6話 東京ツアー in 1928
1章完結まで毎日19時更新中!
東京駅をスタートして、目指すは神田明神!当時の最も華やかなメインストリートの光景をご堪能ください。
1928年にスマホで撮影を行う。
言うほど簡単なことじゃない。
何せ昨日私はスマホを触っていただけでしょっ引かれそうになったのだ。当時の人からして怪しい機械を使って、しかも撮影をしているとばれたら、本当にスパイと疑われても仕方がない。
だからせめてもの偽装にと、スマホを服の切れ端で巻いて隠してみた。ついでに胸の前で腕を組むような恰好をして歩くことで隠し撮りを誤魔化している。
…まあ、それでも十分変に見えるだろうけどね。でも、彼らはこんな小さくて薄い機械なんて多分知らないだろうから、これが撮影をしている様子とは思わないんじゃないか、と言う考えだ。
ちなみに、全編マイクオフの無声動画でお送りします。ネット上での身バレ防止のためと、一人喋ってて怪しまれないためね。いままで生配信はずっとしゃべりながらだったから、これでちゃんと楽しんでもらえるのかはすごく不安になるけど。
不安と言えば、この時間での配信ってのも、再生数のことを考えると正直不安だ。なんせ今は7時ちょい前。通勤・通学があるから絶望的って程ではないにせよ、深夜の配信効果とは比べるべくもない。
でも仕方ない。
この配信は、削除済みのチャンネルの視聴者たちが熱を失わないうちにできるだけ早く配信する必要がある。無用な議論にならないよう、編集なしの生中継だ。そうなると、私自身が歩き回れる時間でないといけない。長いこと1928年の街を歩くリスクを犯せない以上、歩き回るのは明るいうちであり、まだ人通りが日中よりは少ない、今の時間だけだ。
そんなことを考えながら、一旦現代で言うところの八重洲大通りに出た。この時代だとなんていうんだろうね?道の端の方に寄るとゆるゆると街の様子を映していく。
昨日の夜はそれどころじゃなかったが、こうして配信者の目で見るとなかなかに壮観だ。
とにかくごった煮。綺麗な背広姿の男が新聞紙片手に通り過ぎる横を大八車が通っていく。通り沿いの商店に荷物を運びこむためだろう。
薄汚れた格好の男たちがぞろぞろと駅に向かう。彼らとすれ違うのは、少しくたびれた和服姿で、大荷物を抱えた人々だ。きっと東京に上京してきた人たちだろう。
建物もごった煮。なんか表だけドーンと立派にしてみましたみたいな奇妙な鉄筋の建物もあれば、その横に普通に昔ながらって感じの木造の建物もある。
なんでもありの東京の裏口。これはきっと当時の東京を象徴する姿って感じなんだろうな。
できるだけちゃんと撮っておきたいけれど、立ち止まるのはアウトだ。
だからできるだけゆっくりと撮っていく。
歩く方向は東京駅の反対側。
今の私は真っ当な身の上ではない。お上とかそれに関する人がいっぱいる場所には向かいたくない。
というかね。警察。もうあの人たちに会いたくない。足音聞くだけで嫌。
とおもってたら、その聞きたくないカッカッって音が前から聞こえてきた。
うげ!
あいつらうろつきすぎでしょ!しかも二人組?!
つい足が止まってしまった。やべ、警察の姿見て立ち止まるとか、不審行動だよね。
仕方ない。小芝居を打とう。田舎者が道を間違えた感じで。あれ?行きすぎちゃったかな、みたいに首をかしげると来た道をUターンしつつ、こっそり後ろをチラ見する。
……あ、だめそう。なんか逆にこっち見てる。
私は少し早足になりながら、きょろきょろあたりを見る小芝居を続ける。スマホの映像がかつてないほどに揺れてるよ…。ジンバルつけてないもんね。ごめんね。
ちょっと次の道右に曲がろ。私、悪いことする気ありませんから!ついてこないでね。
……よかったよ。ついてこなかったよ。ちょっと気にし過ぎなのかもね。
気を取り直して、撮影を続ける。歩いていくと、何だか綺麗な橋が見えてきた。欄干はなんだかおしゃれな西洋風なのに、手前になんか霊獣って感じの、なんていうんだっけ?あの狛犬っぽいやつだとか、獅子だとかが鎮座しているのがなんかシュール。……ん?地図で言うともしかしてあれ日本橋?
