんね。ポムの木が入っているのに、いままで検閲に引っかからなかったのが気になりますし。術式を探すのなら、うちの隊士もお役に立つでしょう。」
リードの言葉にキィと俺が頷く。
ポムの木は独特の香りと魔素で魔物を寄せ付けない特別な木だ。
箱に入っていれば荷運びをするセパが嫌がるし、何より転移陣の使用の際に不自然な魔素に術士が気付いてしまうだろう。
何か細工されてると考えるのが妥当だ。
それを探すには数がいる。
リードの提案はそれを助けるものだった。
「ありがとう。当日は治療部隊の術士にも協力をお願いしたい。術士部隊も顔が売れてる術士は今回は出てもらう訳にはいかないしな。」
「まあ、不良品売りつけたってだけじゃ、俺やキーファなんかはいけねえしなあ。クルビスはともかく、リードも無理だろ。」
俺の意見を肯定するキィの言葉にリードが苦笑して頷く。
あくまで表面上は不良品を不当に売りつける店の一斉検挙だからな。俺だって出張るのは控えないと、おかしく思われるだろう。