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異世界研究会へようこそ  作者: すあま
触媒の果てに
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先輩の秘密

 望野さんが何故か私と梨琉(りる)の関係性を応援するようになってからしばらくして。


「おつかれさまでーす」


 寂しがりで構って欲しがりの私は、退屈を雑に紛らわせたくて先輩の元に向かう。


「……おーっ、理上姉貴!」

「おっす。おつかれさまっす」

「……うわ」


 講義室に先輩はいなかった。代わりに長代先輩のことをボスと呼ぶ、かつて私らのことを食堂前で脅した男2人組がいた。なので私は思わず「うわ」と発してしまう。


「うわってなんすか、うわって」

「悲しいですよそんな反応されたらー」

「いや……別に。私、長代先輩に会いにきただけなので」


 彼らを相手に暇つぶししても仕方ないと思って、私はそのままドアを閉めようとする。万が一梨琉(りる)会話しているところに見られたら言い訳に苦労するし。


なのに、髪の長い片方が「あ、そもそも理上姉貴男性恐怖症だから下手に絡んだらボスに叱られますよ」ともう片方に言ったので、それにプライドを傷つけられた私は2人に割り込んだ。


「まって、それは違うから! 私べつに異性とか関係なく喋れるから!」

「そーなんすか」

「マジ、ガチで。あの人が適当言ってるだけ!」

「まあボスが適当なのは同意っすけど」

「でしょ!? 私喋れるんだって」

「……」

「……」

「……」

「やっぱり男苦手じゃないっすか?」

「会話振るの下手なだけ!」


 流れでツッコミさせられて弱さまで告白させられてしまう。何やってるんだろう私。ボスがイジりたがりなら弟子もそうか。てか弟子ってなんなんだマジで。彼らを見ていると、モニターやら電気ケトルやらを片付けていて、この部屋から撤退させようとしている。


「……で、2人は何を?」

「理上姉貴、これはですね」

「その呼び方やめて」

「なんでっすか?」

「むず痒いから」

「じゃー、理上ちゃん」


 姉貴よりは何倍もマシなのでそれで了承する。聞けば、金髪の男は理学部のM1、髪の長いもう片方は文学部のB1らしい。理学部の方は随分と上なのでタメで喋ったことを謝罪したが、「気にしないで」と宥められた。


「M1なのに、先輩に雑な敬語なんですか?」


 自己紹介で覚えた違和感を尋ねると、2人は目を合わせてから、M1の方が優しい表情をして言った。


「理上ちゃんの前ではそうするように、長代さんから言われているからね」


 どうやらこの人は普通に喋れるらしい。


「桐華先生は理上ちゃんにミステリアスな姿を見せたいんっすよ」


 同学年の方は素でも「っす」をつけて話すらしい。しかしそれ以上にその変な呼び方が気になった。


「桐華先生……?」

「あっ、やべ」

「何がやばいの?」

「……これくらいは話してもいいっすかね?」

「いいと思うよ」


 私の質問に対して2人でよくわからない確認を取り合って、ロン毛の同学年が話す。


「自分、元生徒なんすよ。桐華先生がカテキョやってた頃の」

「カテキョ!?」

「そうっす。理上ちゃんとおんなじで、教育関係のアルバイトしてたんっすよあの人」

「知らなかった……」


 どれだけ些細なことでも、共通の話題くらいは振ってくれていいのに、どうしてか隠されてたみたいだ。


「それで桐華先生なんだ」

「そうっす。自分、桐華先生に憧れてこの大学に来ましたし、今でもこうして関われてて、楽しいっすね」

「関わるって、実験の雑用でしょ?」


 私らを脅すとか、花火大会をストーキングするとか。


「まあそうだけどね……」


 金髪の人はそう言って笑う。どうでもいいけど落ち着いて話している方が大人の雰囲気でこの人に合っている。


「今もお手伝いっすよ。学祭でこの講義室使われちゃうんで、桐華先生の私物回収中っす」

「モニターも運べるの?」

「ポータブルなんすよ、これ」


 異世界と現実世界をつなぐ超常のモニター。機械だけ見ているとただのプロジェクターみたいで、これが死後の世界を映しているなんて想像もつかない。


「凄いよねこの機械は。科学の結晶じゃなくて、本当にただのファンタジーだよ」


 理学研究科院生の彼が言うと説得力がある。


「剣と魔法の世界と現実を繋げるんすよ。そりゃファンタジーなほうが納得っす」

「お二人はこの機械の見せる世界を信じてるんですか」

「もちろん」

「当然っすよ」


 その根拠が些か気になるところであるが、その前に他にも疑問に思っていたところを尋ねる。長代先輩は教えてくれないだろうし。


「先輩はこの機械をどうやって?」

「入手方法のことかい?」

「はい」

「先輩は『選ばれた』んっすよ。世の中、それくらいのこと起きても変じゃないっす」


 選ばれたって……。マルトくんがチートスキルを獲得したみたいに?


「そんなマルトくんみたいなこと」

「あり得るんじゃないかな?」


 私よりも科学を知る彼に言われると私は返す言葉がない。どうして2人は、先輩みたく異世界の存在を信用しきっているんだろうか。


「先輩の元に行くのは真っ当っすよ。だってカオルと先輩は……」

「カオル?」

「あっ」


 言った彼は青ざめて、金髪の先輩は露骨に不味いといった顔をした。


加速的に好奇心が駆り立てられていく。––––この2人は、長代先輩の言うみたいに雇われているだけの存在じゃない。


私の知らない先輩の秘密を、たくさん知っている。


「カオルって誰? もしかしてマルトくんのこと?」

「いやー、どうっすかねー? はは……」

「知ってるなら教えてよ。先輩はなんにも教えてくれない。転生者はみな知らない人だって言ってた。知ってる人だったの?」

「理上ちゃん、ごめんだけどそれ以上は」

「あー、ほら、噂をすれば!!」


 彼は扉を指す。先輩が来たみたい。もっと聞きたいことがあったのに、時間制限だ。


 ––––そのタイミングで彼女が来たのは、私にとって最悪の不幸となる。


 それは、これ以上質問できないからとか、質問の途中を聞かれてしまったからとかではない。影を見ただけで、さっきまでの好奇心は嘘みたいに飛んでいってしまう。


 部屋に来たのは、長代先輩じゃなかったんだ。


 この講義室にいるのは、かつて私を食堂まで脅した男2人で、私は彼らと会話を交わしている。


 その状況を見られたくない相手が、私に1人いる。


「桐華さーん、こんにちわっ」


 楽しげに扉を開けた小さなシルエットは。


紗葵(さき)ちゃん……? え、あれ……? その人たち」


 私を見て、絶望の色を見せた。


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