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レンズ越しの手紙  作者: 五平


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10/12

第10話:言葉にならない「ありがとう」

蓮さんのスタジオ。

一日の終わり。

私は、客からの感謝のメッセージを読み返す。

「あの時の写真が、宝物です」

「本当に救われました」

一枚一枚の言葉が、胸に響く。

改めて、仕事のやりがいを感じる。

私にとって、「ありがとう」は、

単なる挨拶じゃない。

写真が心を繋いだ証なのだ。


蓮さんの声が蘇る。

「その言葉は、お前の心が届いた証だ」


からん、と扉のベルが鳴った。

一組の老夫婦が訪れた。

健治けんじさんと芳江よしえさん。

二人の顔には、深い悲しみ。

愛犬を抱いている。

その愛犬は、老衰で、

もうほとんど目も見えず、耳も聞こえない。

別れを目前にしているのが分かった。


「この子の、最後の家族写真を……」

芳江さんの声が震えた。

健治さんも、愛犬の頭を優しく撫でる。

その手つきに、深い愛情が滲む。

私は、胸が締め付けられた。


私は、愛犬に負担をかけないよう、

細心の注意を払いながら撮影を進めた。

老夫婦は、愛犬との思い出を語り始めた。

初めて出会った日のこと。

共に過ごした、温かい日々。

楽しかった散歩。

無邪気に駆け回る姿。

語るうちに、二人の瞳から、涙が溢れた。


私は、ただ写真を撮るだけじゃない。

彼らの思い出に寄り添う。

愛犬への「感謝の気持ち」が伝わる写真。

それを撮ろうと心掛けた。

だが、愛犬は動かない。

夫婦も悲しみに沈んでいる。

なかなか良い表情が撮れない。

シャッターを押す手が、震える。


蓮さんの声が響く。

「心で撮れ」

彼の言葉が、私の心を揺さぶった。

(心で撮る……)

(この子に、感謝を伝えたいんだ)


私は、健治さんと芳江さんに尋ねた。

「この子との出会いのエピソードや、

一番印象に残っている思い出を

聞かせていただけませんか?」


二人は、少し遠い目をして話し始めた。

すると、スタジオの棚に飾られた写真。

そこに、二人が愛犬を初めて抱き上げた時の

幼い愛犬の姿と、二人の満面の笑顔があった。

(そうだ、この時の愛情は、

今も二人の心の中で、変わらないんだ)

私は、その愛情が、

写真に写し取れると確信した。


私は、健治さんと芳江さんに語りかけた。

「あなたたちにとって、この子がどんな存在なのか、

そのまま見せてください」

そう言って、愛犬を優しく抱きしめるように促した。

二人は、愛犬の体にそっと顔を寄せた。

静かに涙を流しながら、

それぞれの言葉で愛犬に語りかける。

「ありがとう……」

「ずっと、大好きだよ……」

言葉にならない「感謝」と「愛」。

その感情が、スタジオの空気を満たした。


その瞬間。

愛犬が、かすかに目を開いた。

二人の顔を、じっと見上げる。

瞳は、もうほとんど見えていないはずなのに。

愛おしそうに、二人を見つめている。

私は、その「言葉にならない愛情の交流」を

逃さず、シャッターを切った。

私のレンズは、確かに、

その魂を捉えた。


完成した写真。

そこには、愛犬を優しく抱きしめ、

涙を流しながらも、

深い愛情に満ちた表情の健治さんと芳江さん。

愛犬もまた、安らかな表情で二人に寄り添う。

老夫婦は、写真を見た瞬間、嗚咽を漏らした。


そして、震える声で、私に感謝を伝える。

「梓さん、ありがとう……」

「この写真が、私とこの子の、

永遠の絆になる……」

その言葉は、私にとって、

何よりも重い「ありがとう」だった。


私は、写真が「心の痛みを癒し、

愛の記憶を永遠にする」ことができると実感した。

二人は、愛犬との思い出を胸に、

穏やかな表情でスタジオを後にした。


レンズが捉えるのは、光の像だけではない。

それは、言葉にならない感謝と、

尽きない愛の記憶を、永遠に封じ込める。


次回予告


古い写真から、失われた友情が蘇る。

長年疎遠だった旧友との再会。

写真が紡ぐ、見えない「縁」の物語。


第11話 写真が紡ぐ縁

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