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5話 150万再生チャンネル、削除します

第1章完結まで、毎日19時に更新中!


スマホがつながるというのは福音だけではないよというお話です。

広告収入の現実や特定のリスクが、陽菜の肩に重くのしかかります。

 私が大量の荷物を抱えて通りをうろうろしていると、だんだん人の目を感じるようになってきた。

 気が付くと太陽はすでに姿を出したようで、それなりに人の姿が見られるようになってきている。そんな彼らが、昨日のように、チラッチラッてこっちを横目で見てくる。


 あー。うん。そりゃね。パンパンの荷物を持って特定箇所でうろちょろしている人が怪しくないわけがないか。


 いったん人の目を振り切るために、私はそそくさとその場を立ち去った。その後、適当にあたりをぐるっと一周した後、また再び元の場所に戻ってくる。

 別の場所を開拓するのもいいけど、拠点とするならやっぱり物が豊富なコンビニは理想的だ。それになんだかんだ、この場所には慣れているから他の場所より安心できる。


 そんなことで、ほい。コンビニ生成。ポン。はい現れた。魔法を使っているみたいでなんか面白い。


 ところで、もうこっち見てる人いないよね?私はそれとなくあたりを確認した。

 …いや、いるわ。思ったよりいる。みんながみんなってわけじゃなくても、やっぱり目に留まるらしい。


 うーん。この格好、思った以上に溶け込めてない?

 まあ、現代の服だ。仕方ないっちゃないんだが、ちょっとこのままずっと見られてるのは辛い。このままじゃ、コンビニの中に入れない。


 彼らにはコンビニが見えていないから、コンビニが建っていること自体は別にいい。

 でも、これで私がこの中に入ったらすっと姿を消した謎の少年誕生でしょ?そういう話題になる展開は避けたい。


 そんなことを考えていると、カッカッという足音が聞こえてきた。もう何度も聞いたこの時代の警察官の足音。既にこの音、私にとってトラウマだ。


 彼らに見つかって職質されて追いかけられた日には、無事このコンビニに逃げ込む前に捕まってしまう可能性だってある。もう人目とか気にしてる場合じゃないな。

 私はそのまま素早く扉を開けると、コンビニの中に駆け込んだ。扉を閉めると、私の方を見ていた人たちが、魂消てひっくり返っていた。


 うん、ごめん。脅かす気はなかったんだ。文句なら、無理に逃げ込まなければいけない理由を作った警察官に言ってね。


 しかし、この不自由さ、本格的にまずいな。


 現代の建物を作って逃げ込む、このダンジョン生成能力の価値は計り知れないとしても、表をこうも歩けないようじゃとてもじゃないがやっていけない。できればこの時代の服を手に入れたいところだ。


 でも私、当時のお金一円も持ってないんだよね…。

 拠点の問題がどうにかなったなら、次はその問題を真剣に考える必要がありそうだ。


 金を稼ぐために、私にあるものは何だ?

 一つは私が2028年から持ってきた物。

 一つはこのコンビニや他のダンジョンで作れる物。

 それとこの体、つまり労働力も一応カウントされる。

 そして最後に、――情報だ。

 これが私の元手だ。他は何にもない。これらを武器にして戦っていくしかない。


 このうち、私に何よりも足りないのが情報だ。この時代の情報を何にも持っていない。


「まあ、スマホで調べればすぐに出ては来るんだけどね。ネット最高!」


 とりあえずAIを使って色々な情報をリサーチだ。

 当時の社会状況、人々の生活、常識、あと女性の働き方とか、色々レポートしてもらう。


 あとお金になりそうな情報も欲しいよね。この時代にないレシピとか商品とかさ。あとは異世界モノのお約束ってかんじで、ギャンブルとか株とか?正直、買い方から知らないんだけ、一番お金になりそうって雰囲気はあるかな。ま、色々グレーだけど、とりあえずやり方くらいは調べておくか。


