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第9話 さて、彼女は役立ってくれるでしょうか

先程の熱演をバッチリ見られた事実に

私は別の意味でまた泣きたくなった。


でも、一回り下に見える年齢の女の子に、

中二病みたいな行動を見られて泣き出すとか、

いくらなんでもかっこ悪いので、どうにか堪えた。


涙が零れそうになるのを堪え、顔が真っ赤になっているのを感じながら、

なるべく平静を全力で装って私は彼女に返事を返した。


「あぁ、う、うん。だ、大丈夫よ? 話って何かしら?」

「……あ、はい。えっと、話っていうのはですね。

 単刀直入に言えば、わたしと組みませんかって話です」

「──へ?」


急な勧誘に私は面を食らってしまい、思わず気の抜けた声を出してしまう。

いきなり何を言い出すんだろうかこの娘は。


私は訝しげに目の前の女子高生を見てみる。


派手で長いストレートの金髪に、細かなアクセサリーと着崩した制服。

耳にはピアス、爪にはネイル……と、全体的にギャルみが凄い。

私は校則に厳しい学校に通っていたから、

その恰好を見ていると我が事のように心配になってくる。


その白ギャルは微笑みを浮かべながら、

顔の前で手を合わせて、お願いのポーズを取っている。

可愛い寄りの美人なので、普通ならそのポーズは魅力的である筈だが、

私が置かれている状況が状況なので、

可愛さよりも不気味さが勝ってしまっていた。


それに、森の中に制服を着たギャルがいるというのは、

何というか……違和感が凄い。


「あ、挨拶が遅れましたけど、

 わたし、笠羽かざば 絵美えみって言います。

 お姉さんのお名前を聞いてもいいですか?」

「え? えっと……さと……あっ」


危ない。

直前まで恥ずかしい行動をしていたのもあるが、

この子の雰囲気と勢いに負けて、うっかり名前を言いそうになった。


目的が分からない内に、情報を与えるのは危険だ。

それにこのタイミングで声をかけたという事は、恐らく──


「……自己紹介の前に、なんで私を仲間に誘ったのかを聞いてもいいかしら?

 こっちは直前まで敵と戦ってたから、ちょっと心配性になっててね」


牽制の意味も込め、話のペースをこっちに持ってこようと、

少し不躾な言い方で質問してみる。

しかし、笠羽と名乗った少女はそれを全く意に介さず、こう答えた。


「あぁ、簡単ですよ。わたし、さっきまでお姉さんのその戦い見てましたから」

「っ!?」


その答えに私は驚き、目を見開いた。

確かにそうではないかと考えてはいたが、

まさか直接……それも堂々と言ってくるとは思わなかった。


あの戦いを見ていたのであれば、

私が襲われているのを、この子はただ眺めていただけという事になる。

泣いていた私の感情など顧みず、仲間にしたい

"駒"の性能を確かめていたと言ったのだ。

……そんな非情な人間の仲間になりたいと思う筈がない。


「……ねぇ、ふざけてるの? 

 暴漢に襲われてたけど見殺しにしてましたって言われて、

 仲間になりますって言うと思った?

 子供相手に大人げないかもしれないけど、

 こっちだっていっぱいいっぱいなの。

 冗談のつもりなら友達とでもやっててくれる?」

「……えっ?」

「は?」


これまで散々な目に合ってきた私は思わず、

その非道さに対する苛立ちを込めて、少女に詰問してしまう。

すると、女子高生は私の言葉に面食らったようにぽかんとした顔をなった。


美人な子が首を傾げている様子は可愛らしくはあったが、

今の自分にはイラつかせるものでしかなかったので、

思わず不愛想な反応を返してしまった。

しかし、どうやら少女は私をからかってそうしているのではなく、

ただ純粋に理解できないといった様子だ。

なんでそんな反応に……?


「……えっと。どうしてそうなったんですか? 

 わたしにはお姉さんが襲われていたようには思えなかったんですけど。

 どう見ても初心者が頂点捕食者に食われたって感じにしか……」

「はぁ!? いやいや、そんなわけないでしょ!」

「いえいえ、ほんとに! 夕飯はドン勝だ!!って感じでしたって!!」

「だから! そんなのありえな……まって」

「?」



────どうだっただろう。


なんとなく私もそう思われる点があった気がしたので、

あの時の状況を思い返して考えてみる。


私としては本当に怖い体験でしかなかったのだが、

傍から見ればどう見えていたのだろうか?

