第六話 四人の秘密
すいません。最後の方を少し訂正と書き加えました。
今日は土曜日。学生である俺はもちろん休みだ。母さんはお隣さんと出かけていて、夕方には帰ると言っていた。
今日は久しぶりにゆっくりするか。等と考えていると携帯が鳴った。翔太からだ。
「もしもし?」
『あ、セイギ?おはよー』
「はよー。どうしたんだ?」
『今日暇?遊びに行かない?』
今さっき、今日は家でゆっくりまったりしようと決めたんだけど、ま、いっか。
「いいけど」
『よっし、じゃあ決まり!あ、陽一もいるから』
「お前らはセットなの?」
『細かい事は気にしない。じゃあ駅前に10時集合ね。あ、ルシフェル君も連れてきなよ』
翔太はそう言うと一方的に通話を切った。俺に拒否権は無い訳ね。
仕方なく俺は魔王の部屋に行き、ドアをノックして返事も待たずに勝手に開けた。魔王はパジャマのままベッドの上で呆けていた。何てマヌケ顔なんだと思いつつ、魔王に声を掛ける。
「おーい、ルシフェル。起きてるか?翔太が遊ぼうって誘われたから行くぞ」
「・・・うむ・・・分かった」
魔王は返事をすると指をパチンと鳴らし、一瞬で着替えた。
「お前朝苦手なのか?」
「うむ・・・」
「でも、いつも俺より早く起きてるだろ?」
「早く起きて今みたいにぼーっとしているからだ」
「お前も低血圧か」
魔王を急かしてリビングに行き、朝食をとり始めた。ちなみに我が家の朝食は平日が米で、休日はパンだ。
それから準備をし、戸締り火の元の確認をして駅に向かった。
最近は動くと暑くなる陽気が続き、夏が近いと感じ始めていた。だが今日は風が吹いているので暑くはならなさそうだ。
魔王と他愛のない会話をしているとあっという間に駅に着いた。駅前は人や車が行き交い、俺はこの喧騒から一刻も早く逃れたくなった。
それに魔王の事もある。この容姿に行き交う人が皆魔王を見て顔を赤らめ、つい先程も逆ナンに遭った。勿論、魔王は丁重にお断りしていたけど。
そんな魔王への視線もあってか、人酔いという特性を持つ俺は早くも挫折しそうになっていた。特性って、ポ○モンかよ俺!と自分でツッコミを入れながら。
「・・・気持ち悪ぅ」
「大丈夫か?」
「俺、人ごみとか駄目なんだよ・・・人酔いってやつ」
「人酔い?聞いたことないが。気持ちが悪いなら余が魔術を掛けようか?」
魔王はそう言うと俺の目を手で隠した。行き成り視界が遮られ俺は対応出来ずにいたが、気持ち悪くならないなら、と素直に受け入れた。そして直ぐに魔王の手が退き、気分がスッキリしている事に気付いた。
「どうだ?」
「おお~なんかいい感じ」
「酔い止めの魔術だ」
「薬より効き目が早くていいな。というかそんなのもあるのか」
「そうだろう?魔術を使いたくなったか?」
確かに魔術が使えると便利だし、楽しそうだ。魔王の魔術を見て魔術を使ってみたいと思った。でも、あれから考えた。魔術を使えるようになったら魔術にばかり頼る駄目な人間になるような気がした。人として駄目な人間にならないという自信は、はっきり言ってない。注意してればそうならないだろうけど。
だけど、俺は・・・
「やっぱりいいよ。俺には必要ない」
「何故だ?」
「別にこの世界では魔術が無くたって生きていけるしな」
「でも、あると便利だぞ?」
「あったらあったで、きっと俺は魔術に頼り切って駄目な人間になりそうだから」
俺が断ると魔王は黙りそれから勧めてこなくなった。
多分納得はしていないだろう。こいつは魔王だ。魔術を使う事が普通なのだから。
「そうか・・・。でも、もし魔術が使いたくなったら言うんだぞ。等価交換で契約が成立するのだが、これじゃ契約にならないではないか」
「そうさせてもらうよ。使いたくなるかどうかは分からないけど。それに、別に目的があってお前を召喚したわけじゃないって言っただろ?」
あれは不慮の事故だ。それは断言出来る。決して俺が望んで呼んだ訳じゃない。
それからあまりの遅さに俺がキレかけ魔王がなだめていると、ようやく翔太達がやって来た。10時は20分前にとっくに過ぎている。
「悪りぃー、遅くなった」
「・・・そっちが誘ってきた癖に遅れるとはいい度胸じゃないか。しかし俺は優しいからな。理由は聞いてやろう。7文字以内で答えろ」
「陽一が寝坊した」
「だろうな」
「え?酷くない?なぁ?ルシフェル!」
陽一は魔王に泣きついた。しかし魔王は笑顔で陽一の両頬を強く引っ張り始めた。どうやら魔王もご立腹のようだ。
「いひゃい・・・」
「お前が悪い。という事で、昼は陽一のおごりな」
「ひひょいっ(ひどい)!」
それから適当に街をブラブラ歩いて、昼飯は半分は陽一のおごりで食べた。俺もそこまで鬼じゃないからな。でも半分ぐらいならいいだろう?