「うーん、かといって本当に役に立つレベルの情報はでてこないな…」


 大まかなことは調べられても、例えばどの馬が勝つかみたいなのを調べようとすると、図書館を勧められてしまう。

 いや、私は図書館いけないから。

 それともダンジョン生成で図書館作ってみたら何とかなる?…いや、駄目だね。昔の新聞なんて端末使わないと見れないだろうけど、私が作れるダンジョンは電気が通じてない。その状態じゃ端末は動かないだろう。


 ネットのみんなに呼びかけてみる?でも流石に株式情報とか露骨すぎるしなぁ…。


 図書館に行かずに昔の新聞を見ようとすると、本当にごく一部を拾い集めるか、有料サービスと契約するしかない。んー、貯金的にちょっと余裕ないしなぁ。


 ……ん?あれ?今なんか引っかかった様な…。

 えっと昔の新聞を見るなら有料って考えてて……


 ん?あれ?考えてみたら、スマホとかネットとか元の世界のサービスだから、これ、使い続ける場合元の世界のお財布で払う必要があるってことだよね??


 ちょっと待って?!私、元の世界で稼ぐとか当面無理なんだけど?!!


 ザッと血の気が下がっていく。

 私の生命線はスマホだ。そして、なぜこのスマホがネットに繋がるかと言うと、スマホの回線契約をしているからだ。


 つまり、この支払いができなくなった時、私は詰む。


 なのに私はバイトに行くことがもうできない。貯金などほとんどなくて、バイトの収入がないなら来月からは家賃とか諸々の支払いで普通に底をつく。


 え?ちょっと待って?これどうするよ??


 ……いや、違う。落ち着け私。私は何者だ?そう。YouTuberだ。

 つまり私はネットが繋がれば稼ぐことができる。


「あ!というか、昨日の動画!あれ再生数えぐがったし、あれだけで広告料かなり入るんじゃない?」


 私はすぐさまYouTube Studioを開く。これはYouTuberなら誰でも使っているYouTubeの公式アプリだ。チャンネルのコンテンツ管理から収益管理までほぼ全ての管理がこれで行える。


「昨日の収益は……あれ?これだけ?」


 150万再生を達成しているというのに推定収益は10万にも届いていない。どういうことかと確認して私はすぐ理解した。


「…あーー、即黄マークついてるや。そしてその後年齢制限と…。まじかー…運営仕事早いな…」


 YouTuberの広告収益はその動画の内容に応じて変わってくる。

 今回の動画の内容は広告として不適切なものと判断されたようだ。

 早々に黄色いドルマークがつき、そこから再生ごとの収益率がガッと10分の1に落ちている。

 さらにその後年齢制限がかかってその後再生による広告費は0円になってしまっていた。


「あー…あーーー。あれか。あの幽霊どもか……そりゃ完全アウトだよ。血だらけだし手足欠損だし」


 やば。ちょっと立ちくらみしてきた。


 こんな酷いことある?あんな酷い目にあって、でも再生数過去最高を達成して地獄から天国に来たと思ったら、また地獄?


