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第95話 /Error

真人さんの服は手に入れられて良かったとして。


碌なアイテムが無かったのは確かだったし、

これ以上の報告も無かったので焼肉パーティーと併せての会議はお開きとなった。


そして、自分の部屋に帰り、

お風呂に入ってソラちゃんと一緒の布団で寝た。




ソラちゃんを抱きまくらにして訪れた朝は最高だった。

目を開けた瞬間に美少女が隣にいるという光景は実に癒やされる。

それが自分の大切な友達なら尚更だ。


ソラちゃんは私の腰に抱きついていて、へにゃっと笑って寝ていた。

私はなんとはなしにソラちゃんの髪を指で掬って落とした。

さらりと指通りのいい髪がソラちゃんのほっぺに当たり、

それでソラちゃんが目を覚ます。


「おはよう、ソラちゃん。いい朝ね」

「……おふぁようごらいます……マチコさん……」


目をしょぼしょぼさせながら、

私の挨拶に返事をしてくれるソラちゃん。可愛いなぁ、ほんとこの子は。

私はソラちゃんの頭を軽く撫でた後、

腕をそっと引き剥がしてベットから出た。


「むー……」


それを受けたソラちゃんは小さく講義の声を上げて、

両腕をバタバタとさせていた。

そんな可愛い事されるとベットに戻りたくなるから止めて欲しい。


身支度を済ませて朝食を食べた後、

会社へと向かう為に玄関のドアを開ける。

寝ぼけ眼を擦りながらソラちゃんが

見送りに起きてきてくれて、弱々しく手を振ってくれた。


「いってらっしゃい〜マチコさん〜」

「うん。いってきます!」


この子と結婚した人は幸せだろうなぁ。

ぼんやりとそう思いながら私は会社へと向かうのだった。







会社に着いた途端、私は社長から呼び出され会議室へと通された。

そこには社長や専務等、偉い人が一通り揃っていて、

その人達全員から昨日出社できなかった理由について詳しく聴取された。


会社は運営の傘下なのだし別に知っている事だろうとは思うので、

詳しい事情をそのまま話しても大丈夫かとも思ったのだが、

万が一会社の人間には知らされていない場合を考えて、

上司の辛橋に襲われたショックで寝込んでいましたと嘘をついた。


最近の私は嘘をついたり、

犯罪行為をしたりで順調に悪の道を進んでいる気がするな……。


私の話を聞き終わった後、上司達が辛橋を激しく非難し、

私を酷く慰めてきたのが印象的だった。

確かに従業員が殺されかけたのであれば、

その反応が普通だし、上司として当然といえば当然かもしれない。


しかし、私にはその態度が何処となくわざとらしく見え、

一種のパフォーマンスのように見えた。


……いや、実際パフォーマンスそのものだったのだろう。

専務や社長までもが話を聞いていた時には

私に対して異常にへりくだった態度だった上、

話を聞いている最中にはずっと開いている

PCの画面をチラチラと伺うように見ていた。



あのPCにはきっと──

ガチャ運営に関わっている"誰か"が映っていたんだと思う。



正直その場でPCを奪い去って

顔を拝んでやりたかったが、社長達にも人生がある。

私がそうしてしまったせいで不都合が生じた場合、

彼等がどうなるか全く分からなかったので、下手な真似は出来なかった。


事情を聞き終えた後、

私が連絡せず休んでしまった事に対するお咎めは一切なく、

お偉いさん方から大袈裟に慰めの言葉を一身に受けてから、

私は通常通り業務に戻る様に言われた。

釈然としなかったが、特に事を荒立てて

面倒な状況にはしたくなかったので、

私は言われた通りに仕事をして帰路に着いた。







そして、その帰り道。

私はいつも通りガチャ空間に誘われたので、

試しにガチャを限界まで引くことにした。


今までそうしなかったのに突然そう思ったのは、

基本的にギリギリの戦いを強いられているので、

ガチャを沢山引いてステータスを上げたり、アイテムを引いておけば、

多少は戦いが楽になるかもしれないと思ったからだ。


まぁ、ガチャは操作されているだろうし、

恐らく私がこうするのも運営の想定内だと思うので、多分やる意味はない。

要は気持ちの問題で、強くなっていた方が安心出来るというだけの話だ。


幸いイベントの賞金として金は一杯貰っているので、お金の心配はない。

折角命がけで稼いだお金を運営の下に戻すのかをいう不満はあるが、

