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「そっか…。無理してねえなら良かったよ。ははっ。」
「ああ。キャスらしいわ。でも、疲れたと思ったらちゃんと周りに言えよ?今は良くても後でどっと来るかもしれないしな。」
「は~い。」
ご近所に住んでるからか、親しく話すルイさんとカバズさんとキャサリンさん。
傍から見ると、妹を心配するお兄ちゃんだ。
キャサリンさんも心配をかけてる自覚はあるのか、素直に頷いていた。
いい関係だなあ。この辺は下町の雰囲気があるけど、きっと近所づきあいも日本の昔ながらのものに近いんだろうな。
私の実家のある辺りもこういう感じで、ご近所さんとは小さい頃からよく知っている仲だった。
だから、私としては新居はこういう所に住みたいんだけど、私とクルビスさんは持っている魔素が強すぎて悪影響が出るから、この辺はだめだって言われてるんだよね。
どこかに良い所ないかなあ。
とと、いけない考えが横にそれちゃった。
今はもう落ち着いたみたいだけど、結局ルイさんとカバズさんの喧嘩の原因って何だったんだろう。
顔見知り程度の私が聞いていいのかわからないけど、さっきのはさすがに様子が変だった。
でも、聞いただけで教えてくれるかな…ん?
カバズさんの腕に何か黒いのが見える。もやっとして、何だか、嫌な感じだ。
「…カバズさん、腕のそれ、何ですか?」
「へ?は?え、な、何かついてますか?」
私の質問に何が何かわからないといった感じで慌てるカバズさん。
あれ?もしかしてカバズさんには見えないの?
「ん~?何か変なもやもやが付いてますね~。…これ、守備隊に行ってみてもらった方がいいかも。」
キャサリンさんにも見えるみたいだ。
もしかして、これ、術式か何か?だとしたらマズイかも。
「な、何言うんだよ!何もないだろ!」
「お、おい。」
私とキャサリンさんの指摘にカバズさんが叫ぶ。
あまりの剣幕にルイさんも引き気味で止めに入る。
「何だよ!皆して!俺が何だっていうんだよ!俺は、俺は!」
カバズさんの興奮は止まらない。
私の警護の隊士さんが彼の後ろと私の前に立つ。
「ちくしょう!どいつもこいつも!」
カバズさんの腕の黒いもやが大きくうねって彼を覆っていく。
これは、マズイ。他のひとにも感じられたのか、カバズさんから距離を取る。
どうしよう。迂闊なことを言ってしまった私のせいだ。
この中でプロの術士といえば、キャサリンさんだけ。
でも、彼女もあまりの事態に言葉を失ってるくらいだ。
きっと専門外なんだろう。
これは守備隊の術士部隊クラスの術士さんが必要だ。
どうしよう。今から知らせてもらって間に合うだろうか?
「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!」
緊張が高まっていく。カバズさんの叫びと呼吸がどんどん荒くなる。
何か言ったらその瞬間ダメになりそうで、誰も何も言えない。
どうしよう。誰か。
誰か助けて。
「やっほ~。メロウちゃん、ご飯食べに来ったよ~!」
場違いな程明るい声が食堂に響く。
メルバさん!ナイスタイミング!