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第76話 相応しい待遇を用意しました

そんなこんなで、行きたくないと

非常に腰を重くしながら会社へと向かう道中。


私はなんとなく気になったので、電車に揺られる時間で

ネットであのガチャの運営元であるガーパイス株式会社の事を調べ始めた。


調べても案の定ネットのレビューも星五ばかりで、

レビュー内容もガチャ運営を褒め称えるものしかない。

『ガチャを引いたお陰でどん底だった人生が変わりました!』とか

書いてあったりするけど……皮肉にしか聞こえない。


TVのニュースを見てみても運営を批判したり、

疑問視しているものは見当たらない。

トレンドもガチャアイテムに関するものばっかりだ。

まぁ、ネットやデジタルでの情報は

ガチャ運営に操作されているんだし、これは当然の結果だ。


しかし、ネットから目を離して外を歩いてみるとその評価は一変する。

電車に乗っている時も、街中を歩いている時も、

聞こえてくる話題は大体がガチャ運営への批判や疑問だった。


『ガチャ運営会社の批判をネットに書き込もうとしても、どうしても書けなかった』

『あいつらが販売してる道具のせいで犯罪が激的に増えてる。

 政府は何をしているんだ。あの会社を早く潰さないとマズいだろう』

『知らない人にアイテムをよこせと脅されて、

 拒んだら殴られそうになったけど警察が助けてくれた』

『貴方、強そうだから戦わないかと、変な恰好をした女に絡まれた』


……等々、どうも世間はガチャ運営にもう良い評価などしていないらしく、

この分だと三か月も絶たないうちに暴動が起きても不思議じゃない。

ガチャ運営の会社前にプラカードを掲げて、

抗議するデモ集団が殺到するのも時間の問題だろう。


そんな事態など全く恐れていないだろう運営は

会社のホームページやSNSのアカウントを堂々と作成しているが、

そこを見ても非人道的なイベント内容の開示や

犯罪を促進した事に関する声明は何も出していない。


それっぽい会社概要やガチャアイテムの紹介を掲載していて、

開催したイベント情報も一応は載っていたが、

そこにあったのは一般の参加者に提示されたであろうイベント内容で、

〈造花〉や〈花の候補者〉が体験したイベントとは毛色の違うものが書かれていた。


『第一イベントはリアル感のあるバトルロイヤル!

 皆で順位を競い合って豪華アイテムと賞金をゲットしよう!』


『第二イベントは早いもの勝ちのダンジョン攻略!

 精巧に作られたモンスター達を倒して、

 誰よりも早くダンジョンを突き進んで豪華賞品を手に入れよう!』


──といったような軽いノリの文章で、

まるで楽しいテーマパークを紹介しているかのような内容だった。

強制的に参加させられて洗脳された人間に襲われたり、

化け物に攻撃されて痛々しい怪我を負うとか、

そんなスプラッターホラーな情報なんて、何一つ書かれていない。


……しかも、あのダンジョンは世界各国で発生していたらしい。

発生した場所の殆どは廃墟のビルやアパートがあった所で、

そこにあった建物はイベント開始前の一晩で消え、

建物と入れ替わるようにダンジョンが出来たとの事だ。

批判の的になりそうな話だけど、

その建物を撤去して土地を利用する許可は所有者から取っていて、

権利上の問題はないとサイトには書かれていた。


……本当なのかは怪しいけども、

とにかく今世間ではいい意味でも悪い意味でも、ガチャ運営の話で持ち切りだ。

そして、私はそんな運営から厄介過ぎる特別待遇を受けている上に、

勤めている会社も乗っ取られてしまっている。


そんな会社に出勤するのは本当にはっきり言って憂鬱だが、

今まで苦労しながらも務めてきた会社だし、給料も悪くない所だ。

簡単には辞められない──っていうか、

辞めるにしても次の就職先探してないし。


つい昨日800万をポンと手に入れたからって、

仕事をせずに遊んで暮らせる訳じゃないからなぁ……。


「はぁ……憂鬱だわ」







行きたくない気持ちを解消する意味合いも兼ね、

情報収集を道すがら行い続けた私は就業時間の10分前に会社に着いた。

そうして既に出勤していた同僚と上司に

「おはようございます」といつものように挨拶をする。


そうすると、同じ様に軽い感じで挨拶を躱してくれる──筈だった。


しかし、私が挨拶した瞬間、

どうしてか席に座っていた同僚達が一斉に立ち上がり、

私に勢いよく頭を下げてきたのだった。


「「おはようございます!! 佐藤さん!!」」

「…………え、えぇっ!?」


まるで重役が視察に訪れた様な元気な挨拶だ。

いや、それでもここまで露骨に丁寧な対応はしていなかったし、

いずれにしても一平社員である私に対して取る行動では全くない。


なにがどうしてこうなった?

