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第170話 技をここまで自在に操れるのは私達の世界でも

クローンはただの人形でしかない。

ビルの屋上から中に侵入し、降りた廊下を埋め尽くす程に密集し、

前方から迫り来る奴らを見て私は改めて思う。


あれがどんなに人間を模倣したとしても、所詮はただの作り物であり、単なる道具だ。

生きてる物ではない。元々生死すらないもの。


なら、何を気に病み、悲しむ必要があるのか。

なら、何を気遣い、恐れる必要があるのか。


そんなものありはしない。

だから、私は存分に苛立ちを発散出来る。

奴らを使い捨てのサンドバッグのように扱い、

殴り付けて得点を競うゲーム機のようにストレスをぶつけられる。


「皆さん、撃ち漏らしがあったら宜しくお願いしますね?」


内心を隠しながら私は着いて来て貰っている隊員達にお願いする。

隊員達は迫りくるクローン達に緊張しながらも力強く頷いてくれた。

そして、ソラちゃんは頷く代わりにウインクをしてくれる。

きっと思いっ切りやれと暗に言ってくれているのだろう。


……じゃあ、そろそろ八つ当たりを始めましょうか。


「──"飛風"っ‼!」


蟠りと憤懣を声と刀に込めて、私は開幕から"飛風"を敵陣へと放った。

全方位に幅広くして逃げ場を無くし、厚みを出させて大群への対応力を持たせた風刃の壁。

当たったものを削り潰す殺意の塊がクローン達の反抗を全て押し潰して到達する。


瞬間、研磨機が物を削り出す時に生じる音が、何倍にも増幅されたような凄まじい轟音が鳴る。

それが収まった頃、廊下を埋め尽くしていたクローンの一切合切が粉になって消えていた。


……でも、力を込めすぎたせいで建物の壁も消し飛ばしちゃった。

この修繕費ってカスミ達が負担してくれるのかな……?


「……す、凄い……」

「こ、これが……救世主の力なのか……」


その光景を見ていた隊員達が、私の心配を余所に畏怖を含んだ感嘆の声を漏らす。

……ここで「これって経費で落とせます?」と聞く訳にもいかないか。

終わったら鹿場さんに聞くとして、次は壁を貫通しないように気を付けよう。


「……よし。では、皆さんはこの階にクローンの発生源があるか探して下さい。

 私はこの調子でクローンを排除していきますから」

「あっ、は、はい! 宜しくお願いします!」


私は自分が破壊した壁の事には触れず、振り返ってそう言うと、

隊員達はこの階層に点在する部屋の中を素早く捜索し出してくれる。


「流石、マチコさんですね」


ソラちゃんが近付いて来て、隊員達に聞こえないようにして私を褒めてくれた。

そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……。


「これ、弁償しないといけないよね……?」

「……ほんと、マチコさんは真面目ですねぇ。

 別にこのくらい不可抗力ですし、気にする必要ないですよ。

 っていうか、これで怒られるんだったら〈粘水〉でここら一帯を

 とりもちで埋め尽す作戦を提案した段階で止められてます。心配ないですって」

「……それもそうね」


廊下にある窓から見える外では白く粘ついた海が道路を覆い尽くし、

あらゆるビルの入り口をどろりと塞いでいる。確かに今更過ぎる話だった。


「そんな事より早く下の階に降りましょう。

 新しくクローン達が部屋から現れない以上、その階に発生源はない筈です。

 なので、部屋の探索は隊員の人達に任せて、私達はどんどん下に降りていくべきです。

 その方が隊員の人達も安全ですし、私達も戦い易いですから」

「……そうね。急ぎましょうか」


私達は隊員達にクローンを排除した後の部屋の探索を任せ、先へと進む事にした。

壁をなるべく破壊しないようにクローンを"飛風"で消し飛ばして、

各部屋から出てこない事を確認してはまた次の階へと降りていく。


そうして段々と下へと降りていったが、一向に発生源は見つからず、

やがて一番下……つまり、一階までやってきてしまった。


流れ作業の如く、一階にいるクローンを全て消し飛ばした後、

私達は新しくクローンが現れない事に気が付いた。

一階に降りる前まではクローンを倒して階段を降りると、

必ず湧いて出て来ていたのに全く姿を現さない。


恐らくこのビルにいたクローンは品切れになったのだろうと仮定し、

私達はエントランスホール、ラウンジ、エレベーターホール……と、

一階部分を隈なく探索してみたが、発生源らしきものは見つけられなかった。

また、地下に降りる為の階段もなかったし、念の為確認したが、

ビル案内板にも地下にテナントがある表記はなかった。


いったい発生源は何処に──いつの間にか"飛風"で破壊してたの?

まさか、私達が近付いてきたから何処かに移動したとか……?


「うーん……ソラちゃん。どう思う?」

「……ちょっと待って下さいね」


ソラちゃんは携帯を取り出して誰かに電話を掛け出した。

連絡を取ったのは私達と一緒に行動していた隊の責任者だった。

その彼にソラちゃんはそちらに敵が来たかどうかと、

何か手掛かりは見つけられたかどうかを尋ねる。


彼は「部屋に閉じ込められていたクローン数体と遭遇はしたが、

今の所クローンが自分達に向かって来てはいない。

また、手掛かりも見つけられてない」と返した。


その情報を聞いた後、ソラちゃんは隊員との通話を切り、

唇に手を当て状況を整理するように独り言を呟き始めた。


「……階段は私達が通ってきた一箇所のみ。エレベーターは動かない。

 敵は常に下の階からやってきてた……隊員の人はクローンに襲われてないし、

 一階には発生源らしきものはない……なら、やっぱり……」


考えが纏まったのか、ソラちゃんは私に視線を向けてきて、地面を指差してきた。


「マチコさん。この床、破壊してみてくれますか?」

「はっ?」


まるで食卓を囲った家族が『そこの醤油取って』と言うかのように、ソラちゃんはそうお願いしてきた。

物理的に出来る事ではあるが、常識的にやっていい事では全く無い。

この子は何を考えているんだろう?


……って、そうじゃないか。


「──下に、何かがあるのね?」

「恐らく」


なら、やるしかないかぁ……。

相棒に従い、私は意を決してビルの床に"飛風" を放った。

今回の"飛風"は床を円状に大きく刳り貫くように操作する。

そうして床に"丸い窓"が完成したので、私達はその窓の縁から真下を覗いてみる。


すると、そこには──大量のクローンの腕がベルトコンベアーで流されている光景があった。


「これは……ビンゴってことよね?」

「はい。あれが、クローンの発生源の"工場"ですね」


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