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第175話 ついつい、思い出してしまう

朝から胃がもたれてしまい、皆でぐったりとした時間を暫く過ごしていると、ソラちゃんのスマホが小さく鳴った。


「……はい、もしもしぃ」


連絡を寄越した相手に気怠さを全く隠さず、ソラちゃんは電話に出る。

彼女は隊員の人達からの呼び出しには救世主の相方なりの礼儀を以て接する。

そうしないと言う事は恐らく電話の相手は──


「えぇ〜、どうしてもですか? ……あぁ、はいはい。

 分かりました。なるべく早く、皆でそっち行きますよ……はぁあ〜」


電話口へ轟々と吹き荒れるように溜息を吐いた後、ソラちゃんは嫌そうな顔をして通話を切る。


「……カスミから?」

「えぇ、呼び出しです。マチコさんにどうしてもお渡ししたい物があるみたいで……直接受け取りに来いとの事です」

「……この家だと配達物は受け取れないからねぇ」


空間的に隔離されてるというのは勿論だが、送り主が運営の一人だ。

プライバシーを守る為にも、この家へ郵送しろとは到底言えない。


しかし、渡したい物……一体なんだろう?

っていうか、受け取って問題ないのだろうか?

元々持っていたアイテムはそのまま捨てずに持っているし、

今更の話だとは思うが、やっぱり心配になってくる。


「……貰ってもいいと思う?」

「いいと思いますよ。地球さんの約束と加護もありますからね。

 運営もわざわざ協力関係が無くなるリスクを犯して、

 地球さんが手配した"取り計い"を反故にする事もないでしょう」

「……それもそっか」


ソラちゃんの言う通り、もう退路は用意されている。

無駄に心配をし過ぎても精神が疲れるだけで、何も良い事はない。


私達はのそのそと出掛ける準備を終わらせて、家から出て〈ワープビーコン〉を使って外へと出る。

そうして転移した空き地で待っていたのは隊員の誰かではなく、カスミだった。


「御足労頂きまして、誠に感謝申し上げます。こちらがお渡ししたいと申し上げたものとなります」


到着早々、カスミは口を開いて私達に掌を見せてくる。

その掌をよく見ると、そこには橙色に染まった真珠のような石があった。

この石、どこかで見たような──?


「! これは……もしかして、〈灯り石〉?」

「はい。その通りです」


〈灯り石〉と言えば〈冠天羅〉の柄頭にあるスロットへ装着し、

効果を発揮するアイテムで、私の十八番である"飛風"も、この石があるから発動出来る技だ。

つまり、この〈灯り石〉があれば、"飛風"のように便利で強力な技がもう一つ手に入るという事になる。


「これは先日佐藤様にご協力して頂き、

 守り切る事に成功致しましたあのガチャ筐体を解体し、入手したものとなります。

 この度はご協力頂きまして、重ね重ねありがとうございました。どうぞお受取り下さい」

「……ありがとう」


私は素直に〈灯り石〉を受け取り、〈空籠〉を呼び出してその中に入っている〈冠天羅〉を取り出す。

そして、〈冠天羅〉のスロットに〈灯り石〉を嵌め込む。これで新しい技を使えるようになった筈だ。


「……で、この〈灯り石〉にはどんな効果があるの?」

「その珠に込められた効力は一言で例えるのなら"ジェット噴射"です。

 "昇日"(のぼりび)と発声し刀を振るう事で、刀からは炎が勢いよく噴き出し、

 その一振りの威力を大きく高める事が出来ます」

「……へぇー」


なんだか話を聞くだけだとショボく感じるなぁ……。

けれど、飛風があれ程有用な技だったのだし、この"昇日"という技もきっと使える技なのだろう。


「ちょっと試してみていい?」

「……申し訳ないのですが、ここは住宅街なので万が一があれば危険です。

 なので、一度試し切りをしても問題ない場所にお連れしても宜しいでしょうか?」

「えっ」


そんな万が一が起きるような技なの……?

使わない方がいい気がしてきたが、戦いが楽になるのなら是非とも覚えたい。

カスミは〈ワープビーコン〉を何処からとも無く取り出して設置し、

私達に「どうぞ私の肩に掴まって下さい」と言ってきた。


その言葉に従い、私がカスミの手を掴もうとしたが、

その前にソラちゃんが割り込んで来て、カスミの肩を勢い良く掴んでしまう。

……多分、私がカスミと手を繋ぐのを嫌がったのだろう。

それからソラちゃんは何事も無かったように笑顔で私に手を差し出してきた。


「お手を♪」

「…………」


カスミは無表情にギチギチと握られた手とソラちゃんを眺めた後、私へ視線を向けてくる。

何か言いたげにしているが、なんとなくソラちゃんの態度を不満に思っている訳でも無さそうで、

私に対して何かを言いたそうにしているみたいだった。


「な、何? なんか言いたい事でもあるの?」

「……!」


その態度は無意識だったようで、私の問いにカスミは目を見開いていた。

しかし、直ぐに無表情へと戻り、冷静さを取り繕って私に問い掛けてくる。


「……ご質問をしても宜しいでしょうか?」

「え、えぇ。別に良いけど」

「……地球様がご用意した、あの家の住み心地はいかがでしょうか?」

「……?」


それは……どういう意図の質問なのだろうか?


情報を探ろうとしている?

それとも単なる興味で聞いてきている?

意図が読めなくて答えに少し詰まったが、取り敢えず私は当たり障りの無い答えを返す事にした。


「そりゃあ快適よ。ソラちゃんに頼んで貰って本当に良かったって心から思えるくらいにね」

「──そうですか。それは良かったです」


カスミは私の言葉に無表情でそう返した。

けれど、返事を返す前にほんの少しだけ安心したように笑ったのを私は見てしまった。

自分では見せるつもりも無かった笑顔だったとは思う。

私のステータスが高いせいでその一瞬でも目で捉えられてしまった。


──こういう表情をカスミは私に時折見せてくる。

当人は隠そうとしているみたいだが、カスミが抱える感情は大き過ぎるのか、偶に目に入ってきてしまう。

それが本当にわざじゃないのかは知らないが、何にせよ目に毒だ。


彼女は私にとっての悪者であり、私達が恨むべき敵だ。

なのに、そんな立場の人間が、そんな顔付きをしているのを見ると……恨み辛くなってしまう。


じゃあ、誰を恨むべきなのかと──そんな考えが浮かんできてしまう。


「……それでは転移を開始します」

「……えぇ、お願い」


私から視線を少しだけ素早く外して、カスミはそう言ってビーコンのスイッチを押す。


その時のカスミの顔は長い銀髪に隠れて良く見えなかった。

けれど、どうにも私には──いや、考えるべきじゃない。


こんな考えは……持っていても苦しいだけなのだから。

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