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魔王と正義  作者: 黒崎累
人間界編
7/12

第七話 魔王VS退魔師 その1

酔っ払いのサラリーマンやOLが店をハシゴする夜の街。そしてネオンが煌めく街のその路地裏。夜の闇に溶け込むように佇むその人物は、手にこの国では違法と呼べる代物を持っていた。人を傷つけない分にはいいが、もしソレが人へと向けられたらこの人物は捕まるべきである。しかし、この人物は人ではなく悪魔にソレを向ける。

曲線美によって描かれた弧が空を切り、黒い影に刃先を向けた。


『ヤ、ヤメロ』


黒い影が路地裏の隅に追いやられ、喉元に剣先を向けられていた。


「残念ながら悪魔に耳を傾ける義理は持ち合わせておりません」

『クソエクソシストガ!』

「何とでも言いなさい。負け犬の遠吠えにしか聞こえません」


暗闇から長剣を持った人物が現れた。闇に溶け込むような黒い服を着た人物は、黒い影の正体である悪魔が言った台詞に嘲笑した。

そして次の瞬間、懐から聖水の入った小瓶を取り出し悪魔にかけた。悪魔は悶え苦しみながら、耳をつんざく様な叫び声を上げ転げ回った。


「後悔しても遅いです。アナタは命を奪い過ぎた」


両手で剣の掴を握り大きく振り上げ、悶え苦しむ悪魔目がけて剣先を振り下ろした。


ザンッ―


夜の街にコンクリートの地面に剣が突き刺さった音が響いた。しかしその音は賑やかな表の街には聞こえない。闇がその音を掻き消した。


「中級悪魔、退魔完了」


全身黒尽くめの人物が剣を鞘に戻した。そして空を見上げる。


「感じる。この街に大きな魔力を・・・」


黒尽くめの人物は再び夜の闇に溶け込むように消えて行った。

後には何も残る事はない。そう、闇以外は―







一日の授業が終わり、特に部活にも所属していない俺と魔王は早々に帰る事にした。魔王は色々な部活に勧誘されているが、大して興味もないらしく断っている。俺としては魔王が何をやらかすか不安なので良かったが、四六時中一緒にいるのも疲れる。


「おいルシフェル。お前たまにはクラスの奴らと帰れよ」

「だがセイギが怒るではないか」

「変な事言わなければ怒らない」

「それは保障出来ぬな」

「少しは努力しようとしろよ」


まあ、期待はしていなかったけど、と俺は深く溜め息を吐いた。横で魔王が幸せが逃げるぞとか何とか言ってるけど、もうとっくに幸せに逃げられているさ。それどころか現在進行形で不幸に見舞われている。

