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ブラックホール  作者:
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プロローグ

なんか、この光景見たことあるな。

いや、光景じゃない。人とかいろいろ。

世界感みたいなもの。


わたしは物心ついたときから、そう思うことが多々あった。なにか大事なことを忘れていそうでいないような、なんとももどかしい気持ちになった。

パズルのピースは持っているが、形が全く合わず繋ぐことができないようであった。しかし、繋ぎはじめると完成までの道のりは速いものであった。

頭に流れ込む膨大な記憶。いや、流れ込むというよりかは思い出すと言った方が正確なのだろうか。


そして今、パズルのピースが全て合わさり、理解する。

このとき、わたし、水嶋那月(みずしまなつき)は、5歳であった。





ーーー


わたしは目の前の男の子をぼーっと見ていた。今日は親戚の集まりで、祖父母の家に来ていた。


親戚のなかの子供は、わたしたち二人だけなので、大人達から少し離れた机で、夏休みの宿題をしているのだ。



和風な家の障子は開け放たれ、外から入った風が彼の黒髪を撫でる。

サラサラの艶やかな黒髪は、くせ毛のわたしには、とても羨ましいものであった。


つり目なのに大きくて、叔父さんと叔母さんからいいところだけをもらった整い過ぎている顔は、従兄弟なのに、わたしにはちっとも似ていない。

唯一似ているのは色白ということだけど、わたしの方が白いので、そこは少し誇らしい。




じーっと見つめていたわたしに気づいた彼は、ノートから顔を上げ、そのまま上目遣いでわたしを睨んだ。

いや、なんと可愛らしい。無表情だった顔が緩む。



「ちーちゃん、そんなかわいい顔で見つめないでよ。照れるじゃんっ。」

「はっ、先に見てたの那月じゃん。てか、いい加減かわいいっていうのやめろよ。父さんが男はかっこよくあるべきだとか言ってたぞ。それと、かわいいって言うのは男であってだな、、」


こいつ、ぶりっ子したわたしを、冷たい目で見て鼻で笑いやがった。

昔はあんなにもかわいかったのに、随分と生意気になりましたなぁ。そう、あの頃は褒められてると思って、にこっと笑って、ありがとうって言っていた。

ああ、なんと可愛らしかったことか。


そして、あの頃の知我を奪った一因は叔父にもある模様。くそ、あの爽やか万年スマイル親父めっ!

あれ、けなすつもりが褒めちぎってしまった。



彼は最後にぶつぶつ言っていたが、声が小さくて聞き取れなかった。

どうせ、わたしへの説教だろう。はい、耳ふさぎました。なんにも聞こえませーん。


耳を両手でふさぐわたしを見て、彼は呆れた顔でため息をつき、ノートに視線を戻した。

おい、なんか超むかつく。

なんだその、こいつ仕方ないぜ、へっ、みたいなため息は。

わたし、おこです。わたしの方が実年齢も精神年齢も年上なのに。




そう、実はわたし、前世の記憶があるんですよねー。いや、これまじですよ。

死因はわからないのですが、15歳の中学卒業後までの記憶はあります。あー、せっかく頑張って受験勉強したのに高校行けなかったのが心残りです。

という訳で精神年齢、今の年齢の9歳を足して24歳です、、ん?なんかじぶんでもわかるくらいに精神年齢が24歳に達してない。15歳ともいえる自信がない。

まずったなぁ。ちょっと、考えるの怖いからもうこの話は終了しよう。



そして、あろうことか、今いる世界は前世で読んでいた漫画にそっくりなのです。

そっくりどころか、そのままと言ってもいいでしょう。

設定は前世とほぼ同じで、高校生の男女達の青春ラブストーリーでした。


そして気になるわたしの配役。はい、とても微妙な位置であります。

主人公とメインキャラの恋の進展の原因をつくる役です。つまり、イベント発生させる係ですね。

ちなみに、メインキャラは二人いまして、なんとその内の一人がわたしの従兄弟だったりして。



わたしの行為によって、一人は恋を確信し、もう一人は新たなライバルへの対抗心のため、一層彼女への想いを強めるようです。

そりゃ、従兄弟を応援してますが、最初の方しか読んでなく、完結しないまま死んでしまったようで、結末はしらないのです。


最後に見た巻では、「えっ二人ともわたしのことが!?どうしよう、どっちも好きだわ。選べなーいっ!」的な感じで終わってました。



あの頃は、それに胸を躍らせていましたが、それは漫画のなかのことだから。

いざ、現実に起こると考えると、物申したいことがたくさん。


まず、展開が茶番すぎて笑える。

タイミング良すぎ、主人公に都合よく事が回りすぎ。ま、漫画だからしゃーないけど、これ現実に起こるんだから気がしれない。

そして、なによりも、主人公、おまえはビッチか。二人のどっちかなんて選べなーい、じゃない。そもそも選ぶという観点から間違ってる。



ごちゃごちゃ考えてたら、お母さんからお呼びがかかった。わーい、今日のおやつはチーズケーキだって!

そそくさと立ってテーブルに並べられたケーキのもとへ行く。


後から彼が立ち上がったのを視界の端に入れながら、にこにことおやつを買ってきてくれたであろう祖父母に、感謝の言葉と愛想を振りまく。

やっぱり女は愛想だよね。そして、また買ってきてねの意味も含んでいるよ?



それを嬉しそうに見ている祖父の口から爆弾が投下された。

なにも意図はしてなかったのだろう。ただの孫とのコミュニケーションのひとつにすぎないはずの言葉だった。


そう、宿題ははかどったかい?と聞いた祖父の声に固まってしまったのだ。

やっべ、ちーちゃんを眺めてたのと考え事のせいで一個も進んでないわ。優しそうに裏表のない笑顔の祖父からつい目をそらしてしまう。そこには知我の顔があった。



つい、なにかを言われると思い、顔をそらしてしまう。いや、先ほど真面目に宿題をしていた彼の姿を思い出して自分が情けなくなったからではない、決して。

そっぽを向いたわたしの横顔に彼の気配が近づくのを感じた。


「一文字も書いてなかったよね。」

耳元でそっと呟いた、いつもよりも低い彼の声にビクッとなる。

こいつ、見てやがったか。

わたしにしか聞こえない小さな声で呟いたのはいいが、耳元で呟くのはやめてほしい。

なんか、そう。なんかあまりいい気分ではないのだ。


わたしは睨もうと思って耳元から遠ざかった知我を見た。その判断がいけなかった。

いつもしないにっこりとした笑顔がまたわたしを震えさせたのだった。



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