私はあの豚の不意打ちを防ぎ、その後の攻撃も難なく避けて見せた後、

男の身体をサッカーボールみたいに吹っ飛ばした。

それから体制を崩して隙だらけになった男を、

私は汚物に触れるが如く、二回剣でつついてあっという間に脱落させた。


真実がどうであれ、その結果は

つい先程まで泣いていた筈の人間がやったものとは到底信じられないし、

流していた涙も、戦いに勝つ為の"演技"だったのだと

勘違いされても仕方無いかもしれない。


成程確かに状況から鑑みれば──確かにあの豚男は、

餌にまんまと釣られた獲物で、私は獲物を仕留めたハンターだ。


……気が立っていたのはいえ、思い込みで一回りくらい

年下の女の子に暴言を吐いてしまった。

なんて情けない大人なんだ私は……。


「その……ごめんね。私、憶測で酷いこと言っちゃってたわ……」

「ふぇっ!? い、いえ、こっちこそ、

 お姉さんの気持ちも考えないで言ってしまってすいません……」

「ううん。謝るのはこっちよ。ほんとにごめんね」

「いえいえ、突然お誘いしたわたしも悪いですから」


彼女は笑って両手を振り、私の謝罪を受け入れてくれた。

こっちが決めてつけて問い詰めたのに、

笑って許してくれるなんて……めっちゃいい子じゃないか。

この子の話なら聞いてみてもいいんじゃなかろうか。


──いやいや、流石にちょろすぎじゃないか私。

もうちょっと慎重に判断をしないと……でも、一応名前は名乗っておこう。


「えっと、お詫びも兼ねて名乗らせてもらうけど、

 私は佐藤真知子。取り合えずよろしく。笠羽さん」

「あははっ。よろしくです佐藤さん。

 でも、さん付けなんてしなくていいですよ? 

 わたしは年下ですし、デリカシーないことも言っちゃいましたから」

「うーん。じゃあ……笠羽ちゃんとか」

「うん! それがいいです! えへへ。佐藤さんみたいな綺麗なお姉さんから、

 ちゃん付けで呼ばれるなんて嬉しくなっちゃいますね!」

「え? そ、そう? ありがと……」


こういう可愛くて自分より若い子に綺麗とか言われると……思ったより嬉しいな。

酔っ払った上司から言われた時とは全然聞き心地が違う。


「佐藤さん。自己紹介も済みましたし、

 改めて聞くんですけど、わたしと組みませんか?

 このイベントにおいて仲間の存在って、とっても大きいと思うんです。

 あ、もちろん佐藤さんには損させませんよ?

 わたし、自分で言うのもなんですけど、結構有能ですから」


確かに仲間が出来るというのは間違いなく心強いだろう。

しかし、それは信頼できる仲間であればの話だ。

こんな敵だらけの状況下で仲間になってよと、

勧誘してくる人間を簡単に信用できるわけがない。

既に笠羽ちゃんへの好感度はかなり高いけど、

ここはグッと堪えて吟味しなければ……


「そうねぇ…仲間がいるに越したとはないと思うけど……

 笠羽ちゃんはどうして私を誘ったの?」

「誘った理由は佐藤さんが強いからっていうのが、やっぱり大きいですね。

 後の理由は何となくになっちゃうんですけど、

 初めて佐藤さんを見た時、この人は仲間になっても

 裏切らないでくれそうって感じたんですよね~。それが決め手ですかね?」

「な、なるほどぉ……」


強さか。まぁ理由としてはこれ以上にないものだろう。

なにせ私は大の大人をゴルフボールみたいに吹っ飛ばしていたのだ。

私もこの子の立場だったら欲しい戦力だと思う筈。


何となく裏切らなさそうと思ったからっというのも、まぁわからなくもない。

さっきまでの私は自分の頬を叩いて悶絶してたり、

伝説の剣みたく自前の剣を抜いてみたりと、

裏切りを企てるような人物像とはかけ離れているだろう行動を取っていたからだ。

そんな行動を見られていたなら、

大丈夫かもしれないと思われても不思議ではない気がする。


……あっ。改めて思い出してしまった。


「佐藤さん? あの、顔が真っ赤ですけど大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫よ。心配しないで。

 それより笠羽ちゃんのセールスポイントを聞かせてくれない?

 私としてはもう殆ど答えは決まってるんだけど、一応聞いておきたくて」

「ふふん、任せて下さい! わたしにはとっておきがあってですね……」


得意げな顔をしつつ、笠羽ちゃんは

何かをスカートのポケットから取り出そうとする。

しかし、その前にどこからか、ピピピという音が聞こえてきた。


「……!」


笠羽ちゃんは少し神妙な顔をしながら、

ポケットからそのとっておきを取り出す。

それは一見するとデコられたスマホだったが、

音の発生源はどうやらそこからだったようだ。

そして、笠羽ちゃんはスマホの画面を見ながら、こう言ってきた。



「敵が来ました。現在位置はここから20メートル程先、北東の方角です」

「──えっ!?」



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