そう言われると橋自体はおんなじっぽい。現代みたいに上に高速道路がないから、ドーンと広々と空が見えていて、全然違って見えるけど。こういうの、まさに、現代とこの時代の違いって感じで面白いね。
……ん?んん?
……ねえ、勘違いじゃなければだけど、橋の横にある建物、あれ交番だよね?というか、その前に立っている人たち、警察官だよね…?
うげー!やめて!あなたたちそこらへんにい過ぎだから!
なんでそんなにたくさんいるの?!…重要拠点を守る仕事ですよね。わかってるよ、ご苦労様!
はい、また右曲がりまーす。
もうね。警察官見るだけで泣きそうになるんだよ。
そしたらまた国家的な建物が見えて警備の人が立ってるし。今度は何?んー、郵便局?
はい、いつもありがとね、さようなら!
そそくさと横にある大きめの橋を渡る。東京駅から離れよう。そうしよう。
ちょっと随分徘徊しちゃったな。
ここまで東京駅周辺には警察官が多いとは思わなかった。
……ちょっと拠点変えたほうがいいかも。東京駅周辺はだめだね。
もっと、人目につかないような場所がいい。どっか、いい場所ないかな。
いったん道の端に寄ってしゃがみ込むとこっそりマップを確認。
えっと?さっき渡ったのが江戸橋?
あ、じゃあ、目の前にあるのが日本橋本通りか。道理で矢鱈立派なわけだ。
東京駅丸の内側と負けず劣らずモダンな通りだ。左右に立派な建物や看板広告が立ち並び、整然と舗装された道には街灯がこれまたきれいに並んでいる。
道の真ん中に通ってるの、あれ、もしかして電車?
へえ…。このころって道の真ん中に電車なんて走ってたんだ。
じゃなくて。
私がマップで見るべきなのは人目のつかない目的地だよ。こんなモダーンな場所にそんな場所ないから。別のとこ別のとこ。
人気が少ない…うーん、神社とか寺とか?現代じゃないし観光客とかそんなにいないよね?そこらへんに拠点にできそうな建物があればベストだ。
…拠点にすべき建物もコンビニじゃない方がいいよね。
もうあの床で、段ボールベッドするのは嫌。
ちゃんと寝られるような設備がある場所がいいな、なんか都合のいい場所ないかな。
ということで、神社の近くに寝泊まりできそうな建物がないかを探していってみる。
日本橋は、神社は多いけど使えそうな拠点となると微妙だなあ…。神田の方はどうかな。…うーん、今度は神社がちっちゃすぎて隠れる場所なんてないよ…。
そうやって画面をスクロールしていくと、どっかで見たことのある神社の名前が出てきた。
神田神社(神田明神)
ん。なんだっけ。これ。
あ!そうだよ、将門塚!大蔵省の後になんか書いてあったね。あー、こんなところにあったのか。うんうん。ここは結構おっきめの神社だし、これならうまく隠れられる場所とかありそうだね。
そこでこの神田神社の近くにある建物の中で拠点にできそうな建物を探していく。
お!!ネットカフェがあるじゃん!これかなりいい選択肢じゃない?
なにせ、あそこなら寝られる床もあるし、食べ物も飲み物もある。
何より漫画がいっぱいあるじゃん!それをダンジョン生成したら、その漫画全部私が独り占めってことでしょ!うわ!めっちゃテンション上がってきた!
もうそれでいこう!そうしよう!
目的地を神田神社に変更。現地でネカフェの場所を確認していこう。
目的が定まったところで、少し気持ちが落ち着いた私は、そのまま配信の様子をのぞいてみる。
「わ!」
思わず声が出てしまい、慌てて空いた手で押さえる。
視聴者数がとんでもないことになってる。
え?え?
いま7時台だよ?そんなことありうるの?
でも間違いない。コメントもめちゃくちゃ多くて、全然追えない。
うわ!うわ!スパチャもめっちゃ来てんじゃん!!
