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昼食を美味しく頂くと、午後の業務だ。
暑くなってきてからは夕方くらいまでお客さんは少ない。
暑さに強いと言っても、この日差しの中をわざわざ外に出てうろついたりはしないらしい。
昼間に来るお客さんの中にも、日よけの布を巻きつけたり、フード付きのパーカーを着てる人も見かけるようになった。
私も日よけにとクルビスさんと一緒に森に行った時に着たようなフード付きのパーカーは持っている。
ただ、それを被ってても暑いんだよね。
日よけの術式とやらが縫いこまれてるらしいんだけど、熱は遮断しきれないらしくて、汗が止まらない。
エルフたちでもここまで汗はかかないらしくて、気候に慣れていないからだろうとフェラリーデさんには言われている。
結婚式の時みたいな冷房付きのパーカーとかないのかなあ。
でも、お式の時に術士さん達にあれだけ驚かれたから、普通は無理なんだろうなあ。
うう。切実に日傘が欲しい。
日差しを遮るにしても、布を被るのって暑いし、風が通りにくいもんね。
メルバさんに頼めないかなあ。
でも、こっちで傘はあまり流通してないみたいだったし、無理かもなあ。
雨季の時にまとめて降るせいか、雨季以外はあまり雨が降らない。
そのせいで、傘をさして雨を避けるって発想が無いみたいなんだよね。
隊士さんたちのために合羽はあるみたいだけど、身体を動かす隊士さんに傘は必要ないものだ。
あの土砂降りの中じゃあ傘も役に立たないだろうし、仕方ないのかなあ。
それに、私の身長で傘をさしたら、道行く人にぶつかってばかりで進めなさそう。
うん。無理っぽい。他の方法を考えないとなあ。
「さて、そろそろおやつにしましょうか。もう少ししたら、夕方の便が来はじめますし。」
「あ。そうですねぇ。今日は私のおすすめですよぉ。」
作業しながらいろいろ考えてると、おやつの時間になっていた。
定番化したおやつは、北西の転移局のお楽しみだ。
今日はキャサリンさんの番で、彼女は布に包まれた果物を取り出した。
レモンのような形ですこし梨っぽい。ポムの実だ。
「ポムの実ですか。珍しいですね。」
「ハルカさん知ってるんですかぁ?これ珍しいのにぃ。」
私が知ってることにキャサリンさんは驚いているようだ。
それもそのはずで、ポムの実はポムの木が余分な魔素を放出するためにつける実だ。
通常の果物とはでき方が違うこの実は、市場にもあまり流通しない。
森に近いこの辺でも年に数回出回るかどうかなのだとか。
それが目に前にあるんだからカイザーさんが驚くのも無理はないと思う。
私はたまたま知ってたけど、キャサリンさんはご実家で扱うことがあるから知ってたんだろう。
「ええ。ここに来る途中で木になってるのを見たことがあるんです。」
「ああ!クルビス隊長と出会ったっていう運命の場所ですねぇ。」
う、運命って。そんな話になってるの?
まあ、でも運命かな。
あそこで出会わなかったら、私消えてたし。
正確には、出会ったのはポムの実が生ってる場所からはずいぶん離れてるんだけど、それは言わなくていいよね。