 うん。こういう時は叫ぼうか。


「がーーーー!!!!運営の#%&@$!!!!」


 はい。また制限かかりそうなこと言いました。

 いやでもこれは許して欲しい。せめてこの絶望感、怒りに変えないとほんと立ち上がれない。


「ほんと¥€#♪*で%¥☆&で#&%¥$がー!!!」


 これ、映像化する時は、このシーン美しい映像流しておいてね。

 ほんと、このコンビニ内での出来事が外に漏れなくてよかったよ。


 もう喉がかれるうえ酸欠で頭がくらくらするくらいに叫びまくって、ようやく私は落ち着くことができた。


 そのおかげでなんていうか、やっと、ネット上の現実が見えてきた。

 昨日の晩に投稿してもう150万再生。その数字がもつ暴力的なまでの幻想からから解放される。


 違う。これは、明るい未来を表す数字じゃないんだ。


 これは破滅を表す数字だ。


 私は、たった一晩で150万再生を果たすほどの、すさまじいコンテンツを提供してしまった。

 この後おこることは明快だ。私の存在は遅かれ早かれ、社会現象になる。

 それくらいまでにあの映像は向こうの世界にとって衝撃的だったんだ。

 今まで全く触れたことのない、新しい世界を撮った独占映像。それが議論を生むような内容であったことがむしろ現象に拍車をかけている。


 この現象を放置した場合、必ず起きる出来事。それは現実世界での私の特定とつるし上げだ。


 私の動画には、私の声がしっかり録られている。過去の動画を漁ればもしかしたら私の姿や服とかが一瞬映ってしまったものもあるかもしれない。そうなれば、私の生活環境を特定することも十分可能だ。


 心臓が嫌な音を立て始める。

 ……大丈夫。私がこの動画を出したのが夜の9時ちょっと前。そして今は朝6時ちょっと過ぎだ。流石にまだ映像を出して10時間も経っていない。

 これまでの動画だって、くそ親父に見つからないように、顔出しNGはもちろん、特定できる要素はできる限り排除してきたつもりだ。

 昨日の今日ですぐに特定することは流石に無理だろう。


 でも、特定は本当に時間の問題だ。


 そうなればどうなる。

 私のバイト先。

 嫌な店長だった。でも、高校中退で未成年なんてあまりに訳ありでアウトな私を雇ってくれた。なんだかんだと、わかりにくい気づかいをしてくれたことにも気づいている。そんな彼にどんな迷惑が生じるか、手に取るようにわかる。


 そして私のアパート。

 思えば大家さんは随分無茶なお願いにもかかわらず、私に一室を貸してくれたんだ。安くても大事な、私の城。やっと手に入れた私の居場所。そこから私は確実に追い出されることになるだろう。それくらいの迷惑が、必ずあの場所には押し寄せる。


 だめだ。それはだめだ。

 そんな迷惑を彼らにかけることを、私は許容できない。


 判断は一瞬だった。


 心臓が悲鳴を上げながら、私は急いでスマホを操作する。

 涙が出る。叫びたくなる。いや叫んでた。


「あ、やだ。やだやだやだ!」


 私の1年。私が人生をかけたすべて。私の、かけがえのない、大事な過去の結晶たち。


――でも。私は、ここで間違えちゃいけない…!


 私が守るべきなのは、私の過去じゃない。

 私の、私を守ってくれた人達の未来だ。


 私は、そんなチャンネルの全動画を削除した。

 私のチャンネルは、たったワンクリックで、向こうの世界から姿を消した。

  

 その後私はポフンとコンビニの床にしばらく何もできなかった。


 感情のジェットコースターが過酷すぎる。

 確信していることは、神様は私のことが心から嫌いなんだろうなということだ。

 よりにもよって、こんな何もかもから見放された場所で、私が育ててきたチャンネルを捨てさせることはないじゃないか。


 流れる涙が止まらない。無意味に落ち込まないよう必死にアニソンを歌って心をごまかす。そういえばあのアニメ、いまと同じくらいの時代じゃない?とか思いながら。

 なんか、そういう無駄なことに脳のリソースを使わないと、心が本当に死んでしまう。


 まあ、死んでいる場合じゃないんだけどね。

 私はすぐさまやるべきことがある。

 