応援の声、何か説明しろという要求、画面に映してほしいリクエスト、そんなものがいっぱい来てる。
あーー。めっちゃ返事したい。でも、朝の投稿でこんな反応になるんだ。身バレのリスクは私が考えている以上に重く受け止めた方がいい。せっかく、念には念を入れて過去の活動につながるものは全部削除したんだ。これで声を聞かせてしまったら何の意味もない。
せめて、スパチャの一つの要望に従ったものを映してみる。
するとめっちゃコメントがわいた。ずっと無反応がつづくことで視聴者も半分諦めていたのが、私が反応したことで途端に湧き上がったみたいだ。スパチャがめっちゃ飛んでくる。スパチャを投げてくれたコメントは、表示時間が長くなる。だから、私にメッセージを届けたい人たちが、やたらめったらスパチャを送ってくるのだ。
…いやね。さばき切れるわけないからね。
いったん、出来る範囲で応えていこう。
気を取り直すと、私は1928年東京ツアーを再開する。
…しかし大通りはアレだね。絶対警官さんいるんだね。うん、これはもしかして、小さな道の方がいいのかも。そう思い、私は日本橋本通りを左に曲がる。
すると街の様子は一変した。
木造づくりのごちゃっとした建物がみっしり並んでいる。今まで響いていた電車や車のエンジンの音がカンカンカンという金づちの音に代わり、さらにそこに職人っぽい男たちが何かを叫んでいる声が混ざり合う。
うわ。職人街って感じだよ。東京駅から歩いてすぐにこんな場所あったんだ。
視聴者の方も興味を持ったようで、あれを映せ、これを映せとうるさい。
…こう腕を組みながら体をぐるぐるさせている私、ほんとあやしいよね。ここに警察官がいなくてよかったよ。
ここにきてやっと庶民の街って感じになって、私が多少怪しくても、あんまりじろじろ見てくる人はいなくなった。やったね。
…まあ、関わり合いになりたくないから、遠巻きにして目を逸らしているともいうかもだけどね。
でも、これで捕まらないなら、もうこのままできるだけ大通りに出ない方がいいね。
私は比較的狭い道を選んで北上する。
そうしていくとまた街並みが変わっていった。今度はレンガの建物もちょいちょい出てきて、八重洲通りで見たようなやたら正面ばっかり立派な建物もちょいちょい見かけるようになる。
ちょい検索。ふーん。看板建築っていうんだ。なんというか、表は西洋風に見えて奥は普通の日本家屋、みたいなのもあって面白いね。
道行く人の種類もまた変わった。職人ではなくて、商人って感じなのと、あと、多分いいところの学生さんみたいなのもちょいちょい見かけるようになってきた。みんな私と同じ方向に歩き出しているところをみるとこの先駅とかあるのか?
と、うわ…。大通り出ちゃったよ。なんか線路めっちゃあるし、人いっぱいいるし…。あー…、私の大嫌いな警察さんおりますやん。えっとあれ、交通整理やってんの?めちゃくちゃピッピッて笛鳴らしてる。この時代、人がやってるんだあれ。
それにしても、先ほどにもまして色々な人がいる。東京駅を思わせるね。飲食店や色々なお店、なんか映画の看板みたいなものも並んでて、ザ・繁華街って感じ。
ん?あれ?本当に東京駅みたいな建物あるんだけど?
見ると、レンガ造りの建物っぽいものが見える。ただ、壁とか崩れてるし鉄骨がのぞいているしで、なんか廃墟っぽいんだけどね。
ん。なんかあの建物とは別にしょぼい平屋の建物あるね。そのすぐ近くには列車とか見えるし、あの平屋、駅なのかな?
…あちゃー。…私東京駅から逃げてきた身なんですけど…。え、あのなか突っ込んでいくの?でもまあ、東京駅の時とは違ってなんか私に似た格好の人、それなりに多くなってきたし、大丈夫かな。
そんな風にきょろきょろしていると、やけに長いものを持っている人影を見かけた。えんじの矢絣に袴姿で、持ってるものは何だ?弓?やり?…あ、薙刀かな。なんか女学生さんって感じだね。
……ん?あれ?もしかして、あの子、私助けてくれた子?んー?…そうだよ!ぜったいそう!うわー!やっぱりこの時代の子だったんだ!
