第十一話 体育祭 その2
昼休みが終わり、生徒がぞろぞろとグラウンドに戻って来た。
点数番を見ると赤組は今2位。白組が1位で白組とは15点差だ。その後に青、黄色と続く。
午後の部の一番初めのプログラムがアナウンスされる。午後の部最初の競技は応援合戦。各色ごとにパフォーマンスをするのだ。
赤組は体育祭前の順番決めで最後にパフォーマンスをする事となった。
今は赤組の前の白組がパフォーマンスをしている。歌ったり、踊ったり。団長の白木は俺達赤組に負けないよう張り切っているみたいだ。
魔王は応援団と共に着替えに行っている。応援団といったら学ラン、と言う事で女子が盛り上がっている。きっと魔王が学ランを着た所でも想像しているんだろう。
「おーいセイギ~」
入場門で待機していると翔太と陽一がニヤニヤしながらやって来た。
「何だよその嫌な笑みは・・・」
「さっき学ラン着たルシフェルを見たぜ」
「うん。すごい似合ってた」
「ああ、女子が盛り上がっているからな」
「いいよな学ラン。俺も学ラン着たかったぜ」
「仕方ないよ。うちの学校はブレザーなんだから」
だから余計に女子が盛り上がるのか。
すると後ろの方からざわめきが聞こえてきた。「カッコイイ!」とか「すげー」とか黄色い叫び声が聞こえてくる。
「あ、ルシフェルだ」
陽一が人垣の向こうを探る為背伸びした。すると人垣が割れ、学ランを着た魔王が目の前に現れた。応援団で使われている学ランは上着の裾が長く、太ももの丁度真ん中位の長さだ。頭には赤い鉢巻が巻かれ、手には白い手袋をしている。
「どうだ?似合うか?」
魔王は何故か自信満々に訊いてきたので俺は素直に頷いておいた。
ああ。似合うよ。イケメンは何着ても似合うよコノヤロー!
すると団長が魔王を呼んだ。ルシフェルは返事をして応援団のもとに向かう。
周りを見ると、女子は皆夢心地で魔王を見ている。皆の目がハートに見えてきた。
白組が終わり、トリを飾る俺達赤組は入場し、それぞれ位置に着いた。旗を持った団員が大きく旗を振る。旗には白い生地に大文字で『赤』とかかれている。
団長の掛け声とともに応援団がよく目にする応援団の演武をし始める。
それから一生懸命練習してきたダンスを披露する。今流行りの曲に合わせてリズムよく踊りだす。そしてそのダンスに使用する小道具をポケットから出した。白い扇子に赤い文字で『赤』と描き、それを踊りながら翻させる。
応援団が旗を翻し、団長が声を上げる。その中で魔王が華麗に舞い、それを他の組の女子がカメラで録画しているのが見えた。赤組の女子は私達も見たいのに!と悔しそうにダンスを踊る。
そして最後に団長の掛け声と共に応援合戦は終わった。退城門から出てきた俺達を待ち受けたのは女子たち。みんな魔王目がけて集まりだす。魔王は驚いた表情もせず女子たちに応える。
「うわー。相変わらずだな」
「うーん。ちょっと可哀想・・・かな?」
「あれが可哀想だと!?羨ましいって言うんだよ!」
陽一が悔しそうに地団駄を踏む。諦めろ陽一。アレに勝とうなんて無理だ。
すると女子から逃げてきた魔王が溜め息を吐いて汗を拭った。
「つ、疲れた・・・」
「おお、お疲れ」
「着替えてくる」
「うん。じゃあ僕らは応援席にいるから」
魔王は疲れた顔をして更衣室に向かった。少しその背中に不安を覚えたのは気のせいだろうか。
応戦席に戻った俺達は魔王達応援団が戻ってくるのを待っていた。次の種目はパン食い競争。俺達4人は誰も出ないのでのんびりしていた。
「あ、団長達戻って来たよ」
翔太が校舎の方を指差すが、その中に魔王の姿は見えない。戻って来た団長に訊いてみることにした。
「あの、団長。ルシフェルは?」
「ああ、ルシフェルなら女子に呼ばれてついていったぞ?」
そう言った団長は旗を持って応援の準備をしだした。
女子に呼ばれてついて行ったって・・・。
「また告白かな?」
「ルシフェル~!俺にもその運を分けてくれ!」
「でも陽一は分けてもらっても有効に使えそうにないよね」
「どういう意味だ翔太?」
馬鹿だ。馬鹿がいる。
