第73話 どんな手段であっても有効ならば
お互いに無事を確かめ合い、
二人共安堵の涙を流した後、私達は自分達の状況を確かめあった。
どうやらソラちゃんはあの最後の電話で、
『あの擬態モンスターに騙されないで下さい』と必死に警告をしていたらしい。
残念ながらその助言は聞く事は出来ず、私は見事に騙された訳だが、
それでもどうにか勝てた事を伝えると、
ソラちゃんは安心と呆れが混じったように笑っていた。
ソラちゃんはその後、
私に何度も電話を掛けながらもダンジョンを攻略していき、
一つの大部屋に入った所で出入口が塞がれ、そこに監禁されたらしい。
監禁された直後、真っ黒な渦が上空に現れて、
そこから【脱出するには佐藤真知子の協力が必要】という文が
書かれた紙切れが振ってきてからは、その部屋で私を待ちながら、
ずっと無事を確かめようと私に連絡をし続けていたと語ってくれた。
『本当に電話が繋がるまで心配で心配で……
こうして声が聞けても、まだちょっと不安なくらいですよ。
マチコさん、本当に大丈夫なんですよね?』
「心配かけてごめんね。ソラちゃん。
色々あったけど、私は五体満足で健康そのものよ。
ソラちゃんも無事に自分の部屋に帰れてるのよね?」
『私も怪我もなく家に帰れています。
それにしても……擬態モンスターにまんまと引っかかったり、
あの変態仮面も助ける義理もないのに助けたり……
マチコさんは本当にお人よしですね』
「う……ご、ごめん」
『あはは、謝る必要なんてないですよ。
寧ろわたしは友達として誇りに思ってますし、
そんなマチコさんだったから、わたしは相棒でいられてるんですから……』
ソラちゃんはしみじみと懐かしむようにそう言ってくれた後、
照れたように笑ってから話題を第二イベントを優勝した件に変えてきた。
そして、お互いにおめでとうと言い合った後、
貰った賞金や賞品が何なのかを確かめようとしたが、
長く苦しい戦いを終えた疲れが出てきたのか、
私が寝落ちしそうになってしまった。
なので、確認は明日に待ち越す事にして、
今日はもう寝て休んで、明日の朝に確かめ合おうと約束した。
『本当にお疲れ様です、マチコさん。
あ、そうだ! 明日は仕事をお休みして、
一緒にお疲れ様会でも開きません?
マチコさんの無事も生で確かめたいですし!』
「あぁー、私もそうしたいんだけど……うーん。
急に休んだら会社になんて言われるかわかんな──ってあれ?
今って……何時、なんだっけ?」
『……あっ』
確か第二イベントに巻き込まれる前、
私は22時くらいにベットで寝た気がする。
そこからあのダンジョンに連れてこられて、
私は一体どのくらいの時間を過ごしていたのだろう?
嫌な予感がした私は急いでスマホの時計を見ると、
そこには22時15分と書かれていた。
──え、余りにも時間が経って無さ過ぎない?
もしかしてあのイベントで起きた事は全部幻だった?
……いや、それともあのダンジョン内で流れた時間は、
この世界とは別の場所での時間軸での事で、
こちらの時間の経過は起きないようになっていたとか?
あの運営なら時間を操る事も出来そうだし……そういう事なのかも──
「ははっ……どうやら運営にも、
ほんの僅かに良心が残ってたって訳ね……」
『…………えっ? ま、マチコさん?』
「ふっ、誤解しないでソラちゃん。
いくら時間を操ってまで私の生活に悪影響を出さないようにしたからって、
運営のこれまでの悪行を私が許すなんてありえな」
『いや違いますよ! 日付! 日付見て下さい!!』
「へっ? ひ、日付……?」
その言葉に一抹の不安を覚えた私は、
恐る恐るスマホをよーく見て、日付を確認した。
そして、そこに表示されていたのは────
寝た時の日付の、"次の日"の日付だった。
「うわぁああああ!! ひ、日付がぁ!! 日付が変わっているぅうう!!」
『ま、マチコさーん!! しっかりー!!』
「むむ無断……欠勤……?
そんな……わ、私の意思じゃないのに……こんなの……こんなのってー!?」
『落ち着いて下さいー! 一回程度なら大丈夫ですって!