それは考えないようにしてガチャを引く。

そうして相変わらずのチープでやかましい音が鳴り、

派手な演出がガチャ筐体の画面に映し出されていく。


SRスーパーレア 成長玉 AGL+8】

【 Rレア 成長玉 ATK+3】

Nノーマル 成長玉 VIT+2】


──〈成長玉〉しか出ない。

いやまぁ、まだ三回目だ。決めつけるのはまだ早い。

そう思って引き続きガチャを回す為に

千円を入れてハンドルを回したが、何故かハンドルが動かない。

疑問に思っていると、『投入金が不足しております』と

筐体からアナウンスが聞こえてきた。


「……は?」


そのアナウンスを受けて、

胡乱げにガチャ筐体の画面を見ると【

あと四千円入れてください!】という表示になっていた。


溜まらずイラっときた。何なのマジで? 

金にもがめついのかあのクソ運営。


「はぁ、もう。しょうがないわね……」


しかし、効果を考えれば例え五千円でも安過ぎる買い物だろう。

わざわざそう思い直して私は再びガチャを引く。


Nノーマル 成長玉 ATK+2】


また投入金額が上がり、次は一万円を要求してきた。

上限がどのくらいなのか分からなかったし、

取り敢えず十万くらい用意すれば絶対に足りるだろうと思っていたが、

もしかしたらもっと落としておくべきだったかも知れない。

少しだけ後悔しながらもガチャを引く。


Nノーマル 成長玉 MGR+1】


更に投入金額が上がる。次はなんと五万円だ。

持ってきておいた所持金からみて、ここが限界だ。

ただ、これだとガチャを引くハードルが高くなっただけで、

世間でいう所の"天井"とは違う。


……やはり、私のような花の候補者だとガチャの設定が違うのかもしれない。


っていうか、結構引けるなぁ。

金額が倍々に増えていってるとはいえ、もう五回目だ。

明日またリセットされて投入金額が千円に戻るのなら、

毎日引き続けた方がいい様に思える。

もしかしたらそうしている人間もいるのだろうが……

小心者の私には中々真似出来そうにない。

そう思いながら、私は今日最後のガチャを引く。




────ブツ、っという音がした。




それは例えるならテレビを消した時に聞こえてくる、

あの少し耳障りな音だった。


音はガチャ筐体から聞こえてきた。

画面を見れば、そこにはいつものようなチープで派手な演出は映らず、

砂嵐が走る黒い背景に、ゴシック体の白文字で"UR"とだけ書かれていた。


うるさかったチープな音楽も嘘のように消えた、

私一人の息遣いしか聞こえない空間。

そこに、ガコンとけたたましい音が鳴る。


「っ……!?」


余りに突然訪れた静寂と聞こえてきたその音に、私は少し怯んでしまう。

けれど、今のはガチャからアイテムが排出された時の音だった。

この不気味な演出はよく分からないが、

その聞き馴染みのある音を聞いた私は、

一先ず気持ちを落ち着かせてガチャの排出口を見る。


そこには見覚えのあるガチャのカプセルがあったので、

それを拾って中身を見た。


その中には古めかしいデザインの"時計"が入っていた。

警戒しながらも私はカプセルを開き、その時計を眺める。

時計のベルトやケース等の装飾部は良く言えば

アンティークのような年代を経た品格があるが、

悪く言えば古ぼけたようにも見える品物だ。


だた、文字盤が在る筈の場所には

秒針やダイヤルといった必要な部品がなく、

ただ真っ黒なガラスしかない。

これは……もしかして液晶画面だろうか。

スマートウォッチのように使うものなのかもしれない。


"時計"を眺めながらそう考えていたら、

ガチャの筐体画面に砂嵐が走り、特有のザザザという音が鳴り始めた。

そうして砂嵐が収まった後、

この時計の説明と思われる記載が映し出される。



そして、そこにはこう書かれていた────



URウルトラレア デウスエクスマキナ・ウォッチ】


デウスエクスマキナ・ウォッチは使用者の命が失われた際に、

設定していた時間軸に生き返る事が出来るアイテムです。

初期設定では時計をガチャから引いた時間が設定されております。

ご自身で生き返る時間を設定するには、

時計を腕に付けて液晶画面をタッチし、

アラームの項目から設定画面を開いて下さい。

また、生き返り機能を使用した場合、

再使用まで時間が必要となりますのでご留意下さい。



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