そしてその後カラオケ行ったり、ゲームセンターに行ったりして楽しんだ。
もちろんその都度、魔王が奇怪な行動を起こしたりしたのだが、そこは何とかカバーした。翔太達に変人だと思われていませんように、と願いながら。
そして今、ゲームセンターでシューティングゲームで遊んでいる。翔太と魔王でどちらが多く点数をとれるかで競い合っている所だ。するとどこからか怒鳴り声が聞こえてきた。罵り合っているような感じだ。
「向こうで喧嘩してるようだ」
陽一が偵察から帰ってきてそう言った。て、お前いつの間にいなくなっていたんだ?
すると翔太が「またか」と溜め息を吐いた。
「最近多いよね」
「そうなのか?」
「どっかのグループと島争いしてるっつー噂」
「へぇ~」
俺は大した事ではないと聞き流した。むしろ関わることなど無いだろうと思っていた。この時までは・・・
その後、魔王と俺が交代して翔太と対戦する。しかし夢中になりすぎて魔王の存在をすっかり忘れていた頃にそれは起こった。
「よー兄ちゃん達。ちょっといいか?こいつお前らのおトモダチだよなぁ~?」
金髪の男が魔王の首根っこを掴み俺達に差し出した。男は口に二つピアスをつけた、がたいのいい男だった。
俺は魔王を見て心の中で、何したわけ?と叫んだ。
翔太は男達に下手に出て相手に対応した。こういう輩は怒らせた面倒だからだ。
「そうですが。何かしましたか?」
「こいつが俺の女に手を出したんだよ」
「余が出した訳ではない。向こうから話しかけてきたのだ」
魔王は臆することなく男に反論した。男は額に青筋を浮かべ、今にも魔王に殴りかかろうという気迫だ。俺はお前は黙ってろ!と魔王を睨みつけた。
「どう落とし前つけてくれるんだぁ~?」
男はギロリと俺達を見てきた。落とし前と言われてもなぁ。どうする?と翔太と陽一に目線を送った。二人も面倒くさそうな顔をしている。俺だって面倒な事は嫌いだ。
どうしようかと考えている俺達の思いを知ってか知らずか、魔王が行き成り男の腕を掴み、華麗な一本背負いを披露した。不意打ちに男は受身を取れず、その衝撃でぐったりとして動かなくなった。多分気を失ったのだろう。
その場に気まずい雰囲気が流れる。
しかし、男の連れの一人がハッとして、怒鳴り散らかしながら魔王に殴り掛かってきた。
魔王はそれを難なく避け、それを合図に男達が一斉に魔王に殴り掛かる。俺や翔太と陽一にも殴り掛かってきた。魔王はそれを目の端で捉え左手を差し伸べた。
「邪魔だ」
俺が止める暇もなく魔王は左手を振り払う様な仕草を見せた。そして次の瞬間、俺達の周りに薄い光の壁が出き、男達は壁に当たり弾き飛ばされた。壁は一瞬で消え、翔太と陽一は男達を見てから魔王を凝視した。再びその場に気まずい雰囲気が流れる。
すると騒ぎを聞きつけた店員が来るのが分かり、俺は魔王の腕を掴みゲームセンターから逃げだした。当然その後を翔太と陽一が追ってくる。
ゲームセンターから5分位の所にある公園のベンチに座り息を整えた。土曜日なのもあってか家族連れが多く見られる。
魔王も同じく俺の隣に倒れるように座った。そして暫らくしてから翔太と陽一がやって来た。
「・・・セイギ・・・さっきの・・・」
翔太が気まずそうに訊いてきた。
遂に話す時が来たか。と俺は腹を括って翔太と陽一に向き合った。
「ルシフェル。話すけど・・・いいよな?」
「余は別に構わないが?」
俺は深呼吸してから二人に話し始めた。ルシフェルが魔王である事。そして俺が魔王を召喚した事。魔王の願いを聞き入れ、一緒に住んでいる事を。二人とも俺の話に口を挟むことなくじっと聞いてくれた。
「まさか、ルシフェルが魔王とか・・・」
「いや、でもさっきの見れば理解出来るだろ?」
陽一が「確かに」と言って魔王を見た。すると魔王は陽一を見て呟いた。
