廃棄された機械少女、拾ってくれた恩返しに最強の『減らず口』で返り討ちにしてやります
真っ昼間の、太陽の猛暑が降り注ぐ公園の中。
私はベンチに座るのでなく、土の上に寝転がって日光浴をしていました。
……鳩に、襲われながら。
それは遡ること数分前の出来事です。
とてもとても暇していた私は、ベンチにてまったりと風を感じていました。
瞼を閉じてると、あまりにも日差しから心地良さが伝わってくるものですから、ついうとうとしてしまいます。
本来の私なら、務めなくてはいけないお役目があるのですが……。
もう廃棄処分が決定された役たたずのポンコツオートマタには、関係のない話です。
今はマスターもいませんし。用済みの烙印も押されてしまいましたし。
つまりは、ぜーんぶ投げ捨てて自由にしてもいいってことですよね!
ベンチで一息ついていた私の元に、鳩が近づいてきました。
餌を貰いに来たのかもしれません。
「あいにく、私は手ぶらでして。餌が欲しいのなら、おいしい香りを漂わせる人の元に行かないと頂けませんよ?」
私の言葉に、鳩は踵を返していきます。
鳩の気持ちはわかりませんけれど、その後ろ姿はどこか悲しげに見えました。
「ごめんなさい。わざわざハズレを選んでしまうとは、その持ち前の嗅覚はお飾りなんですね〜?」
かわいいなあ。なんて、そういう思いから口にした言葉だったのですが……。
離れていこうとした鳩が、立ち止まります。
そして、私を睨みつけてきた次の瞬間。くるっぽーという怒号をあげながら、怒り狂ったように羽をバタつかせて私に飛びかかって来ました。
「びゃあああっ!?」
あまりにもびっくりしてしまって、鳩の攻撃を避けようと身体を捻れば、ベンチから転がり落ちてしまいます。
土の上で、空を見上げながら大の字になる私。
怒り心頭中の鳩が、腕を突いてました。
以上が、襲われることになった経緯です。
私、人間じゃありませんし。
身体は機械でできているため、とても頑丈なので。この程度の攻撃なんかじゃ、まったく痛みは感じませんけど。
左側の胸が、なぜかズキリと苦しくなるのでした。
「自律型対人間用戦闘人形。通称、カランコエ。ここに撃沈です……」
せっかくのかっこいい肩書きを与えられているのに。こんな鳩に負けてしまうほどに情けない私には、きっと涙を流していることでしょう。
「どうしてか、いつも怒らせてしまいますね……」
なにがダメなのかもわかりませんと、改善することもできませんから。
私は、今まで深い関わりをしてきませんでした。
唯一あげられるのが、数ヶ月前まで私のマスターだったあのお方です。その人とは、もう疎遠になってしまいましたし、私は行方も知らないほどでした。
ため息が落ちます。
もっと、誰かと仲良くできれば良かったのですけどね……。
その時。カツン、と土を伝って音が聞こえました。
そんな音に驚いたのでしょうか。
鳩はハッと顔を上げて、そのまま飛んで行ってしまいました。
「……また、逃げられちゃった」
顔を傾けると、立っていたのはしゅんと哀愁を漂わせるひとりの女の子でした。仰向けになっている私の方向に身体が向いているので、音の正体で間違いないと思いますけど。
鳩が飛んで行ってしまったことが、悲しいのでしょうか?
目が合います。
眠そうな瞼をしているせいで、私をじっと見つめ続ける女の子の瞳が隠れてしまいそうです。まるでガラスのようにとても透き通っているのに、もったいないと思いました。
「なに、してるの?」
女の子は歩み寄ってきて、鳩の代わりに私の頬を突き始めました。
先程と違って、だいぶ優しめです。
「鳩と戯れてたんですよ。餌は持ってないよとお話していたら、怒らせてしまったみたいでして」
「それは、襲われてるだけだと思う」
「頑丈な私にとっては、かわいい戯れでしかないのです!」
そう言葉にしていたら、つい自慢げな顔を浮かべてしまいました。
でも、事実なので。機械であるこの身体をいくら攻撃されようと、鳩ぐらいじゃ傷は付けられません。
ふふん。改めて認識してみれば、誇らしくなってしまうようです。
「一緒に、日光浴しますか?」
良い気分になれたので、私は問いかけてみました。
「鳩が去ってしまった時に、悲しんでいましたよね。寝転がっていたら、戻ってくるかもしれませんよ?」
「……戻ってこないよ」
けれど、即答でした。
あっさりと否定されてしまい、私も返す言葉が見つかりません。
そうですよね。おいしい物、持ってませんし。
「それに……。服が、汚れちゃうから」
慌てたように、女の子が声をあげます。
言葉のない時間が、お嫌いだったのでしょうか。困ったように、瞳を曇らせてしまいました。
これは、とんだ失礼を。
相手の嫌がることをするなんて、仕える立場の者の行いとして最悪です!