だが俺に幸せが逃げると言った本人も溜め息を吐いた。ていうかこいつが溜め息を吐いた所初めて見たんだけど。


「しかし、こう毎日監視されると疲れるな」

「ふーん、監視ねぇ・・・・・・え?監視?」

「ああ」


魔王の言葉に思考を停止した。監視って誰かに見られているって事か?俺が思わず後ろを向こうとしたら、魔王に振り向くなと制止された。


「何だよ監視って」

「後をつけられている」

「え、ちょ、マジですか」

「2日前からだ」

「お前のファンじゃね?」

「いや。それにしては気配を消すのが上手すぎる」


気配を消すのが上手いって・・・ま、まさか殺し屋とか?いや、でも狙われる理由何て思い当たらないし。


「でもほら、例えば気配を消すスキルを持つファンとか」


自分で言ってアレなんだが、どんなファンだよ。そんなファン普通はいないし。いや、いるかもしれないけど、いない事を願おう。


「この気配は違う」

「え?気配で分かる訳?」

「ああ」


今サラッと凄い事言ったな。あ、コイツ魔王だった。ハハッと笑うと魔王に行き成り右手を掴まれた。


「こっちだ」

「え、ちょっ」


魔王が俺を引っ張りどんどん先に進んで行く。するといつも通らない道を進みだした。


「撒くぞ」


わかった、と俺は目で返事した。暫らく二人とも無言で歩き続け、角を曲がった所で走り出した。後ろから慌てて走り出す足音が聞こえる。うわ、マジでいるよストーカー。

美形は大変だなぁ、と思っていると魔王が指を鳴らした。しかし特に変化はなく魔王は何故か走るのを止めた。


「おい、逃げなくて「シッ」・・・」


魔王に逃げないのかと聞こうとしたら、人差し指を口元にあて、静かにしろと言ってきた。足音が近くなり俺は息を飲んだ。そして角から現れた人物に呆然とした。


「見失った・・・」


何と俺達を付けていたのは、腰まである黒髪のセーラー服を着た美少女。セーラー服より着物が似合いそうな子だ。少女はあからさまに落ち込むと、来た道を戻って行った。

隣にいる魔王に目をやると、魔王は何故か厳しい目つきで見ていた。


「何であの子は見失ったって言ったんだ?俺達目の前にいたのに」

「ああ、透明になる魔術を使った」


なら最初から使えよと思った。しかし大人しそうな子だったな。それに結構可愛いし。俺がそう言うと魔王が意外そうに訊いてきた。


「セイギはああいう娘が好みなのか」

「いや、好みって言うか単に可愛いって思っただけだし。それにしてもあんな大人しそうな子がストーカーとかするんだな。いや、案外大人しそうな子がストーカーとかするのか?」

「・・・」


俺が考えていると魔王は難しい顔をしていた。珍しいこいつがこんな顔するなんて。


「あの娘・・・もしかしたら・・・」

「ん?知り合いか?」

「いや、そう言う訳ではない。だがまだ確信が持てない。まあ確信した所で特に害はないのだが」


魔王はブツブツと何か言いながら歩き出した。大丈夫かあいつ、と思いながら魔王の後を追い家に帰った。




そして次の日。

魔王と一緒に登校し教室に入ると、また皆それぞれ固まって何か話していた。しかしルシフェルに気付いた女子がルシフェルとついでに俺に挨拶してきた。そして俺達に気付いた翔太と陽一がこちらにやって来た。


「おはよ」

「おはよー。何かあったのか?」

「何かね、また転校生みたいだよ」

「ハハハ・・・またか」

「しかも今度の転校生は女子らしいぜ」

「また島崎が発信源?」

「うん」


そうかまた転校生か。いや、今度の転校生は前から決まっていた筈だから、本来はまたではない。魔王がいなければ皆が集まって何か話している光景も、島崎が偵察に行くのも一回だけで済んだ筈だ。俺はアハハハと乾いた笑いを漏らした。


暫らくしてから諏訪先生が来て出席を取り始めた。そして皆がお待ちかねの転校生を紹介する時がやってきた。


「え~。皆もう知っていると思うが、転校生がいる」


諏訪先生が島崎を見ながら言った。島崎は満面の笑みで諏訪先生を見た。どうやら諏訪先生は島崎が皆に報告していると知っているらしい。


「じゃあ入ってきてくれ」


諏訪先生がそう言うと教室の扉が開き、廊下から転校生が入って来た。皆は転校生が美少女なのを驚いているであろう中、俺は別の意味で驚いていた。何と転校生は昨日のストーカーの子だったからだ。俺は魔王に話しかけた。


「お、おい。あの子昨日の」


魔王は大して気にしてないらしく「そうだな」と言っただけだった。まさか魔王を好きすぎるあまり転校してきたとか?だとしたらすごい行動力だ。あれ、こういう場合は怖いと言った方がいいのか?

諏訪先生が黒板に転校生の名前を書いて、転校生に自己紹介を促した。


「初めまして、一条環(いちじょうたまき)と言います。皆さま宜しくお願いします」


見た目を裏切らない丁寧な自己紹介に男子はテンションが上がり、女子はお嬢様かな?とかライバルが増えたわとか言っている。


「え~、一条の席は・・・呉羽の後ろが空いているな」


は?と俺は後ろを見た。そこにはいつの間にか用意されている机と椅子。気付かなかった。あれ?さっき置いてあったっけ?