イベントに参加させられた事は

送ってこられたメッセージからも会社は知っているだろうが、

私が無断欠勤をしたのは事実だ。

だから、こんな歓迎をされる立場ではないのに。


同僚が急激に腰を低くした事に私が当惑していると、

これまたいつもとは違う様子の上司の辛橋さんに優しく呼び掛けられた。


辛橋さんは納期に無理のある依頼を取ってくる上に、

新人いびりが趣味の所謂悪い上司だ。

普段から不機嫌そうで横柄な態度をしているのが

彼のデフォルトの状態だった筈だが、

今はまるで大事な顧客に接するかのように

部下の私に対してニコニコと笑って声をかけてきていた。


はっきり言って凄く不気味に思ってしまう。

本当に何があったんだ……?


その辛橋さんに会議室で話があると言われたので、

私はその指示に従って一緒に会議室に入室する。

部屋に入った後、私は辛橋に席に座る様に促された。


「ささ、どうぞ座ってくれ」

「……ありがとうございます。失礼致します」


促し方がまた酷く低姿勢で薄気味悪いとは思いつつ、

一先ず私は先に座らせて貰い、その後に辛橋が座る。


「コーヒーです〜。どうぞ〜」

「! あ、ありがとう……」


そして、狙ったかのようなタイミングで、

私の同期である高田さんがコーヒーを持ってきてくれた。

高田さんはいつものように朗らかに微笑みながら、

テーブルに私、辛橋さんの順番でコーヒーが入ったカップを置いて、

会議室から出ていった。


……部下の私の方から先にカップを置いた所を見るに、

やっぱり会社全体で私を上に置いているみたいだ。


この状況──明らかに会社は運営に支配されておかしくなっている。


ソラちゃんからは、

『もしかしたら戦闘があるかもしれない』と言われているが……まさか、本当に……?


それとも既に戦いは始まってて、

実はこのコーヒーに毒が入れられてたりする?

一応、アイテムボックスに〈解毒薬〉は入れてあるけど……

なるべく使うような事態にはなりたくない。

ここは平静を装いつつ、襲撃があった際にも対応出来る心持でいないと……。


「さて、佐藤さん。

 昨日は夜遅くにメッセージを送って悪かったね。

 内容は見てくれたかな?」


そこで辛橋さんが私に質問を投げ掛けてきた。

私は平静を装いつつも、それに答える。


「は、はい。突然の事で驚きました。

 私にはお話が言っていなかったと記憶していますが、

 何か食い違いがあったのでしょうか?」

「本当にすまないね。私もつい昨日、

 その話を突然上から聞いたんだ。

 私も勝手に決められた事に憤りを覚えて……いや、私の事はいいな。

 とにかく勝手に決めてしまった分の"補填"はするつもりだし、

 この事で会社を信用出来なくなり、退職したくなったのなら、

 退職金も通常よりも多く支払う用意をしていると、

 上からは説明を受けているが……君はどうする?」


……どうやらこの人も、うちの会社がガチャ運営に

事業譲渡した件は寝耳に水の話だったみたいだ。


補填というのは多分お金の事なんだろうけど、

『お金を払えば納得するでしょ?』的な態度に腹が立つ。

自分の会社は仕事ぶり以外は真っ当だと思っていたのに──

いや、運営に乗っ取られたからそういう態度になったかもしれないが……。


何にせよ今自分が置かれている現状は変わらない。

取りあえず話を聞いてみるか。


「……結論を決める為にも、

 他の皆さんがどうすると仰っていたのか、

 お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「大抵"補填"を受け取って、

 仕事を辞める人はいなかったね。

 皆、金額を聞いて渋々だが納得していたよ」

「そうですか……金額をこの場でお聞きしても?」

「あぁ、構わない。300万だ」

「──っ、300万……ですか」


普通事前予告なしの契約変更なんて有り得ない事だし、

どのくらいの違約金が相場なのかはわからないが、

随分高い金額を払ってくれるみたいだ。

大金だが、貰ったとしても嬉しいとは思えないし寧ろ恐ろしい。


そんな大金を支払ってまで私を支配したいの? 

それともこの会社を買う事は他にも何かメリットに繋がるの?


「先に言っておくと基本的な仕事内容はこれまで通りだ。

 ガーパイス株式会社様の傘下になっても何も変わらない。

 しかし……君だけはこれまでとは違う仕事をして貰いたいらしい」

「! それは……どのような内容なのでしょうか?」

「すまない、私は詳細を聞かされてないから、

 詳しくは……今から掛かってくる電話の方から聞いてくれ」

「え?」


辛橋がそう言った後、私が持っていた携帯が会議室に鳴り響いた。

会社の電話とかじゃなくて、自分のスマホがなるの!?

私は困惑しながらも取り合えず、

辛橋さんに断りを入れてからその電話に出る。


「もしもし……?」

『初めまして、佐藤真知子様。

 私はガーパイス株式会社営業部のミモザ=アマリリスと申します』

「…………は?」



────諸悪の根源が、そこにいた。


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