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異世界研究会へようこそ  作者: すあま
無能がゆえに選ばれる
12/25

自分なりの貢献


発言が重なったことに気づいて、彼女は目を見開く。


「ご、ごめんね。……紗葵(さき)ちゃんなんて?」

「あ、えっと、あれ。……彼氏とか、その、いるのかなあ、って」

「私はいないよ」


 真面目な顔で彼女はそういう。カナのモノマネより、何倍も愛らしい顔と声をしている。


「2人がさ、言ってたから、気になって。それだけ」

「そか……」


 そんなこと言ってたんだね、と梨琉(りる)は小さな声でつぶやいた。


梨琉(りる)は、どうして?」


 ちなみに私に彼氏なんているわけないけど、と付け加えて彼女に問う。


紗葵(さき)ちゃん、最近すっごく可愛いから!」


 私は梨琉(りる)の方を見ていられなくなる。色んな人にたくさん言われたけど、やっぱり、学部の中心に居た(とかつて思っていた)人に言われるのは心地よい。だから梨琉(りる)に褒められると他の人より嬉しい。


「色んな子と喋ってるから、誰かとお付き合いしてるのかなあとか。ほら、友達のそういう話聞くのって楽しいし……。でもさすがに恋愛脳すぎたねっ!」


 自虐も込めて梨琉(りる)は笑う。色んな人と話してたのは、今週たまたま機会が多かっただけだよ、と私は微笑んで返す。


 それからだらだら話すうちに、私のマンションへ着いた。短い帰路だ。


「そしたら、また今度ね」


 梨琉(りる)はマンションを見上げる。紗葵(さき)ちゃんここに住んでるんだね、と彼女が言って、私はうなずく。もっと聞きたいことはあったけど、できる範囲で、わだかまりはある程度解けたように感じた。


紗葵(さき)ちゃん、1つだけいいかな?」


 駐輪場に向かおうとした矢先、明かりに照らされていない梨琉(りる)が口を開く。


「あのさ。ミクちゃんとカナちゃんがね、『紗葵(さき)梨琉(りる)の悪口を言ってる』って話してたんだけど」


 てっきり挨拶かなにかされるものだと思っていた私は、梨琉(りる)の言っていることが分からなくて、息が止まりそうになる。


「……その、ダメなところがあったら、直接言ってほしいな。私、直すから」


 視界が歪む。全身を中に小さい虫がいるみたいな、内側から掻き乱される心地悪い感覚が私の中を走って、寒気がする。


「私、たぶん、ダメなところたくさんあるんだよね。あはは……」


 かけてやりたい慰めはいくらでもあったのに、私は正義のヒロインを演じきれるほど強くなくて、今の状況に対処できるほど大人じゃなくて、ただ、梨琉(りる)の発したことは否定しなければならないという義務感に駆られる。


梨琉(りる)が信じてくれるならでいいけど、私は梨琉(りる)の悪口なんて言ったことない。……それに、梨琉(りる)はそんなダメな子じゃないと思うから」


 私の思ったより、梨琉(りる)は表情を大きく変化させない。


「じゃあ、2人が私に嘘、ついてたのかな……?」


その線が、一番濃い……と思う。彼女らは私にも同じようなことを言ったから。けれど、私は「そうだ」と言い切れないで、「今度2人に聞いてみよっか」とはぐらかすのが限界だった。その弱さの根源は自分じゃ見つけきれない。


「それだけ……知りたくて。……クッキーもね、私は2人で食べたかったんだけど、紗葵(さき)ちゃんが私を嫌ってるかもしれないのが怖くて、嫌いだって言ってたチョコをこの前食べてたから、やっぱり距離おかれてるのかな、とか、変なこと考えすぎちゃって。……なんか恥ずかしいね」


 「でも、スッキリしたから良かった!」と、梨琉(りる)は私に手を振って、自転車にまたがった。


梨琉(りる)……っ!」


遠ざかる彼女に対して、反射的に私は彼女の名前を叫ぶ。夜遅くに暗闇で何やってるんだと自分に対して思いつつ。


「今度はお菓子、一緒につくろ! あと、時間あったらさ、ご飯とか行こ!」


 自転車を止めた梨琉(りる)は振り向いて、私に笑顔を向ける。何か言ってくれているけれど、ギリギリ聞こえない。そのまま彼女は角を曲がって、見えなくなった。


 柄でもないことをやってしまった6月の夜は、とてつもない量の汗をかく。



 翌週の月曜日。私は2限終わりに長代(ながしろ)先輩のいる講義室へ向かう。私の放出したエネルギーがどれくらいだったかを報告するために。


「正直、特に変化はなかったです」


 私はありのままを伝えた。何かグループの構成が大きく変化したとかでもなく、梨琉(りる)は相変わらずミクやカナと会話していたし、2限のときの席配置もいつもどおりだった。


先週色んな人と会話していたことが嘘みたいに、2限の私は誰にも話しかけられなかったし、勉強会が継続的に開かれることもなく、むしろすべてが2週間前の状況に戻った。


「エネルギーが足りなかったのかしらね」

「先週は、たくさんの人と会話できたんですが」

「あたしがメイクしたからじゃない?」

「いやいや先輩。私月曜日から新しい友達作ってましたし、勉強会まで漕ぎ着けたのは私の勤勉さが招いた結果です」

「でもその影響は長期的でなかったと」

「……はい。そもそも私がちょっと力入れたからってそんな急にモテませんよ」

「何言ってるの。あなたくらいのちょうど足りないルックスが一番ウケるのよ」


 長代(ながしろ)先輩はまた褒めてるか分からないような、いや、たぶん悪口を言った。


「……とにかく、エネルギーに相当すると仮定した影響力は観測されませんでした。先週は私が全力だったから、私視点で世界の見え方が変わっていただけかもしれません」

「仕方ないわ。観測者の影響を完全に排除することはできないから」


 仮説が立証されなかったにも関わらず、長代(ながしろ)先輩はあっさりだった。前回もこんな風だ。彼女は、黙ってモニターを眺め始める。


 例の少年を見る。ギルドのようなところで、仕事を依頼されて受注を検討している。……彼ほど、私は周りへの影響力を有していなかった。長代(ながしろ)先輩の仮説に基づけば、私は”選ばれなかった”側。それでも。


「じゃあ、私そろそろ出ますね」

「あら、3限あるの?」

「まあ、それもあるんですけど」


 通知を確認する。『門の前で待ってるね!』という、梨琉(りる)からの連絡。


「––––友達と、お昼ごはん食べる約束してて」


 それでも、私が選ばれなかった側だとしても、1人との関係性を発展させられたのだから、上出来のように思う。


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