表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/163

第66話 あぁ、勇敢とはまさにこの事

「おぉおおおおお!!!」


私はまず、ゴブリン達が密集している所に攻め込んだ。

こうする事で上空にいるハーピーの弓矢と、

擬態モンスターの毒針攻撃をゴブリンを盾にして防げると考えたからだ。

乱戦に持ち込めば狙いをつけ辛くさせられる上に、

仲間に誤射してしまう事に恐れを抱かせる事も出来る。


しかし、当然敵が集まっている場所に突っ込むので、

ゴブリンたちの猛攻を受けるのは必須となる。

しかし、私では他に良い対策が思い浮かばなかったので仕方が無い。


そうして一気に距離を詰め終えた私に、

ゴブリン達が振り下ろす棍棒が四方八方から迫る。

私はその攻撃を足運びと両手に持った〈スクワダ〉と〈冠天羅〉で

捌いていきながらも反撃し、ゴブリン達を斬り捨てていく。

切り捨てて通り過ぎる度、ゴブリン達の甲高い悲鳴が何度も耳に入ってくる。


それも私にとっては気に病む事だが、一番嫌なのは音が聞こえづらくなる事だ。

防御する上で毒針と矢が飛んでくる音が聞こえなくなるのはまずい。

特に毒針を受けるのは絶対に避けなくてはいけない。

しかし、ヘルハウンドが地を駆ける音も、オーガが迫る音も無視出来ない……。

くそっ、考えないといけない事が多すぎる。


「グギャギャ!」

「……ぐっ!」


そんな音が聞こえづらかったせいか、

捌き切れなかったゴブリンの棍棒が私の背中に直撃した。

ただ、直撃した割にそこまで痛みはない。

バットで打ったゴムボールが当たったくらいのダメージだ。

恐らく私の合計DEF値が高いおかげでこの程度で済んでいるのだろう。


だが、無視出来ない痛みだ。

こんな軽い痛みでも、感じた瞬間はそれに意識が持っていかれてしまう。

その間に更に激しく攻撃を与えられてしまえば、

一気に窮地に追いやられてしまうだろう。


私は背中側にいるゴブリンを何匹か纏めて斬り捨てる。

そのままゴブリン達の猛攻を躱しては防いでいっていると、急に寒気がした。


頭上から何かが迫ってきてる。

それを急いで剣で振り払うと、その何かとはハーピーの群れが放った矢だった。


……危なかった。

気付いていなければ頭を貫かれていたかもしれない。

やはり乱戦に持ち込んでも、頭上を取って攻撃してくるハーピ―は凄く厄介だ。

擬態モンスターはゴブリン達を巻き込んでしまうと考え、

攻めあぐねている様なのでこの作戦で正解だとは思うが……

このままだとジリ貧に──


「グルォォオオオ!!」

「!」


そんな私の心配を尻目に、

突如現れたヘルハウンドが私に襲い掛かってきた。

密集するゴブリン達の間隙を縫ってやってきたらしく、

三匹同時に前から、左右からと迫っている。

更に、周りにいるコブリン達もその攻撃に合わせて、

私に棍棒を全方位から振り下ろしていた。


────これを全て防ぐのは無理だ。


くそっ、仕方ない!

私は前方から来る攻撃だけに意識を集中させ、

攻撃を避けつつ、ヘルハウンドとゴブリン達を全て切り払った。

しかし、背後への防御を犠牲した事で、

ゴブリン達の振り下ろした棍棒が、私の身体に直撃する。


「うぐっ……!」


それにより痛みがいくつも同時に襲ってきた。

このペースで攻撃され続けると蓄積分で体力が持たなくなる。

そう思った私は勝負を急ぐ為、脚に鞭を打ち、

ゴブリン密集地帯を二本の剣で斬り裂きながら突き進んだ。


進めば進む程にゴブリンの頭や腕、足や腹が宙に舞っては落ちていく。

その間、私は身体中に幾度も棍棒をぶつけられるが、

化け物部隊への被害もどんどん大きくなっていった。

その上、ヘルハウンド達は規則性もなしに忙しく動き回る私を正確に追えていない。


このまま数を減らしていけば──!


「「ゴアアアアアア!!!」」

「⁉ まずっ……!」


無我夢中で剣を振っていたからか、

気付いた時には私の目の前にオーガが持っていた鉄の棍棒が目前まで迫っていた。


いや、目の前だけじゃない。

後ろからも別のオーガの棍棒が私に向けて振り下ろされている。


このまま振り下ろせば、少なからずゴブリンやヘルハウンド達も

鉄の棍棒に押し潰されるというのに……!

味方なんてどうでもいいと語るかのように、容赦なくオーガ達は私に攻撃してきていた。

擬態モンスターやハーピーが殆ど攻撃してこないから、

きっとモンスター達は全員、味方を巻き込む事はしないのだろうと油断していた。


どうする?

真横や斜めに飛んで躱せば、ゴブリンの密集地帯を外れて、

ハーピ―と擬態モンスター達の恰好の的になる! 

かといって、それ以外に逃げ場は……!!?


──駄目だ! 考えてる時間がない!

くそっ、こうなったら……またあの技に頼るしかない!!!


