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第89話 闘争を願う戦士と平穏を願う戦士なら

甘音クチル。

このゴスロリ女は第一イベントが終わって、

ソラちゃんと正式に相棒となったあの日に

襲い掛かってきた庭師の庭の幹部だ。


この女と最初に会った時の私は、

生身で戦う事に酷く怯えてしまい碌に剣を振るう事が出来ず、

危うくこの女に殺されそうになった。


しかし、戦いを楽しみたかった甘音は

その勝負にもなっていなかった戦いに満足出来なかった為に、

敢えて私を見逃し、次に会った時に私が戦えるようになるまで待ち、

時には助言すらしてくる時があった。


そして今、私は運営の助けなしに、

自分の意志で充分に戦えるようになっている。



それはつまり──私が、甘音が心待ちにしていた"私"となったという事だ。



『おい甘音! 危ないだろうが!

 当たったらどうするつもりだ!』


危なく巻き添えになりそうだった狡貉が、

甘音にそう抗議するが、甘音はつまらなそうに溜息をつく。


「はぁ……あの程度の攻撃くらい、

 ワタクシ達の上に立つ存在であるオーナーなら

 避けられて当然でしょう? 本当にお飾りね。

 だけど……うふふっ。この夜会に誘ってくれた事は本当に感謝してるわ」

『ふん。だが、油断はするなよ。

 今のこいつはお前でさえ勝てるかどうか……』

「うふふふふ……下らない心配ね。

 今のワタクシには悦びしかないわ。

 ワタクシの全力を出せる戦士になってくれたという歓喜が、

 ワタクシの胸から止めどなく溢れそうなのよ。うふふふふ……」

『いや、そんな話じゃなかっただろ』


そう言いながら甘音は胸を両手で抑えながら、

紅潮しきった顔で私を見つめてくる。

目がハートにでもなってそうだ。うぅ、気持ち悪い。


こいつもこのアジトにいる可能性があったのは勿論想定済みだ。

二人の話からすると、元々は甘音はここにいなかったみたいだけど、

瞬間移動出来るアイテムを持っているようだったし、

襲撃されたと分かったタイミングで呼んでいたのだろう。


いずれにせよ、私はこいつと戦う覚悟は出来ている。


私を甘音は大剣から下りて、

地面に突き刺さっていたそれを片手で抜く。

そして、ダンスに誘う様に空いた手を差し出し、私に尋ねる。


「お久しぶりね、佐藤真知子。久しぶりに再会して、

 早速ではあるのだけど……一緒に踊って貰えるかしら?」

「……お誘いを受けないとあのバッタは貰えないのよね?」

「いいえ、別にあの昆虫お化けは別に好きにしてくれて構わないわ。

 ただ、受けてくれないとワタクシは

 貴方を執拗に追い掛けないといけなくなるわね?」

「……まぁ、そうよね」


私は差し出された甘音の手を、パシンと軽く叩いて跳ね除けた。

代わりに〈冠天羅〉の切っ先を甘音の顔に向けて、

意地悪く笑ってお誘いの返事を返した。


「受けて立つわ。イカレゴスロリ」

「────うふっ。ははははははっ! ありがとう!!!

 最高の夜会になりそうだわ!!! ねぇ!! そうでしょう!!?」


甘音は私のお返事に満足したのか、

猟奇的に笑いながらも私を両断しようと、

赤黒い大剣を躊躇なく振り下ろした。


私は敢えてその大ぶりな攻撃を〈冠天羅〉で受け止める。

けたたましい金属音が響き、大剣が重々しく私の刀にのしかかってくる。

この感覚からすると、以前戦った時よりも

格段に力が上がっているようだ。

……あの時のまま上がっていない事を少し願っていたが、

どうやら儚い願いだったみたいだ。


しかし、逆にそれなら遠慮は要らない。

全力で対処していいという証明になる。


私は〈冠天羅〉に込めた力を抜いて、

甘音の大剣を故意に私に近づけた後、

その勢いを利用して攻撃を受け流した。


大剣を受け流した後、私は〈冠天羅〉を逆刃にし、

甘音の横腹目掛けて刀を振るう。

攻撃が受け流された事に驚いていた甘音だったが、ニタリと嗤った後、

受け流された大剣をその流れのままに地面へと突き刺し、

刺した大剣の柄を鞍馬代わりにして、

身体を宙で回転させ、私の斬撃を華麗に避けた。


そして、浮かせた身体を勢いよく地に戻しながら、

大剣を地面から引き抜き、私に振り下ろした。

曲芸のような動きで繰り出してきた振り下ろしを、

私は急いで後ろへと飛んで躱す。


──全力の攻撃が見切られた上に、反撃までされた。


もしかしてこいつも、私と同じ"なんとか当たり"だったりする?

だから、私と似たような動きが出来るとか……?