「洗えば落ちるのに、嫌なんですね」
「うん。汚したら、日が暮れるまでお説教になる」
聞いて、驚きました。
人間って、そんなに泥を付けることに対して厳しく罰するのですね。
私は、急いで上半身を起こします。
「た、大変です! それなら私は、日が暮れるどころか、一生お説教されてしまうかもしれません!」
「確かに、服も髪もボロボロだけど……」
つむじからつま先まで、女の子の視線が嵐のように駆け抜けていきます。
こう見えて。ご、ゴミ箱生活をしていた身ですので……。
あまり見られると、汚いことに目が向かってしまうといいますか。
「焼きそばパン、食べる?」
突然、そんな問いかけをされた意味がわからず、私は首を傾げます。
「私は機械ですので、お食事をする必要はないですよ?」
「……機械?」
「はいっ! 私は学者さんたちによる最高峰の技術で秘密裏に作られた、対戦闘用人形でして」
「怖いことも、あるんだね」
「あ、安心してください。私はもう用済みとして捨てられた身ですし、あなたを害することもしませんよ」
怖がらせないように、私は補足しておきます。
というより、元より私はポンコツだったので。誰かを害することができるような、戦闘能力は持ち合わせていませんけど。
女の子は、パンを手にしながら肩を竦めました。
やはり、怖がらせてしまいましたかね? ここは、一度話を戻しましょうか。
「それ、あなたの大事なパンなのですよね。美味を味わえなくて損じゃないですか?」
「だって、とってもボロボロだから。そんな生活してたら、気づいてないだけで、心はへこんでたりする」
なんて、心の澄んだ人なのでしょうか。瞳だけではなく、心まで透き通っているとは。
感服してしまいます。
せっかくのご厚意だって、無下にしては悲しくなりますよね。
それなら、私は素直に甘えさせていただくまでです。
焼きそばパンを受け取った私は、遠慮することなくかぶりつきました。
口の中にたっぷり広がるソースの旨味が、舌の上で転がります。
味覚機能が備わっていて良かったと、私を生み出してくれた人に感謝する思いです。
「こんなおいしい物を持っているのに、鳩に逃げられちゃうんですか?」
あの鳩。本当に嗅覚がお飾りなんでしょうか。
「……私は、嫌われ者だから。鳩にだって、逃げられてばかり」
嫌われ者……?
私にパンを恵んでくれるような優しい人が、ですか?
「ちょっと、すずね〜? なに道草を食ってるのよ」
公園の入口方面から、尖った声が聞こえてきます。
突然、割り込んできたその声に、私は思わず視線が吸い寄せられてしまいました。
「お知り合いの方でしょうか?」
「……うん」
肯定が返ってきたように、新たに現れた女の子はすずねと呼ばれた子と同じ服装をしており、その見た目からも歳は同じぐらいだと推測できます。
なるほど。
人間には、服をお揃いにする文化があるのですね。
「お使いを頼んでたはずでしょ。見たところ、どこにも品物が見当たらないようだけど……」
「焼きそばパンなら、あげちゃったからないよ」
「はあ?」
土の上に座っていて、頭の位置が低いせいなのでしょうか?
尖った声をした女の子は私には目もくれず、焼きそばパンの女の子だけを視界に映していました。
けれど、お相手の子は平然としています。
それが気に障りでもしたのか、尖った声の女の子は対照的に声を荒らげました。
「あんたね……! 人からの頼まれ物を他人にあげてるんじゃないわよ!」
あのパン、もしかして頂いてはダメな物でした?