「おおおぉおおおっ!!!」

「グギャアア!?」


私は〈スクワダ〉を適当なゴブリンの頭へと投げ捨てた後、

前方へと飛びながら、迫るオーガの棍棒の先端に〈冠天羅〉を突き刺した。


「ゴアッ!!?」

「あぁああああっ!!」


そして、完成した冠天羅棍棒を腕の力だけでオーガから奪い、

空中で回転させてオーガの顔へと叩きつける。


「ゴァアッ!!?」

「グギッ!? ギィイイッ!?」


顔を吹き飛ばされたオーガが地面に倒れ込み、

近くにいたゴブリン達がその巨体によって押し潰される。

それによって僅かに隊列が乱れた箇所に降り立ち、

私は自由になった冠天羅棍棒を敵陣に向けて振り回した。

殴打の台風がもう一度モンスターに襲来する。


「キャイン!!」

「グギャァアアア!!」

「ゴァアアアア!!?」

「うおぉおおおおおおおっ!!!」


地上部隊のモンスター達が私の台風によって

次々と野球ボールみたいに吹き飛ばされていく。

吹き飛ばされたモンスターはハーピーがいる上空や、

擬態モンスターがいる壁にも飛来して、部屋全体に風害を齎していった。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」


ゴブリン型やヘルバウンド型の小さい打球は勿論、

オーガ型の大きな打球も次々に上空のモンスター達に放たれていく。

種類豊富な弾丸ライナーは空高く飛んでいるハーピー部隊には

隊列を崩す程度の被害しか与えられなかったが、

壁にいる擬態モンスター達には多大な影響があり、

その打球によって叩かれた蝿のようにどんどん地面へ落ちていった。


「「──ゴァアアアッ!!!」」

「……っ!!?」


しかし、業を煮やしたのか、オーガ達は私の台風を止める為に、

私の冠天羅棍棒に向かって自分達の棍棒をぶつけてきた。

屈強なオーガ達が振るった何本もの棍棒によって、

私の棍棒は回転を止められてしまい、鉄の台風は終息してしまった。


「……っ!! 吹き飛べぇええ!!!」

「キキィ!?」


私は止められた棍棒から〈冠天羅〉を抜き取り、

ハーピー達に向かって投げ飛ばした。

回転しながら上空へと勢いよく放たれた鉄塊は

多くのハーピー達を巻き込んで天井へとぶつかる。


「キキィイイイッ!!?」


混乱するハーピーの隙を突き、

私は近くに転がっているオーガの棍棒を拾い上げて、

擬態モンスター達が密集している壁へと力強く投げ付けた。


「うっ、おぉおおっ!!!」

「「あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!っ」」


擬態モンスターの断末魔が重なって耳をつんざいてくるが、

私はなるべく気にしない様にして、

再び転がっている棍棒を次々と擬態モンスターへと投げ続けていく。


「おぁあああああああ!!!」

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っ」


その間に近づいてくるゴブリンやヘルバウンドは棍棒で蹴散らして、

多くの擬態モンスターが飛来する棍棒によって命を散らしていった。

終わった頃には壁を覆う程だった数も、まばらになる程に減ってくれた。


「……はぁ……っ、はぁ……」


でも、その代償に生じた両腕の痺れと疲労感が酷い……。

本当はもっと棍棒を有効活用したかったが、

これ以上使っていると間違いなく腕が動かせなるだろうし、

惜しくは思うがこうするしかなかった。


「……はぁ、はぁ……〈回復薬〉を……っ!?」


疲労も回復してくれる事を期待して、

私は懐から〈回復薬〉を取り出して飲もうしたが、

させるかと言わんばかりにハーピー達が私に向けて矢を放ってきた。


「くっ……!」


私は矢の雨から身を守る為に、

オーガの腕を持ち上げてそこで"雨宿り"をする。

背中で大きな腕を背負いつつ、私は急いで懐から〈回復薬〉を取り出して服用した。

薬を飲んだ後、直ぐに腕の痺れは完全に癒えたが、全体的な疲労感は消えなかった。

残念な事に〈回復薬〉には疲労回復効果はないらしい。

もうちょっと融通効かせてくれても良かったのに……!


しかしながら、刀が震えるくらいには回復は出来た。

これでまた地上部隊の中に突っ込んで、数を減らしていける。


「……ふぅ……はぁあっ!!」

「キィキキィ!!」


短く深呼吸して私はオーガの身体を思い切り蹴り上げる。

蹴りつけられ高く浮かび上がったオーガの身体は

ハーピーへの目隠しとなり、私の姿を見えなくさせる。


その間に私は地上部隊の所まで突っ込もうと疾走する。


「──なっ!!?」


しかし、いつの間にか地上部隊は

私と真反対に位置する部屋の隅まで隊列を下げていた。

これにより地上部隊と私の距離は大きく離されてしまい、

ハーピーと擬態モンスターの攻撃を防げなくなっていた。


更に地上部隊は私を待ち受ける陣形を取ってきており、

壁役と牽制役を兼ねてオーガを前衛に配置し、

ゴブリン達はオーガの支援に周る為に後方で待機していた。

そして、地上部隊がいる壁側には生き残っている擬態モンスターが集結しており、

毒針を生やした状態で顔をこちらに向けている。


恐らく、敵は私が立てた作戦に気付いていたのだろう。

あそこに攻め入ったらモンスター達と乱戦する前にオーガ達に足を止められ、

擬態モンスターの毒針の一斉射撃を食らう羽目になる。


だが、上空にいるハーピー部隊を片付ける為に鏃を拾おうにも──


「ガォォオアア!!!」


既にヘルバウンド達が私に襲い掛かってきている。

よだれを垂らしながら私を噛み砕こうと突撃し、

私にハーピー達の矢を躱せないように翻弄しようとしているのだろう。


────完全に読み違えた。


まだこの作戦は使えると考えていたが、

あの混戦の最中でこんなにも早く対応してくるとは思っていなかった。

そんなつもりはなかったが、どうやら私はモンスター達の知略と実力の高さを見くびっていたらしい。


やがて、ヘルバウンドの牙とハーピーの矢が私に迫る。

前方を防げは上空から、上空を防げば前方から攻撃がくる状況。

まさに八方塞がりだ。



────また、一か八かか……!!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