真人さんとはまた違う威圧感をこの女からは感じるから、

その可能性もあるのかもしれない。


「……うふふっ!」

「!」


甘音が追撃の為に大剣を下段に構えながら私へと迫ってきた。


逆袈裟の斬撃がくる。

私は〈冠天羅〉でそれを受け流すが、

甘音はそのまま大剣を連続で振り回してくる。


決して何らかの流派ではないデタラメな動きから生み出される切り方だが、

そのどれもが一撃必殺の鋭さを誇っている。

一撃でも受ければ致命傷になりかねない。


私は必死にその連撃を受け流し続け、反撃の隙を伺う。

しかし、私の思考を読んでいるのか、甘音はわざと隙を作ってきたり、

フェイントを仕掛けてきて翻弄してくる。

やりづらい相手だ……!


こうなったら、無理矢理にでも隙を作る!

私は甘音が大剣を振り被った瞬間を狙って、

脚をバネのように動かし、懐へと潜り込んだ。


「っ!?」

「はぁあっ!! ──!?」


一つ間違えば真っ二つだったが、何とか潜り込めた私は

甘音の空いた腹に〈冠天羅〉の柄頭を叩き込んだ。



だが、そこで起きた感触と音は私を困惑させた。



ガキンと。鉄を打ち付けた時に起きる金属音と感触が、

甘音の着ていたゴスロリから生じていた。

着ている物からは起きる筈のないその現象に、

私は一瞬だけ思考を止めてしまった。


「……うふふっ」

「!! ……くっ!」


その隙を見逃さず、甘音は凄まじいスピードで大剣を振り下ろしてきた。


これまでの斬撃よりも更に早い。

不味い、これは避けきれない!


私は辛うじて甘音の切り下ろしを受け止めるが、

焦って受け止めたせいで体制が悪くなってしまう。

腰が反り、足腰に碌に力を入れられない状態で受け止めてしまったせいで、

甘音の大剣が徐々に私へと押し寄せてくる。


「うふふ……懐かしいわ。

 あの時もこうして貴方をワタクシは追い詰めていた。

 その時の貴方は、ガタガタと子犬のように震えていたわね」

「……っ」

「うふふふっ。でも、今は一切怯えていない。

 それどころかワタクシを真っ直ぐと睨んで、

 立ち向かおうとしてきている……うふふ。はははっ!

 あぁ、良いわ! 素晴らしい!! これよ!! これなのよ!!

 ワタクシが求めていた戦いは!!! 貴方に望んだ闘争は!!!」

「ぐっ……っ……」


大剣に込められた力が増していく。

ガリガリと剣同士がぶつかり擦り減る音が耳元で聞こえてくる。

あの時と今の甘音の姿が重なり、

あの恐ろしい死神の刃が私の頭を両断するぞと告げてくる。

恐怖が蘇ってきて、身体が震え出してしまう。

けれど、それで止まってしまう私はもう、いない。


「さぁ、見せて!? 貴方の覚悟を!! 生き様を!!

 ワタクシに味わせて魅せて!!!」

「っ──うああああ!!」


神経を逆撫でするような言葉を投げ掛ける甘音を

打ち負かそうと、私は持てる力を全身に込めていく。

無理に力を込めたせいで軋む身体に鞭を打ち、

〈冠天羅〉を振り抜いて大剣を弾き返した。


「……ふふっ!」

「あぁああああっ!!」


目を見開き、驚嘆しながらも喜ぶ甘音を追い詰める為、

私は〈冠天羅〉を逆刃に切り返し、甘音の腹の側面を全力で切り払う。


金属のような感覚を押し退けて、

筋肉がゴリゴリと潰れる感触が伝わってくる。

私の横薙ぎにより甘音は吹き飛ばされ、

廃ホテルの壁に叩きつけられ、大きく亀裂が拡がる。


「あぁっ……!」


痛みで上げた声にしては、余りに悦を帯びた声を出す甘音だったが、

壁から地面に倒れ込んだ後は横腹を抑えて動かなくなった。


このまま攻め切るか?

しかし、やり過ぎれば殺してしまうかもしれないし、

ああして痛がってるのも演技かもしれないと考え、

私はその場から動かすに甘音の出方を伺った。


そして、動かなかった時間はほんの僅かの間だった。

甘音は痛がりながらも大剣を杖代わりにして、

口から血を流しつつ立ち上がってきた。

痛みで息を荒くしながらも不敵な笑みは絶やさずに、

私を恋い焦がれる様に見据えてきている。


全く意思が揺らがず、それどころか傷つく前よりも

迫力がある甘音の姿を見て、私はビクッと慄いてしまう。


どれだけ戦いが好きなんだ、このゴスロリバーサーカーは。

きっと物凄く痛い筈なのに、戦いが好きだからってだけで

何でそんなに頑張れるのよ……?


「う、ふふふ……いいわぁ……。

 ワタクシ……こんな痛みを感じたのは

 生まれて初めてよ……あぁ、初めてを失う感覚って……。

 こんなにも素晴らしいものなのね……良いわぁ……うふふふふ」

「えぇ……」



キモいわぁ、こいつ……。



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