「仮にも、この私が与えてあげた役目だというのに」
「もう一度、買ってこれるよ? そんなに売れるような物でもないから」
「じゃあ、今すぐ買ってきなさい」
「……わかった」
「……生意気な返事だわ」
焼きそばパンの子の返答を聞いた女の子は、ムッと口を尖らせます。
「安い買い物をさせられるのが不満だなんて、まさかそんな不遜なことは言わないわよね? お利口さんな、すずねなのだから」
機械の私には、人間のことがよくわかりません。
そんな高圧的な態度をする人を見たことがないわけではありませんが……。でも、お揃いの服を着るぐらいに仲の良い方のはずですから。
「相手を見下すのが、人間同士のコミュニケーションになるんですね?」
きっと、そういうものなのだと思いました。
おふたりが、揃って私に目を向けます。
常に冷静な女の子の方は、変わらず落ち着いた雰囲気を纏っていますが。少しだけ、眉をひそめたような。
なにか、気を悪くさせてしまいましたでしょうか。
でも、そんな不安はすぐに頭から抜け落ちました。
ようやく私の存在に気がついた女の子が、睨みつけるかのように鋭い瞳を向けてきたからです。
「誰よ、あんた。私たちの中に割り入ってくるなんて、いい度胸じゃない」
「元々、私とこの方がお話していましたので。どちらかというと、割り入ってきたのはあなたのような?」
「お友達なのだから、話しかけるのは当然でしょ?」
そう反論してくる声は、少しだけうわずっていました。
確かに、仲の良い方なら話しかけることに抵抗はありませんし、気さくに割り込んでくるのも納得です。
なるほど。
つまり機嫌が悪いのは、私がいるから。
「お友達が、見知らぬ私と話していたのが気に食わなかったということですね! そんなに嫉妬してしまうほど、お好きなんですか〜?」
私の言葉に、女の子は目を丸くして。
「は、はあ〜!? そ、そんなこと……。いえ、否定するわけじゃないけど、この私が嫉妬などするはずがないでしょう」
言葉が詰め詰めで、聞き取りづらい話し方になっています。胸を張って平然を装っていても、図星だということは隠せていませんね。
そんなに一途に想いを寄せられる人がいるなんて、素敵です……!
「……あんまり言うと、かわいそう」
「ちょっと、まるで私をおだててるみたいに言うじゃないの?」
「そのつもりだけど」
「こんの生意気な奴めッ!」
怒ってしまいました。
女の子はただでさえ尖っていた声を更に荒らげて、焼きそばパンの女の子の頬へと両手で掴みにかかります。
お相手の方は、感情を表にするのが苦手なのでしょうか。頬を掴みかかられても、まったくもって眠たげな顔が動きません。
……言葉は、棘を隠せていませんけどね。
「ダメですよ? 相手の方を傷つける行為は、自分がされたら悲しいですよね」
優しく、喧嘩を諌めようとしただけなのですが……。
怒り心頭の真っ只中で気を荒らげているためか、尖った声の女の子は顔を真っ赤に染めてしまいます。
「ッ〜! ……覚えてなさいよッ!」
そのまま、走り去ってしまいました。
私はその背中を眺めながら、引き留めようと伸ばした手が空中に残されます。
気を悪くさせるつもりはなかったのですけどね。
コミュニケーションって、難しいです。
「口喧嘩は、得意なの?」
頭を悩ませている最中に聞こえてきたその質問に、私は自信たっぷりに胸を張って答えました。
「舐めてもらっては、困りますよ。なにせ、私の喧嘩の勝率は百パーセント、百戦錬磨なんですから!」
「でも、鳩には負けてた」
「は、鳩は小さい生き物ですから、手を抜いてあげませんと傷がついて……」
女の子の口元が、微かに微笑んでいることに気がつきました。
どんなに詰められても、表情を揺らがせませんでしたのに。
「申し遅れました。私は、自律型対人間用戦闘人形。通称、カランコエと申します。あなたのお名前を聞いても?」
「……真海すずね」
「では、すずねさん。ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」
すずねさんは頷いてくれましたが、やっぱり顔には豊かさがありませんでした。
そんな一貫された態度に、心の中に湧いたある疑問が形となっていきます。
「先ほどの方が、苦手なのですか?」
私の言葉に、すずねさんは初めて虚をつかれたように瞳を丸くします。
「……わかるんだ」
「冷たく接されていましたので。もしかして、と思ったのですが、やはりそうでしたか」
まあ、高圧的な人でしたし。
そういう風な気持ちを抱くのも、理解できなくはないのですけどね。
「相手を傷つけることは、自分がされたら悲しい。……この言葉、私に言ってたんでしょ?」
「嫌われ者だと言っていましたよね」
自分をそう称してしまうのは、きっと視野が狭くなっているだけなのです。
先程の方がそうでしたが。
嫌われているだなんて、そんな悲観していては好機を逃してしまいます。
だから。
「もう少し、観察してみることを推奨しますよ?」
すずねさんは目を丸くした後、考え込むように俯いてしまいました。
アドバイス、うまくできていればいいのですが。
やがて、その口から飛び出たのは。
「カラエ」
「……はい?」
今度は、私が驚かされる番です。
「いえ、私はカランコエと……」
「言いづらい、から」
「なるほど、あだ名というやつですね!」
あだ名を付けてもらえるなんて、なんと光栄なことでしょう。
仲の良い親密な方同士でしか、それは与えられないとどこかで聞きました。ということは、私はそれほどまでに心を許してもらえたのですね!
