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異世界研究会へようこそ  作者: すあま
偏りは追放を生む
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次の実験

 やけに今日は寝付きが悪いと思って目を開いたとき、そこは梨琉(りる)の部屋の中で、同時に昨晩のことを思い出して、私は真っ先に梨琉(りる)の方を見た。私の記憶と違って、彼女はベッドの上で静かに眠っていた。気づけば自分にもブランケットが被せられている。


「おはよう。……もう15時だけど」


 キッチンの方から、講義室でしか聞いたことのない声がする。長代(ながしろ)先輩だった。


「あれ、先輩、どうして」

「あなたが深夜にたくさん助けを求めてきてからでしょう。朝起きたら通知まみれで大変だったわ」

「私、そんなこと……。すみません」

「別に気にしてないけど」


 甘城(あまぎ)さんはさっきお昼ごはん食べたけど、あなたも食べる? と長代(ながしろ)先輩は私に問いかける。返事するより先に私は思っていたことを口走った。


梨琉(りる)は、大丈夫ですか」

「ええ。昨日どれだけはっちゃっけたのか知らないけど、ただの2日酔いよ。頭が痛いらしくてまた寝たわ」


 実際ははっちゃっけたなんて楽しいものじゃない。昨日のことを考えるだけで気分が悪くって食欲どころではないので、ご飯は断った。


 長代(ながしろ)先輩は、当然のごとくそれを見抜いていたみたいで。


「……で、本当はなにがあったの?」


 久しぶりに見る。真面目な視線だった。



 私は昨日起きたことをすべて話した。講義室で新歓をしたあとに4人で予定どおり勉強会をしたこと、突然カナは梨琉(りる)に牙を向き始めたこと、以降梨琉(りる)が無視されるようになったこと、ゲーム飲みの名の下で梨琉(りる)だけにお酒が回るアルコールハラスメントが行われたこと。それから梨琉(りる)が倒れたこと。次第に乗ってくる私の感情とは裏腹に、長代(ながしろ)先輩はずっと静かな表情で話を聞いていた。


「あの子らから、謝罪の連絡とかは来た?」


 話をすべて聞いた彼女は真っ先にそう聞いてきた。通知を確認する。スマホを失くしたらしいカナはともかく、ミクからの連絡もない。


「いえ、全く」

「そう」


 何もしていないのに、コーヒーを啜ったあとみたいに、仮説を閃いたときみたいに、凛とした表情で長代(ながしろ)先輩は鞄から1台のスマートフォンを取り出した。私はそれに強い見覚えがある。けれど長代(ながしろ)先輩のものではない。


 カナのやつだ。


「なんで先輩がそれを」

「この前の講義室で、帰る間際にこっそり。……悪口の件を相談されてから、気になってたから」

「盗んでどうするんですか」

「中を覗くに決まってるでしょう。あの子何も考えてないのか、パスワードは5を連打するだけだったから。……それも一緒に動画を見るフリして確認しちゃった」


 平然とした顔で彼女は言う。もしかして、ハナからこれを目的として講義室にみなを集めたのだろうか。


 先輩はカナのスマートフォンを操作しながら続ける。


「なんとなく察していただけど、2人は相当甘城(あまぎ)さんに恨みがあるみたいね」


 私がずっと気になっていたことを、先輩は模範解答みたいにあっさり言い切った。それから、1つの動画を私に見せる。


 動画の中では、梨琉(りる)の周りにいるメンバーが宅飲みをしていた。梨琉(りる)以外はみな何かしらのアルコールを摂取している。梨琉(りる)が何か話すと、男どもは嬉しそうにリアクションをし、連中は梨琉(りる)に近づきたがり、そうした男どものウワツキはミクやカナの周辺では起きない。気持ち悪い、という感情を軸にして色んな疑問が渦巻いた。


「他のアルバムとかSNS、やり取りを色々みたけど、どうやらカナちゃんは1人の子に片想いしてたみたいね。それで近づく目論見をもって宅飲みを企画したけど、男側は甘城(あまぎ)さんに気があった。ミクちゃんも自分がちやほやされたいタイプだから、ここでの甘城(あまぎ)さんの扱いに不服だったみたい」


 今度はミクとカナ2人の個人メッセージを見せてくる。上記の動画が2人の間で共有されてから、梨琉(りる)を傷つける言葉が盛んに飛び交うようになった。私がドイツ語の授業で梨琉(りる)と喋った日からは私のことも書かれていて、『梨琉(りる)は同性も食う気』だとか、『紗葵(さき)は純粋だから利用しやすそう』だとか、実際はもっと汚い表現だから、見ているだけで空っぽなはずの胃からモノが逆流してくる心地がした。


「このテスト勉強会の日に、何かしらの『罰』を甘城(あまぎ)さんに下す気満々だったみたい」

「『罰』って……。梨琉(りる)は何もしてないのに」


 「作戦会議のやり取りも見る?」という質問には首を横に振った。これ以上気分を悪くしたくないし、既に醜い行為が実行された後だったから、見たところでどうしようもないと思った。


「まさか現実にも哀れな『追放』が存在していたなんてね。可愛くて男の子に好かれる甘城(あまぎ)さんは『ステータス豊富』で追放の対象だったみたい。……この脱離を抑制できなかったのはあたしの力量不足。まあ、どう努力しても彼女らはいつか甘城(あまぎ)さんに鬱憤をぶつけてただろうけど」


 私は寝息を立てる梨琉(りる)を見る。私が勝手に学部の中心だと思っていた、明るくて誰にでも好かれる彼女は、『愛される』ゆえに最悪の敵を作り出してしまった。


「さて、脱離が起きてしまったあとの話だけど」


 先輩の声が梨琉(りる)の部屋で静かに響く。


「異世界でのお話。追放側は適当な冒険者とくっつくし、あたしがいつも見ている転生者だって、奴隷のエルフや孤立した魔法少女を助けて今のパーティを形成したの。人間、組織が分裂したら次の味方を見つけるまで不安定なものよ」


 「だから、これはとても大切なこと」と彼女は前置きして続ける。


「脱離して不安定に遊離したままの甘城(あまぎ)さんと結合してあげるような、彼女を受け入れてあげるような人物が必要。……誰のことを言っているのか分かる?」


 私の返事は待たないで、先輩は私に顔を近づける。


「次の実験をしましょう、理上(りがみ)さん。あなたが次に遂行すべき実験は、『甘城(あまぎ)梨琉(りる)を受け入れてやること』。彼女を落ち着かせて、できる範囲で安心させてやりなさい。別に急がないから、上手くいったと思ったらいつでも教えてちょうだいね。……それじゃ、私は先に失礼するから」


 先輩は荷物をサッとまとめて立ち上がる。「それと、今度から助けがあるなら電話しなさいね。だったら夜でも駆けつけられる」と言い残して部屋を去った。


 空間には、また私と梨琉(りる)だけが残される。


 本当に、変わった美人と出会ってしまったものだ。


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