俺が思い出そうと考えていると、頭の上に影が落ち顔を上げた。そこにはいつの間にか転校生がいて丁寧にお辞儀してきた。


「よろしくお願いします」

「あ、うん。よろしく」


転校生は隣の魔王にも挨拶をして静かに席についた。魔王は転校生を一瞬見たがそれ以来視線は黒板に向かっている。やっぱりストーカーが気になるのか?まさか逆に惚れたとか?


ホームルームが終わり恒例の質問タイムがやって来た。皆転校生の所に集まりワイワイと話している。女子よりも男子が多いのは仕方がない事だ。何せ相手が美少女だからな。そして俺はそれを翔太の席から見ていた。ほら、俺って人ごみとか苦手だから。陽一は一目惚れしたらしく、ホームルームが終わったら真っ先に転校生のもとに来ていた。あいつの一目惚れ体質は一生治らないな。


「何処から来たの?」

「京都からです」

「へ~。でも訛りとかないね」

「中学生までこちらに住んでいたんだけど、家の事情で京都に引っ越したんです。それでまた家の事情でこちらに戻って来たんです」

「敬語じゃなくていいのに」

「ついクセで」

「じゃあ徐々に直していけばいいんじゃない?」


姿勢も良く言葉づかいも良いし、終始笑みを絶やさない。本当にお嬢様みたいだ。転校生が茶道や花道をしているのを想像したのは俺だけではあるまい。


「綺麗な子だね」

「お、翔太もしかして惚れた?」

「そういうセイギはどうなのさ」

「俺は単に綺麗だなって思っただけ」


それにあの子魔王のストーカーだしとは言えずにいた。もしその事をクラス中の男子が知ったら、彼らを絶望のどん底へ突き落とす事になるだろう。



そして一日の授業が過ぎ放課後。俺と魔王は昇降口の下駄箱にいた。周りに人気はなく、静まり返っている。

魔王が図書室で何を借りるか迷っていたから遅くなってしまった。俺は腕時計を見て溜め息を吐いた。もう4時50分だ。


「次からは何を借りるか決めてから借りろよ」

「仕方がないではないか。どれもこれも読みたいものばかりなのだから」


魔王がそう言いながら下駄箱を開けた瞬間、中から何かがするりと落ちてきた。魔王がそれを拾うと白い封筒で宛名に「ルシフェル君へ」と書かれている。またラブレターかよと俺は魔王を小突いた。


「お前も罪作りな奴だなぁ。一体何人の女子を虜にしたんだ?」

「・・・これは・・・」


魔王はいつものように惚けた顔ではなく、真剣な表情で封筒を開けた。そして三つ折りにされ入っていた一枚の紙を広げた。魔王はそれを見た瞬間厳しい顔つきになった。何が書かれているか見ようとしたら魔王はそれを勢いよく破った。


「あ!おい!何してんだよ!」

「・・・セイギ。先に帰っていてくれ」

「は?お前何言って・・・あ、もしかして今から会いに行くのか?」


俺がそう言うと魔王はニコリと微笑んだ。だけどその笑顔に違和感を覚えた。


「そうだ。4時30分頃体育館裏で待っていると書いてあった。もう過ぎているが行ってくる」

「そ、そうか」


俺は体育館裏へ向かう魔王を見送った。しかしあの時感じた違和感を無視することが出来ず、俺はある程度距離を保ちながら魔王の後をつける事にした。


俺は物音を立てないようにそっと体育館の角から覗いた。そこには魔王が背中を向けて立っていた。俺は告白してきた相手は誰だろうと見て驚いた。声を出さなかっただけマシだろう。


何故なら魔王の前には今日、俺達のクラスに新しく加わったあの転校生がいたからだ。


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