「……元気に、なった?」
「はいっ! ありがとうございますっ!」
すずねさんは、廃棄されてボロボロの私を元気づけようとしてくれていたのですか。
やっぱり、澄んだ心をお持ちな優しい人すぎます。
「焼きそばパンのご恩も、返せたら良かったのですが……」
だから、私は視線が落ちてしまいます。
そこまで望んでしまうのは、強欲というものですよね。
私がなにかをすると、相手を怒らせてしまいますから。今日だって、鳩に先程の女の子と、ふたりの琴線に触れています。
当たり前ですが、喧嘩をする意思は持ち合わせていませんのに。
「もう、貰ってる」
私は、つい声を漏らしてしまいました。
思いもよらない言葉だったので、どう反応すればよいのか困ってしまいます。
「焼きそばパン、受け取ってくれた。おかげで、気が楽になった」
「……お役に立てていましたか?」
「うん。カラエのおかげ」
すずねさんは、何事もないように言ってのけますが。
私にとっては、その言葉はとても心に染み渡りました。胸を抱きしめると、言葉の温かさが全身に広がっていきます。
お役に立てるというのは、こんなにも胸がドキドキするんですね。
「大丈夫だった? 私が、追い払っちゃったけど。もっとお話したかった?」
「そこに関しては、ご心配不要です」
結果的にとはいえ、喧嘩になってしまいましたから。
それならば。
「喧嘩というのは、勝った方が勝ちなんですよ?」
しばらく無言が続きますが、
「……そうだね」
返ってきた返答には、顔の綻びが混じっているのを隠せていません。
でも、そんな素直さが素敵だと思いました。
「すずねさんだって、気遣えていたりしますよね? そんなところが、私はとっても惹かれるほどに好きです!」
「……カラエは、私のこと嫌わないの?」
「どうして嫌う理由があるのでしょう? ただでさえ、恩をくれた人にそんな無礼はいたしません」
私は頭を悩ませました。
どうしたら、すずねさんは嫌われてばかりじゃないということを理解してもらえますかね……。
「どうして、ご自身は嫌われ者だと考えるのですか?」
「仲良く、できないから。皆、誰かと笑ってるのに。私には、同じ笑顔が向けられることがない」
返す言葉がわからなくなってしまいました。
でも、その気持ちを私は知っています。いつも誰かを怒らせてばかりで、私は誰かと笑い合うことなんてできっこありませんので。
すずねさんには、焼きそばパンを恵んでもらった恩があります。
だから、私もなにかお力になれれば。
でも、この申し出をするのは少しおこがましいかと思い……。恐る恐るながらも発した言葉は、思っていたよりもタジタジになってしまいました。
「マスターとお呼びしてもよろしいですか? あなたに、私の好きを教えてあげたいんです」
すずねさんは、とても自虐的な方だから。
もっとお役に立てることを、私はあなたを嫌わないのだと、証明したくなってしまいました。
「……あなたも、嫌われることが怖いの?」
「え?」
「なんとなく、そう思った。底抜けのそんな明るさは、誰かに肩入れしてないだけ?」
そう、なんですね。
誰とも仲良くできずにこれまでを過ごしてきましたけど、それは私自身が無意識に壁を作っていたからでしたか。
……確かに、言われた通りに思えます。
私は、誰かに寄り添うような行いはしてきませんでしたので。
「ごめんなさい。マスターになってほしいだなんて、迷惑でしたよね」
ゴミ箱生活だって、機械の私には困ることがあるわけじゃありませんし。
すずねさんに背を向けて、私は公園を後にしようと思いました。けれど、背後から「違う」と聞こえてきた声に、足が止まります。
「迷惑なんじゃ、なくて……」
すずねさんはそこで言葉を詰まらせてしまったようで、しばらく無言の見つめ合いが行われました。
やはりこの方は、とてもお優しい。
今の私、顔が緩みすぎて変な顔になっていないでしょうか。
「言い方を変えましょう。誰かを怒らせてばかりの不甲斐ない私に、誰かに寄り添えるすずねさんから、優しさとはこういう物だと教えてほしいのです」
「優しさを与えられるようになりたいの?」
「はいっ」
「……私も気を悪くさせてばかりだけど」
「はいっ!」
すずねさんは、相変わらず暗い顔をしていました。
私のお願いを叶えられるかが、心配なのかもしれません。でもそれは、真剣に応えようとしてくれているなによりの証です!
