第184話 スーツは仕様的にぴっちりでないと効力を発揮し辛いんですよね
「安心して猛原くん。真人さんは確かにモンスターだけど、
大抵の人間よりも優しくて強い"人"だから。良い師匠になってくれると思うわ」
『そ、そうなんですか……? あ、あぁ、いえ! すいません偏見でした!
モンスターだからって全員が悪いやつって決めつけるのは良くないですよね!
漫画とかでもそんな事をする奴は殆どが悪役ですし、
正義の味方になろうってやつがする事じゃないですもんね! うん!』
猛原くんはまだ疑問は残っている様子だったが、
一先ずはそれを飲み込み、私の話を信じてくれたようだ。
突然『お前のもう一人の師匠モンスターなんでよろしく』なんて言われたのに、
受け入れられる彼は凄いと思う。私ならもっと困惑してる。
「……驚かせてすまなかったな」
『い、いえいえ、こちらの方こそすいません!
な、何卒! これからご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願いします!』
「あぁ、宜しく頼む」
「……うん。それじゃあ自己紹介も済ませた所で話の続きだけど──」
それから私は猛原くんと話して、彼の近況を聞きつつ、今後の予定を決め始めた。
まずは今まで使ったビーコンには予め転移先が設定されていた筈なので、
ビーコンの転移先の指定方法を志鶴さんに聞いてみて、分からなければダメ元で地球に聞いてみる。
そして、もし設定が可能で方法が分かれば、明日にでも試して合流しようという話になった。
「じゃあ、猛原くん。こっちで色々試してみて、結果が出たらまた連絡するから」
『はい! 話を聞いてくれてありがとうございました! お元気で!』
話が終わったので私は電話を切って、ソラちゃんの方を見る。
彼女は若干不機嫌そうに私を見返してくる。
「……あいつの世話をして、お二人の負担になりませんか?」
ソラちゃんは申し訳なさを滲ませた声でそう尋ねてくる。
機嫌が悪い理由はやっぱりそういう理由らしい。
「大丈夫よ。教える事で自分の技をより理解出来るかもしれないし、メリットがない話じゃないから」
「あぁ、それに話を聞けばアイテムを使えばかなり出来る者なのだろう? 良い稽古相手にもなれそうだ」
「……そうですか。それなら良いんです。改めて今まで隠しててすいませんでした」
「もう、気にしないでって言ってるでしょ? それは私が悪いんだから。私の方こそごめんね、ソラちゃん」
「マチコさんのせいじゃ──いえ、これじゃ堂々巡りになっちゃいますね。
ありがとうございます。マチコさん。
それじゃあ、私はビーコンの仕様を聞いて来ますから、
お二人は修行に戻って大丈夫ですよ」
「えぇ、悪いけどお願いね。ソラちゃん」
そうしてソラちゃんは微笑みながら私達に手を振って、部屋から出て行った。
確認が取れるか次第にはなるが──これで漸く猛原くんとの約束を果たすことが出来る。
それにしても新しい〈ヒーロースーツ〉かぁ……どうせピッチリタイツなんだろうけど、
怖い物見たさでちょっと見てみたくはある。
「……そういえば志鶴は運営の関係者だが、あいつに聞いても良かったのか?」
「あ〜……まぁ、大丈夫じゃないかな?
話を聞くのはビーコンの操作説明の事だけだし、
ソラちゃんなら上手く理由をぼかして聞いてくれるでしょ」
「確かに、それなら問題無いか……では、俺達は笠羽殿のご厚意に甘えて修行に戻るとしようか。真知子殿」
「……お、お手柔らかに」
あれから運営からの呼び出しも無く、昨日は修行だけに時間を費やして終わった。
それはそれで良い気分転換になって良いのだけど、
いつ呼び出されるのかという不安と苛立ちは常に出てきてしまう。
早く普通の日々に戻りたいものだ。
また、昨日のうちにビーコンの操作方法は聞けたらしく、
ビーコンに備え付けられてあるタッチパネルから
各地に設置してあるビーコンを検索し、転移先を設定する事が可能なので、
目的地のビーコンを選択していつものようにスイッチを押せば、そこへ転移出来る──との事だ。
タッチパネルなんてあったかと思ったが、
なんでも転移する為のスイッチがある面の反対側に取り外し出来る"蓋"があるらしく、
それを外せばタッチパネルが出てくるらしい。
その話を聞いた私は『私達の家があるここも検索出来るのでは?』と不安になったが、
志鶴さんが言うにはこの家はタッチパネルでは検索も指定も出来なかったとの事。
ソラちゃんも家のビーコンで試してみたが、同じ様に見つけられなかったみたいだ。
……ただ検索出来ないとなると、転移先を変更してしまえばこの家に帰れなくなるのではないだろうか?
ソラちゃんもそれは危惧していたようだが、
検索し終わった頃にタッチパネルからテレーン♪という軽快で馬鹿でかい音と一緒に、
『転移先を別の場所に設定した後は、初期設定に戻せば家に帰れるよー』という誰かの口調を模した文章が書かれたとホップアップが表示されたらしい。
そこらへんはしっかりと対策をしてくれていたようだ。
しかし、こちらからは自由に転移出来るが、
猛原くんはこの家に転移する事が出来ないので、今日は私達が彼を迎えに行って、この家に来て貰うという予定だ。
「では、出発しましょうか」
「えぇ、行きましょう」
そうして私達は家を出て空き地へと転移する。
それからビーコンのタッチパネルを操作して、私達は猛原くんに教えてもらった場所を選択する。
そして、ビーコンのスイッチを押して転移した。
転移先は以前見た全く同じ装いの神殿だった。
あの〈命素深水〉の泉も同じように存在していて、
異様さと美しさが混在するその空間には国家保安警備隊と思しき制服を纏った人間が在中していた。
警備隊の人間が注意深く辺りを巡回している様子が目に入ってくる中、
全身タイツを着てこちらにお尻を見せている"かの変態"が、
仮面を脇に抱えて泉の縁に立っているのが目に入って来る。
いや、その変態はもう変態と呼べないのかもしれない。
あの全身のボディラインがくっきりと出るタイツだけではなく、
腕にはガントレット、足にはグリーヴ、胴体にはプレストプレートが追加されていて、
一見すると〇面ライダーのようなヒーローに見える風貌となってはいる。
ただ……お尻辺りは何も変わってない。あの時と変わらないぴっちりとした状態だ。
寧ろ立派な防具が増えた事でそこが強調されているようにも思えてしまい、
なんというか、変態が"高度な変態"にジョブチェンジした印象を受ける。
……まぁ、見た目云々は取り合えず置いておくとしても。
私は一度、彼を未来で死に追いやってしまった事がある。
この世界ではその事実は無くなっているが、それでも罪の意識はまだ私の中に残っていて、
こうしていざ対面するとなると、どうしても暗い後ろめたさが私を襲ってくる。
だけど、それで尻込みしてしまうのは彼に迷惑になる。
私は彼へと近づきながら心を奮い立たせて、緊張と動揺を抑え込みながら、彼の背中へと声を掛ける。
「──久しぶりね。猛原くん」




