猫になった私と貴方
処女作です。拙いですがご容赦ください。
「エルシャ!!」
砕けた甲冑の隙間から鮮血が溢れる。白銀の鎧が赤に染まり、倒れ込む私をレオンが抱きとめた。
ああ、泣かないで、レオン。
そう慰めたいのに、私の口からは血混じりの息しか漏れない。
白濁とした視界の端で戦場から敵部隊が引いていくのが見える。
敵の大将を討ち取ったからだ。
相打ちに近かったけれどぎりぎり勝ち取ることができた。
けれど私はもう無理なのだろうと、彼が動揺する様を見て逆に冷静になった頭が理解する。
「エルシャ...」
レオンが震える手で私の顔を撫でる。
もっと生きたかった。彼と共に、もっと話したかった。笑い合いたかった。
けれど、それは叶わぬ願い。
意識が遠のく中、最後に見たのはレオンの涙だった。
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気がつくと、私は柔らかな光の中にいた。
体が軽い。手を伸ばすと、肉球が見えた。
...猫?
私は、生まれ変わったのだ。
けれど、記憶は消えていなかった。
それなら、レオンのそばに行こう。私はすぐに行動に移すことにした。
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猫になったとは言っても存外便利な機能も付属しているようで、思っていたよりも早めに彼を見つけることができた。
あのときから1年が経っていた。
レオンは、生きる屍のようだった。
ただ、騎士としての仕事をこなすだけの日々。楽しむこともなく、ただ生きている。
銀色の透き通り艶やかだった髪は痛み、騎士と言うよりも何処かの王侯貴族とも言える繊細な顔立ちはやつれて生気を無くしているように見えた。
私は小さな猫の姿で彼の前に現れた。
彼は最初、ただの野良猫だと思ったらしい。けれど、しつこくまとわりつく私を、やがて受け入れてくれた。
「...お前、どこかエルシャに似ているな」
そんな言葉に、胸が締めつけられた。
レオンの腕の中は、温かかった。
そんな日々を過ごしていくうちに少しずつ、彼の表情が和らいでいく。
彼が笑うのを見て、私は心から安堵した。
ずっと笑顔でいて欲しいと思った。
もう少しだけこの姿で生きていたい。
人間でなくてもいい、貴方を感じることができるなら。
彼が新たな幸せを見つけるまで。
いつか、彼が再び生きる喜びを見つけたとき
その時こそ、私は消えるのだろう。
そんな気がした。けれどそれで良かった。
いつまでも貴方を愛してる