寧ろ心配してくれる筈ですってー!』
「は……ははっ。そうよね。
あの運営に期待なんてした私が馬鹿だったわよねぇ……?
はっ……はは……ほんとふざけんなよクソ運営がぁあああ!!」
『マチコさーん!!』
今すぐにでも運営の根城にカチコミを入れたい気分だ。
仕事をサボった事なんてなかったのに、
あいつらのせいで私のキャリアに傷がついた。
私がどれだけ真面目にあの面倒な職場で頑張ってきたと思ってるんだ!
怒りで暴れ出しそうになっている私を、
ソラちゃんが電話越しで優しくどうどうと抑えてくれる。
それにより、一先ず落ち着いた私は仕事の事は置いておいて、
これからの事を話し合う。
そして、今日の所は取り敢えず休んで土日にまた会う事を決め、
それまでは細かく情報交換し合うという流れになった。
『それじゃあマチコさん。その……頑張って下さいね!』
「うん……頑張る……」
『大丈夫です! 真面目に働いてきたならきっと許してくれる筈です!
そうじゃないならその会社がおかしいんですよ!
その時は一緒にストレス発散しましょう!』
「うぅ、ありがとう〜ソラちゃん〜。また連絡するね?」
『はい! いつでも待ってます!』
電話を切った後、私は深々と溜息をついた。
……ホント、なんて言い訳しよう。
ガチャ運営のイベントに巻き込まれましたなんて言っても、
信じてくれないだろうし……。
そうして頭を悩ませていた私に答えるかのように、
メッセージの通知が入ってきた。
計っていた様なタイミングやってきた通知に
イラッとしながら、届いたメッセージを見てみる。
どうせ運営からだと思っていたが、それは私の会社の上司からきたものだった。
予想とは少し違っていたが、どっちにせよ嫌なものには違いない。
顔を顰めながら恐る恐る届いたメッセージを開く。
「────どういう、事……?」
そして、メッセージを開いた私は慄然となった。
そのメッセージに書かれていたのは、
イベントに参加していた私を労うような言葉と連絡事項だった。
まるで事前に私がイベントに参加すると知っていたかのような異様な文章。
それから一緒に書かれていた一つの連絡事項。
それが、私をぞわりと恐怖させた。
『この度、弊社は全事業をガーパイス株式会社様に譲渡することになりました』
【?????????????】
「────社長よぉ、これは"想定通り"で良いんだよな?」
「ふふふ……いえ、確実にこうなるとは考えていませんでしたよ。
これは計画の中で最良の結果であるというだけで、
私はリザードマンに敗北する可能性の方が高いと考えていました。
■当たりの恩恵があるとはいえ、あそこまで戦えたのは
ひとえに彼女の決意と覚悟があったからです」
「……戦士系の■当たりは"知識の意識"に
自分を乗っ取られる事も多いってのに、あいつは自分と同化……
いや、完全に利用出来るようになってやがった。
なんなんだあの女は? はっきり言って、
"こっち"の人間がやれる芸当じゃねぇだろ?」
「笠羽絵美の存在が大きいのでしょうね。
あれ程献身的に自分を助けてくれる彼女に対して、
佐藤真知子は力になりたい、恩を返したいと強く思っている。
その思いによって"知識の意識"を抑え、自分のものとしたのでしょう……。
ふふふ、笠羽絵美を仲間にさせた事で、
ここまでの成果に得られたのは本当に嬉しい誤算でしたね。
実に素晴らしい結果です」
「…………人の為に生きる美しい"花"、か。
で? あのリザードマンは生かすって方向で良いんだよな?」
「えぇ、彼女の戦果を称えるにはそれが一番でしょうから。
では■■■、救出をお願いします」
「は〜い。畏まりました〜」
「あぁ……彼女がこの道を選んだ事が本当に喜ばしい。
やはり、"時計"の持ち主に選んで正解でした。
おっと、勿論調整は終わっていますよね?」
「はい。滞りなく」
「ふふふ。では、設定をお願いしますね。
"時計"を手にした彼女が、どのようにそれを使うのか……楽しみですね。皆さん」
「……はい。より良い結果を心待ちにしております」
「…………本当に、同情するぜ。佐藤真知子」