 チャンネルを消したということは、私は現実世界の収入をすべて失ったことを意味する。勿論、あの150万再生で得た収益も含めて、全てだ。


 だから、このまま何もしなかったら、私は無意味に自分の過去を捨て去ってここで朽ちていくだけになってしまう。


 私が次にしなければいけないこと。

 それはチャンネル登録数1000人と4000時間再生という収益化のための条件をすぐさま達成すること。

 これを達成しないとそもそもYoutubeで稼ぐことができない。


 更に、今度はそこから、最低限スマホの使用料を支払えるだけの収入を確保することも絶対条件だ。


 本来なら、そんな鬼畜モード全開のクリア条件、達成できるわけがない。


 でも、今の私ならできる。


 その、極めて現実的な公算があったからこそ、私は自分のチャンネルを削除したのだ。


 あーー。

 そろそろ流石に動き出さないとまずい。

 よし。やるぞー。3。2。1。0。

 そう心の中で唱えてから数秒後、私はのっそりと起き上がると、まずは素早くZXに投稿するメッセージを打っていく。


 私を応援し、心配し、そして助けてくれた研究所のみんなに対して、せめてものお詫びとお礼の言葉を。


『諸事情によりフォッグ研究所は閉鎖します。ずっと応援してくれて、何度も助けてくれたというのに、急にこんなことになってしまってごめんなさい。あなた達と一緒だったからこそ、私はこの1年、頑張ってこれました。心からの感謝を。 ヨル』


 う。

 また涙が出てきた。

 でもそんな場合じゃない。


 私はまたこれから、今度はさっきとは比べ物にならないくらいの、冒険をしなければいけないんだから。

 まずは新しいアカウントとの作成と新しいチャンネルの開設だ。1年前の私は、何もわからない中、それでも憧れていたYoutuberたちと同じになれることへの高揚感を胸にチャンネルを開設したんだったな。そんなことを思いながら、急いで手を動かしていく。


 チャンネル名は『情報物理学観測所 - Information Physics Observatory - 』。ハンドル名は『1928Traveller』。


 そう。私はチャンネルを捨てるんじゃない。過去の私の情報を可能な限り清算したうえで、新しくやり直すんだ。


 普通ならこんなこと絶対に成功しない。

 でも、今の私ならそれは可能だ。


 だって、私は間違いなく渦中の人なんだ。そうでなければ一晩で150万再生なんて絶対に達成しない。

 彼らがなぜそんなにこの動画に飛びついたか。

 それくらい、この動画のコンテンツが、特別だったから。

 彼らは、未知のまだ見ぬ世界の映像が、喉から手が出るほどに見たいんだ。


 だから賭ける。

 これからの私の冒険に。


 私は荷物を少し整理して先ほどよりは少し動きのとりやすいくらいの物資に絞ったうえで、再びリュックを背負いなおす。

 私の冒険はこの店の中からやってはいけない。特定の危険を極限まで減らすため、私はまた外に出ていかなければいけないのだ。それも今までよりも格段に危険を侵して。


 血が逆流するんじゃないかってくらいに、心臓が音を立てている。私は、シャツの裾を少し切ってスマホを包み込み、ぱっと見でスマホを持っているとわからないようにする。


 準備ができたら、最後の儀式だ。


「…さよなら。フォッグ研究所」


 私はフォッグ研究所のZXアカウントを削除した。

 

 あとは出発するだけだ。

 私は、周りを注意深く確認し、素早くドアを開けて飛び出していく。


 方針としては、余計な危険に出くわさないよう、基本大きな道を選ぶこと。あと、立ち止まらず、ずっと歩き続けることってとこかな。

 私は、いざというときに未来の現在位置がすぐにわかるようマップアプリをあらかじめ立ち上げておいてから、撮影を開始する。


 帝都東京での本格的な生ライブ。新しい情報物理学観測所、略してIPOの活動スタートだ。

時を超えるYouTuberの話を書くなら避けて通れない回でした。この話は書いていて辛かったですね…。


しかし陽菜はうじうじしたままでは終わりません!

次回、新チャンネルIPOによる東京ツアー開幕です!100年前の日本橋、萬世橋、そんな光景を思い描きながら東京を歩いてみましょう。


「陽菜、かわいそう」「陽菜、頑張れ」と思っていただけましたら、ブックマークや下部の【☆☆☆☆☆】(評価)で応援いただけると、とても嬉しいです!

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