この時代で、なんか知ってる人を見つけられたというのが、なんか無性に嬉しい!……まあ、あんなお嬢様みたいな子に不審者の私が声なんかかけられるわけないけどね。
そんなことを思っていたら、彼女はやってきた路線電車に乗っていってしまった。…一瞬こっち見た気がしたけど、じろじろ見てたの気づかれちゃったかな?まあ、気のせいだよね。
さて、気を取り直してこのツアーのハイライトって感じで、あの立派な橋を渡りますか。えっと、これは萬世橋?モダンなアーチ橋だけど、コンクリートじゃなくて鉄でできてる。無骨でかっこいいな。まあ、やっぱり警察さんがいるからそそくさと渡る。私に似た格好の人が増えたことで、しっかり紛れられたのか特に注目はされていなかった。
んと、そろそろ目的地近くかな。
いったん、このツアーの締めで神田神社まで行ってそれで終わろうか。
橋を渡った先の左側には、百貨店とか、銀行っぽい建物があって普通に立派なモダンタウンだった。人通りも橋を渡る前よりは少しは減ったけど、まだまだ多い。
あれ?この近くに神田神社あるんだよね?…ほんとに?私地図見間違えてない?…まあ間違えてる可能性あるんだよな…。私、方向音痴だし。
しかし、道を一本曲がると街並みはガラッと変わる。
まずはなんか、やっぱり職人街みたいな感じ。木材や家具を扱っている店や、荷車を引いた運送屋さんが多くて活気がある。さらに進むと、なんというか静謐になってくる。並んでいるものも、なんか茶屋だとか仏具店だとか、落ち着いた店が多い。
……よかった。一応あってるっぽい。この様子なら、人目を避けての出入りっていう、本来の目的を達成できそうだね。
そこから先に、急な階段が立ちはだかる。えっと、これは男坂っていうんだっけ?…男坂ってどういう意味だっけ?男の人しか通っちゃダメってこと?そんなことないよね?そんなことを思いながら、上る。
………ながいね。これ結構きついや。あ、男坂ってそういう意味?きつい坂だから男、みたいな。…なんかむかつくから、何ともないことにしよ。あー余裕。
そんな感じで、結局登り切った時は息切れをしながらも、ようやく最終目的地点に到着。
神田神社だ。
きっと目の覚めるような朱色の柱と青緑の屋根がそこに――とおもったら。
あれ?なんか白木の建物がボソッと立ってるだけだよ?え?あれが神田神社の社殿??私、やっぱり地図間違えた?
ちょっと素早くスマホで確認。ん。場所はあってる。じゃあなんであんな建物?ちょっと調べてみよ。
あ、大震災で焼けてるんだ、ここ。じゃあ今は復興の真っ最中で、あれは仮の社殿ってことかな?
平将門の祟りの騒動では、彼の御霊を祭る神田明神の社殿がこんな状態になっていることもまた、状況を悪化させる情報として加わったのは間違いなさそうだね。盲点だったよ。
ならば、例の鎮魂祭は、きっと、彼らが心機一転スタートするための決意表明の場でもあったんだろうね。
その意味で、新しいチャンネルのスタートに、新しい拠点に、これほどふさわしい場所もないだろう。
しっかりと社を映してから配信を切る。1928年配信旅行も一旦は終了だ。
「ふう」
思わず一息。やー。警察とか気にしながら歩くの疲れるね。
しかし、この1928年、いよいよ本物っぽいよね。こんなディティールにとんだマヨイガとかある?それと流石に広すぎるでしょ。どこまで続いてるんだよこれ。
ちょっと、どっかで現代につながらないかな、と期待していたのでややがっかり。ま、後半ではもうほとんど諦めてたけどね。
あと、バッテリー結構いったなぁ…。
そんな感じで思うところはいろいろあるが、何はともあれだ。
当初の目的、再収益化のための配信は十分成果を出したと言っていいだろう。
リアルタイムの視聴だけで収益化条件のチャンネル登録数と再生数を軽々クリアできちゃった。
というか、ほんとすごい。
今回は規制が掛かるようなもの撮ってないから、推定収益がとんでもないことになってる。しかも、これ、朝のライブ直後の数字でこれなのだ。
更に、スパチャの収益もある。正直これだけで、現代日本側の収入に関しては当分心配いらない。
新チャンネルへの切り替え、大成功!