しかし、大丈夫だろうか。何度も告白をされている魔王だから心配はいらないと思うけど。何か胸に引っかかるんだよな・・・。
「あ、始まったよ。パン食い競争」
「そういえば次は騎馬戦じゃん!ルシフェルまだかよ」
「ったくしょうがない・・・俺ちょっと見てくるよ」
二人に見送られ、俺は校舎の方に向かった。遠くで爽快な音楽が鳴り、歓声も大きくなっていく。
グラウンドに一番近い更衣室に向かったのだが、魔王の姿はどこにもない。
告白と言ったら中庭とか?と考え中庭に向かってみた。誰もいない中庭はしんと静まり返り、人目に付かない場所を探した。
すると・・・
「・・・だからすまない。余はそなたと付き合えない」
告白を受けている真っ最中であった。
そっと近づいて建物の角から窺う。魔王はこの間の一条さんと同じような配置にいて、こちらに背を向けている状態だ。向かいには先程の借り物競走の時の女子がいる。
「何で?何で駄目なの?こんなに好きなのに・・・愛しているのに!」
ええと・・・いいのかなぁコレ見ていて。何か罪悪感を覚えるから去った方がいいかな?でも次は騎馬戦だから出なきゃいけないし。
「余は誰も好きになってはいけないのだ」
「どうして?どうして誰も好きになっちゃいけないの?もしかして親に言われたとか?」
そりゃあ魔王だから何て言えないし。
あいつも魔王何だから許嫁とか婚約者みたいなのいないのか?
「余は・・・すまない。言えない・・・」
「誰か好きな人でもいるの?いないなら、それなら私でも・・・私でもいいでしょ?これから私を好きになればいいじゃない?ね?」
「・・・」
「だって・・・貴方が誰かのモノになるなんて、嫌だもの!」
女子の質問に魔王は応えようとせず、視線をそらした。
何故か分からないけど、彼女の言葉が不快に感じた。二人の間に割って入って、女子に何か言いたくなったが、何を言いたいのかよく分からない。
しかし、このままじゃ埒が明かない。しょうがない。手助けしてやるか。
「おーい!ルシフェル~」
わざと遠くから声を掛けて、俺は今来たと装う。俺に気付いた魔王が驚いていた。
「セイギ?」
「うお!まさか、告白の真っ最中だったか。・・・あ~すいません。こいつ次出場で、団長に探して来いと頼まれたものですから。連れて行っていいですかね?」
団長に頼まれたなんて嘘。こう言った方が俺は仕方なく来た訳で不可抗力だとアピール出来る。しかし女子は何も言わず俯いたままだ。
「じゃあ連れて行きますね~失礼します~」
魔王の腕を掴みその場を素早く立ち去った。その際後ろから何か聞こえたが気にせず走り続けた。
更衣室の前まで戻って来た俺達は息を整え、歩きながらグラウンドに向かう。
「すまないセイギ。助かった」
「モテる男はつらいな。それにしても彼女えらく粘っていたな」
「うむ。余もどうしようと考えたぞ。最悪の場合記憶操作の魔術を使おうかと考えた」
「やめんかい」
告白を沢山経験している魔王が苦戦しているのは初めて見た。告白自体はそんなに見た事はないが、見た限りでは今日が初めてだ。
「所でさ、お前婚約者とかいないわけ?」
「婚約者?うむ・・・そういえばいた様な気もするが・・・」
「やっぱりいるのかよ!それを理由に断ればいいじゃねーのか?」
「いや、しかし。まだ決まった訳では」
「決まってなくても、断る理由にはなるだろ?相手がいるんじゃ告白しようとする女子も諦めるだろうし」
「そういうものなのか?」
「ああ。噂っていうのは、あっという間に広がるからな。特にお前関係は」
なるほどと魔王は納得したようだ。
それにしてもさっきから寒気がするんだが・・・何なんだろうか。
「呉羽・・・正義・・・」
アイツ ガ 邪魔者 カァ?
中庭に取り残された少女が呟くと何処からか声が聞こえてきた。すると少女の肩に蝙蝠の様な黒い羽根を生やした生き物が現れた。
「ええ・・・いつもルシフェル君の隣を独り占めしている・・・邪魔者・・・」
ケケケ! ソウカ ナラ 俺ガ 『力』ヲ 貸シテヤロウ
オ前ノ 願イヲ 叶エテ ヤルヨ
少女はニヤリと口を歪めた。