「余が怖いか?余が魔王だと怖いか?」
何時にもなく弱気な魔王に俺は少し驚いた。寂しそうな顔をしている。初めて一緒に学校に行ったあの時のように。
そんな魔王を見て二人は顔を横に振った。
「な訳ないだろ?ルシフェルが魔王だとしても、俺達がルシフェルを怖がる理由はない!」
「そうだね。ルシフェルは僕達に危害を加えないし、加える事はないと分かっているよ。だって、友達だから」
「・・・礼を言う。ありがとう、翔太。陽一」
二人の台詞に魔王は嬉しそうに微笑んだ。。もしこの場に女子が居たら絶対悩殺される様な微笑みだった。
「というかさ、セイギも黙ってるとか水臭いよな」
「そうだね。酷いって言うか、セイギは何事にも慎重すぎるんだよ。大体さいつも一人で何とかしようとするし」
二人が標的を俺に変え俺の悪い所を上げだした。
「仕方ないだろ!行き成り「こいつ魔王なんだ」と紹介したら頭がおかしい奴と思われて、精神科に直行だぜ?」
俺が声を上げて反抗すると、二人は顔を合わせて俺に詰めよった。
「だからって、こんな重要な事を一人でどうにか出来ると思っているのか?俺が言うのもなんだけど、絶対無理だと思う」
「セイギじゃ絶対に無理だよ。いつか絶対ボロを出す」
「言いたい放題だな・・・」
二人に指摘されたが、確かにこの先俺一人でやっていけるか心配だった。誰にもばれないように。誰にも迷惑かけないように頑張ろうとしたけど、さすがに限界がある。
俺が黙って俯いていると、陽一が俺の肩をポンと軽く叩き、目線を合わせるようにしゃがんだ。翔太は俺の隣に座り、俺の肩に手を置いた。
「親友なんだから、俺たちにも協力させろよ」
「仲間が多いと、いろいろと助かると思うしね」
お前ら・・・
俺は俯いて考えた。迷惑を掛けるのは気が引けるけど、仲間は多い方がいい。そうすれば俺の負担もストレスも減る。魔王だって俺以外にも気兼ねなく話せる相手が必要な筈だ。
それらの考えを一瞬でまとめ、俺は二人に協力してもらう事にした。
「じゃあ、頼もうかな?なぁ、魔王」
「余はいいぞ?翔太も陽一も余にとって大切な友達だからな」
魔王がそう言うと翔太と陽一は魔王に抱き付いた。
「ルシフェル!お前いい奴だな!」
「俺たちにとっても、ルシフェル君は大切な友達だよ!」
「翔太!陽一!」
三人は涙を流し合った。俺はその光景を他人のフリをして見ていた。
何故なら周りの視線が痛いからだ。家族連れは「ママー。あれ何?」と子供が質問すると「青春よ!青春!」「俺も若い頃は・・・!」と母親と父親がいきり立ち、散歩中であろう老人は、「若いっていいわね~」「本当じゃな~」とほのぼのと俺達を見送っていた。
さすがに恥ずかしくていたたまれなくなり、俺は一人でその場から逃げるように歩き出した。三人はまだ抱き合っていたが、俺がいないと気付くと後を追って来た。
「何だよセイギ。先に一人で行くなんて酷い奴だな」
「協調性がないよ」
「グループ行動が苦手なんだな」
三人の文句に俺は後ろを振り向いた。
「少しは周りを気にしろよ。見てるこっちが恥ずかしい!」
TPOを考えろ!という俺の叫びが公園に響いた。しかし、陽一はきょとんとしていた。
「何で恥ずかしいんだ?」
えぇー。何この人。この人羞恥心というものが無いのー?と、俺が引いていると陽一は「ま、いっか」と言って魔王と肩を組んだ。
「俺達だけの秘密だな!」
「そうだな!四人の秘密だな!」
四人の秘密。俺はその言葉が怖くなった。余計な仕事が増えそうな気がして、この先が心配になってきたからだ。未来なんて誰にも分からないけど、嫌な予感しかしない。
でも、これでよかったのかもな。俺の気も少しは楽になったし。
俺は三人を見て顔をほころばせた。
読み返して終わり方が納得いかなかった為書き直しました。