さて、あとは新拠点の開拓だ。
「えっと?ここを降りて行ったところだよね?」
マップを見ながら私はキョロキョロと場所を確認する。
幸い私が拠点にしようと目論んでいるネカフェのある場所は特に建物のない静謐な場所にあった。
「あ…。ちょっとまって、これ、地下一階にあるのか…。やば、これ行けるかな…」
私が作ることができたコンビニもマンションも一階部分だけだった。もし私が作れる範囲が一階に限定されている場合、地下にあるネカフェは作れないことになる。
「と、とにかく試してみよう」
私はストリートビューを起動する。
お!よくみたらこのネカフェ、階段降りて道から直接行けるタイプじゃん!これならなんとかならないかな?
よし、じゃあ、このビルをイメージして…!お願い!出てこい!ネカフェ!
ぽんっと出てくるビルの一階部分。やはり一階から上は出てこない。その代わり地下に続く階段はちゃんと出てきた。
「よし!これなら!」
喜び勇んで階段を降りようとしてーー見えない壁に足がぶつかる。
「痛った…!」
まるで昨日の地下通路の見えない壁のようだ。透明で、その先も見えるのに全く先に進めない。
「これ、もしかして私のダンジョン生成能力の限界ってこと…?もうすぐそこなのに…!私のネカフェ…」
後少しというところまで来て肩透かしで終わるなんてひどすぎる。
なんとか出来ないかな。
ちょっと考えてみる。
そもそも、この能力は私の思念情報をトリガーにして現実世界の物理情報を引き寄せている、という仮説だった。
この仮説が正しいなら、現実の情報を使ってるのにそれが一部になっている理由は?
決まってる。私の思念情報の方が足りないんだ。多分、ただ外観を思い浮かべるだけで生み出せるのは建物一階分くらいなんだろう。
…つまり、この無駄な一階の分を出してるせいで、地下一階が呼び出せてないんじゃない?これ、イメージを絞ることでなんとか出来ないかな。ちょうど地下鉄の出口みたいに、この階段だけをイメージする感じでさ。
やってみる。
これでお願い!私に潤いを!潤いをー!
するとしゅるんと一階部分が消えて、地下への階段だけできる。そこに恐る恐る足を突っ込むと今度は問題なく降りることができた。
「ぃよし!!」
私は階段を駆け降りる。
自動ドアを無理やり開けると、目の前に誰もいない現代のネカフェが姿を現した。
「ひゃっはー!!これ、全部私のもんだー!」
広めの個室の床はコンビニの段ボールベッドとは比較にならない快適さ。ジュースも水も、軽食もたらふくある。
浴びようと思えば水浴びだってできるだろう。
洗濯についてはどうすればいいか考える必要があるが、私が停電中の建物しか出せない以上、条件はぶっちゃけどこも同じようなものだ。
足りない物資も近くにコンビニがあったはずだから、それを作って別途持ち出そう。
何よりだ!
並んでる漫画は、すべて読み放題なんだよ!
「これで、生きていける!」
いや、何を大げさなって思うかもだけど、これめっちゃ重要だからね。
バッテリー問題がある以上、スマホの無駄遣いは基本出来ない。これは私が未来の娯楽をほぼ享受できないことを意味する。
ほとんど異世界と言っていい場所で、生身の女一人で、たった一人でサバイバルせいっていうんだよ? そんななか漫画くらい読めなくてやっていけるかってんだ!
ま、でも、今回のネカフェみたいに、やろうと思えば現代施設を独り占めできるのはかなりおいしいよね。色々使い方を考えれば、下手すれば表の世界で無理に生きようとしなくてもある程度何とかなるんじゃない?
配信とか物資調達の時は外に出るけど、基本ここで引きこもりってのも実は普通に現実的な選択肢かもしれないよね。
ま、いいさ。とりあえず一言宣言しておこう。私のことが嫌いで、私の方も大嫌いな神様に。
「ざまーみろ!私はへこたれたりしないぞ!!!ここで!元気に!生きてやるわー!!」
見てろよ神様。
私は生き続けてやる。たとえそれが、どんな環境でも。
作中で警官がやたら多く見えることについては歴史的な理由があります。
作中の1928年3月28日は大規模な共産党員検挙を行われた三・一五事件の直後でした。ようは警察官は反社会的な存在に非常にピリピリしていたわけですね。そんななか、明らかに周りと格好の違う挙動不審な人物があれば警戒もやむなし。
さて、次回は再び冴子パートに移ります。
昭和初期の老舗問屋の娘の生活がどのようなものか、ご期待ください。
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