「あまり長続きしないかもだけど、それでもいいなら」
「ありがとうございます、マスター!」
許諾をいただけました! これで、私はゴミ箱生活とはおさらばの立派なオートマタですね。
お役に立つために。
精一杯、張り切っていきますので!
「どうぞ、よろしくお願いいたしますっ」
***
マスターと新たな家への帰り道を歩いている最中のことでした。
「「あっ」」
目が合ったのは、先程の逃げてしまった女の子。
女の子は、持っていた白い袋を慌てて鞄の中へと隠し、胸を張って再び威圧を纏わせます。
「あ、あら、すずねじゃない。まだそんなゴミを持ち歩いてたのね?」
隣を見れば、マスターの顔が目に入ります。
その無表情さからは女の子に対して興味がないように思えますが、この方はきちんと笑える方です。だから、その表情の意味は、鉢合わせてしまったこの現状にあまりいい気はしていないことの現れでしょう。
今は、マスターなのですから。
主人の気を害する者は、この私が受けて立つべきです。
「また会いましたね。お使い、してもらえなかったから自分で行ってきたんですか?」
「そ、そんなわけあると思う? この私が、お使いに赴くなんて」
「……あると思うけど」
「調子に乗らせておけば……!」
女の子は、短気な方なのかもしれません。
少し話しただけで、すぐに声を荒らげてしまいますし。もっと冷静にお話しないと、仲良くしてもらえませんのに。
ビシッと、女の子がマスターを指で指し示します。
「ちょっと味方を手に入れたからって、生意気なのよ。あんたは今まで通り、私の言いなりになっていればいいの」
言いなり……。この方は、命令を下せるぐらいに立場が高いということですか?
それにしては、マスターはぞんざいに扱ってますけど。
悩んでいるより、聞いた方が早いですね。
「そもそも、割って入れる関係なんですか?」
「は?」
本当は、良くないことなのですが。
でも、マスターが気を悪くしているのなら、これは正当な反撃として認めてくれますよね。
「私、すずねさんとは主従なることを認めてもらえるほどに親睦を深めましたけど〜。あなたは、特に変わりないように思えますね?」
「こ、こっちは十年くらいの付き合いよ!?」
「あら、そうでしたか。そんなに長く付き合っていても、ぽっと出の私にすら負けてしまうほどの仲で止まっているのですね〜」
言いすぎてしまいましたのかもしれません。
女の子は顔を真っ赤に染めて、今にも泣きじゃくってしまいそうに涙を溜め込んで、
「いつか後悔させてやるんだからあ……ッ」
またもや、走り去って行きました。
「どうですか!? 私、お役に立てていましたでしょうか?」
「うん。しっかりと、できてたよ」
マスターが、頭を撫でてくれます。
手のひらから伝わってくる温もりは胸をいっぱいにさせて、いい意味で苦しくなるようでした。
ご褒美まで貰えるなんて、本当になんて思いやりに満ちた方なのでしょう。
「これからも、私を守ってくれるの?」
「おっまかせを! マスターを害する者は、このカランコエがボコボコの返り討ちにしますので!」
「違う。カランコエじゃなくて、カラエ。今は、私のオートマタなんだよね?」
感激です。
ただのあだ名だと思っていましたけれど、そこまでの意味を込めてくださるとは。
「はいっ! このカラエ、マスターのために恩義を忘れません!」
だからこれからも、あなたのためにお役に立たさせてください。
すずねさん。いえ、私の新しいマスター!




