表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Be yourself

真凛(まりん)ちゃんはいつも明るくて笑顔で可愛いよね。本当にいつも元気もらうよ。」

「天真爛漫で悩みなんて吹き飛ばしちゃうほど明るい真凛ちゃん、大好きです。」

私の手元に届くファンレターの内容はほとんどがこんな感じだ。モデルをし始めて、昨日でようやく1年が経とうとしていた。私はまだ17歳だけど、母が勝手に応募したオーディションに出て見事合格したのだ。芸能界に興味がゼロではなかったが、芸能界に入りたい気持ちが強かったわけでもないので未だに夢を見ているのではないかと思う時がある。

「真凛すごいわね、このファンレターの数。いつも1通1通、目通してる真凛もすごいけど。」

マネージャーの佐々木さんが嬉しそうに私宛の手紙を眺めている。私は「すごくありがたいことです。」と呟いた。ファンレターの中に奇抜なデザインの手紙を見つけて、私は思わず手に取った。

虹色の封筒なんて人生で初めて見た。私が恐る恐る開封すると、1枚の便箋が入っていた。そこにはこんなことが書いてあった。

『真凛さん、日々のお仕事お疲れ様です。私は真凛さんのことを応援している17歳の高校生です。真凛さんはいつも明るくて笑顔ですが、それは本当の真凛さんなのでしょうか?ありのままの自分を捨ててしまっていないでしょうか?私は明るい真凛さんもありのままの真凛さんのことも、きっとどちらも大好きです。どうか本当の自分を抑え込みすぎないでください。真凛さんの益々のご活躍を心から願っております。』

私の頬にはいつの間にか涙が伝っていた。こんな内容のファンレター、今まで一度も受け取ったことがなかった。

「さーて、次の仕事のスケジュールなんだけど…って真凛!?大丈夫?どうしたの?」

佐々木さんが私の隣に座って背中を擦ってくれた。私の涙は止まらなくて、こんなに泣いたのは家を離れた時以来だろう。やっと涙が落ち着いて、私は口を開いた。

「私、本当はこんなに明るくないしいつも笑顔でもないし、たまに自分自身が分からなくなる時があるんです。応援してくださるファンの皆さんを騙してるような気がして苦しくなって。どうしたらいいのか自分でも分からないし。」

自分の本心を伝えるってこんなに清々しいことなんだ。話しただけで私の気持ちは少しだけ軽くなった。

「真凛…1年間苦しかったよね。」

佐々木さんが目をうるうるさせながら私のことを抱きしめた。私はまた泣き出しそうになったが、ぐっと堪えて彼女のことを抱きしめ返した。

「真凛が本当はいつも明るくてめっちゃ笑ってるタイプじゃないのは私も分かってたの。でも、真凛のこともっと世の中の人に愛されてほしいと思って、万人受けするキャラを作っちゃったんだね。本当は自分らしさを大切にさせるべきだったのに。」

「佐々木さん…。」

私は彼女の方を向き直した。

「佐々木さん、私…。私これからは自分の本当の姿を見せていきたいです。」

佐々木さんは目を丸くして私のことを見つめる。

「自分自身らしい芸能活動をしていきたい。もしそれでファンの方々に受け入れてもらえなかったら、私はこの世界を引退します。」

私の言葉に佐々木さんは一瞬キョトンとしたが、すぐに大きくうなずいた。

「その覚悟、受け取ったわ。一緒に頑張りましょう。」


あの日からもう5年経ったなんて信じられない。私は今も変わらずにファンレターを読んでいる。

「真凛!この人から久しぶりにファンレター来てるわよ。」

佐々木さんが声を弾ませながら奇抜な封筒を渡してくれた。お礼を言って受け取って、私はウキウキしながら封筒を開けた。

『真凛さん、日々のお仕事お疲れ様です。私は真凛さんのことを応援している22歳の社会人です。真凛さんが自分らしく芸能活動を続けられていることが大変嬉しく、私も仕事を毎日頑張れています。自分自身を大切に、いつでも自分らしさを忘れずに、過ごしていきましょうね。』

私はハッとした。5年前は全く気づかなかったが、この文字をどこかで見たことがあることに気づいたのだ。しかも、まだ私が幼かった頃…。

「真凛って、地元で仲いい幼馴染とかっているの?」

佐々木さんがドラマの台本を整理しながら尋ねてきた

「ああ…そうですね。いたんですけど、その子小学生の頃に転校しちゃって、それから一回も会えてなくて。お互いのことすごく知ってて、姉妹みたいに仲良かったんだけどな。」

「それは残念ね。どんな子だったの?」

私は遠くを眺めて微笑んだ。

「優しくて面白い子でした。イラスト描くのが好きで、独特の世界観を持ってましたね。その子にしかない、芸術的センスがあって…。」

私はそこまで話してようやく気づいた。この文字は…間違いない、あの時の幼馴染だ。

「佐々木さん…このファンレター…。」

目に涙を溜めながら佐々木さんを見ると、彼女は嬉しそうに笑顔を作った。

「ずっと見てくれてるのね、真凛のこと。」

私は何度も何度もうなずいて、手で涙を拭った。これからもありのままの自分で頑張っていこう、自分の心の声を聞き逃さないようにしよう。私はファンレターを自分の胸に強く押し当てそう誓うのだった。


本当の自分と周りのイメージのギャップ…。

それがだんだん大きくなっていくと本当の自分が消えてしまう…。

どんな時でも自分らしさを忘れずに自分の心の声に素直に生きていきたいですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