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ブラックホール  作者:
3/3

親友様(2)

杏奈視点

この子、何処かわたしと似てるなぁ。



それが水嶋那月に対する、第一印象であった。


いつも大抵、へらへら笑っているのに、偶に見せる無表情にどこか親近感を覚えたのだ。

どこか疲れたように、いや、つまらなさそうに感じた。

何に対しても関心のないとよく言われるが、この子に対しては少し興味が湧いた。


だからといって、何か行動を起こすわたしではない。

彼女を目で追う回数が少し増えたくらいである。

彼女は誰に対しても友好的で、男子にも女子にも好かれている存在であった。

彼女に恋する男子も多く、それに対して女子は、この子なら仕方ないか、と妬みなどは持たれていないようだ。



艶のあるふわりとした黒髪は、光に当たると少し青みがかって見える。

ぱっちりとした猫目は自然と目を惹きつけられ、笑うと弧を描いたようになり、優しい印象をもたらす。

なんといっても、透き通るシミひとつないその白肌は、女子の憧れである。

つまり、彼女はとても美人であり、可愛らしくもあるということだ。

わたしも美人らしいが、きつい印象しか与えないようなので少し羨ましくはある。




そんなある日、彼女は担任に仕事を押し付けられ、しかし、にこりと笑って引き受けていた。

人がいいので、頼み事は断れないようだ。

それを横目に見つつ、飼育小屋に向かう。

今日はうさぎの飼育当番の日なのだ。

小屋の掃除をして、うさぎに餌をあげた。

空になった水入れに水を入れて帰ってきたとき、誰かの話し声が聞こえた。



「くっそー!あの細目、面倒臭い仕事押し付けやがって。自分の仕事は自分でしろっての。しかもこっちはまだ小学2年生ですよ?そんな幼い子使うってどうなの。え、だからごめんって。本当は携帯使用禁止なのに、隠れてちゃんと連絡してんのよ?ちょっとぐらい許して、言い訳と愚痴聞いてくれたっていいじゃん。」


飼育小屋の裏で、誰かと携帯話しているようだった。

どこかで聞いたことのある声だった。

わたしはそっと小屋の裏にまわり、そこに佇む人を見た。

肩より少し長い黒髪は、最近よく見るように、日の光を受けて青く輝いていた。


人の気配を感じて振り返った彼女は、しまったという顔をしていた。


「に、にかいどうさん。」


名前覚えていてくれたんだ、とかその場にそぐわないことを考える。

無言になるわたしを見て、言い訳を考えようとしているのか目が泳いでいる。


「言うつもりないわ。」

「えっ?」

「誰にもこのことは言わないと言ったのよ。」



少し目を見開いて、わたしに問う。


「真面目なあなたが?」


「ふっ、わたしは少しも真面目じゃないわ。人のことなんて言えないもの。携帯を学校で使ったことぐらいあるし、嘘をついて先生の頼みを断ったこともある。」



少しの沈黙の後、ふっと彼女が息を吐いた。

その姿はどう見ても小学2年生のものではない。


「なぜそんなことを言うの?あなたには何もメリットがないはずだわ。ましてや、デメリットばかりじゃない。あなたは優位な立場から自分自身で劣勢に落とす、そんな馬鹿げたことをなんのメリットも無しにする人ではないでしょう?」


「メリットならあるわ。」



鼻で笑ってしまう。

自分でも馬鹿げてると思うその考えに。


「世の中のらりくらりと生きていけばいい。……わたしたち、いいお友達になれるとは思わない?」


今まで見た純粋そうな笑顔ではなく、悪だくみをしているように笑う彼女は、それはそれで可愛らしい。

きっとわたしの顔もそのようになっているだろうが、彼女と違って意地悪そうな顔をしていることだろう。




ーーー



小学校に入学し、他の生徒とは合わず、本性を隠して微笑むように笑うようになったのはいつからだったろうか。

いや、最初からだったかもしれない。

切れ長な目をしていることもあって、周りからの評価は、大人しく知的なお嬢様であった。


実際、家柄も良く、教育もきちんとしたものだったので、当てはまる部分もある。

決してそういう性格をしている訳ではないが、学校での態度からはそう見られても仕方がない。

また、家では、少し冷めていて手のかからない子供として扱われていたが、どちらも正しい認識とはいえなかった。

といっても、どちらもわたしの要素ではある。

自分自身でも二階堂(にかいどう)杏奈(あんな)という人間はよくわからないものだった。




彼女と仲良くなったその後、わたしはどんな性格をしているか、と聞いたことがある。


「あれだね。何に対しても冷静でいるように見えて、本当は無関心なだけ。冷めてるっていうより、むしろ冷酷な感じだし、一度出した決断は滅多に変えない頑固者だし。」



言いたい放題言われて少し腹を立て、眉をぴくりと動かすと、それを見た彼女は、両手を胸の前でわたわたと降って言い訳をしていた。

人の表情に敏感な癖して、子供のようなその仕草がチグハグだな。

しかし、彼女の言い分は納得してしまうものだった。




「いや、いいところもあるんだよ。人の心に踏み込んでいい境界線とか分かってるし。あ、でも気に入らない人の痛いところは手加減無しにばんばんつくけど…。結局はあれだ、他人のことをよくわかってて、そこから自分に都合よく持っていける人間だよ。」



なるほど。

今まで言われてきた中で一番しっくりくる。

彼女は、将来出世するタイプだね、戦争中なら強大な国を打ち負かす弱小国家の策士だね、とか楽しそうに言う。



「あ、あと。」


重要なことを忘れていたと、ぽんっと手を叩いて、にやっと笑った。

その笑顔は、あの飼育小屋の裏での出来事を思い出させるものだった。





「美人は君の一番いいところだよ。」



つい、ドヤ顔で言い放った彼女をジト目で睨んでしまった。



杏奈ちゃんは本当に美人さんです。

でも小学生にはあまり良さがわからないようで。

那月はモテるけど、相手が小学生だからねぇ。

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