表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/178

第169話 地球様製のアイテムはコスパがいいですね

それから鹿場さんは隊員達に〈粘水〉の弾薬を渡していってくれた。

弾薬に込められている〈粘水〉を放出させるにはソラちゃんの鉄砲で発射するか、

弾薬を何らかの方法で破壊するかの二択になる。

また、弾薬は対して耐久性はないので、

トンカチで叩いたりするだけでも簡単に破壊する事が出来るらしい。


ソラちゃんは鹿場さんから隊が所有している兵器やアイテムはどんなものがあるのかを聞き出し、

どうやって弾薬を破壊するかを決めてくれた。


その方法とは──先ず〈粘水〉の弾薬をバリケードの残骸などの端材に〈粘水〉を使ってくっつけ、

次に弾薬を貼り付けた端材に時限爆弾を取り付ける。

最後に敵陣に端材を投げ込んで爆破させれば……クローン達はその場に釘付けという寸法らしい。


端材を投げ込む位置には気を使う必要があるみたいだけど、実にシンプルな作戦だ。


「左右は建物の数が少ないからか、クローンの数も少ないので、

 放水量を多くするのは前後方が良いでしょう。それと破裂させる位置はこの辺りを……」


ソラちゃんはこの一帯周辺の簡易的な地図を用いて鹿場さんに作戦内容を伝えていて、

鹿場さんはその話をひたすら真剣に聞き、何度も相槌を打っていた。

女子高生の提案だからと馬鹿にする様子は微塵もない。

素直に話を受け入れる姿勢というのは歳を重ねる毎に摩耗してしまいがちだが、

この人にはまるで関係のない話のようだ。


それから数十分後、作戦を聞き終えた部隊が配置に付く。

四角形に展開しているバリケードを抑えて〈粘水〉の水流で流されないようにする斑と、

〈粘水〉の弾薬と爆弾を付けた端材を投げ込む斑に分かれ、隊長の指示をその場で待つ。

この間も、ずっと作戦に参加せずに残って貰った隊員達によってバリケードは守られていたが、

作戦を実行する為に隊員を割いたのもあり、既に防衛網は風前の灯火だった。


だが、これからその燻ぶっていた火は反撃の狼煙となる。


「ふぅぅ……」


指示を出す為の無線機を手に持ち、鹿場さんは深く息を吐いた。

そして、隊員の位置や状態を目視して、各隊員が作戦を全う出来るのかを確認し、再び息を吐く。

鹿場さんはそれを何度も繰り返していた。

きっと作戦が失敗した場合の事を憂い、恐れているのだろう。


「……鹿場さん」


私が呼びかけると、鹿場さんはハッとなり私へ振り返った。

そうして向けられた視線を受け止めるように、私は鷹揚に構えて笑いかける。


「大丈夫です。私達がいます。私達が、なんとかしますから」


私の笑顔と言葉を受けた鹿場さんは幾分か落ち着きを取り戻してくれたようで、安心した笑みを浮かべて頷いた。


……本当にガラでもない事をさせる仕事だ。

騙しているみたいで気が引けて、心にチクチクと棘が刺さる。

いや、実際になんとかして見せるつもりではあるんだけど、

運営の片棒をかついでるみたいで……なんともモヤっとさせてくる。


だが、そんな心境を悟らせてはいけない。

私は笑顔の仮面を被ったまま、鹿場さんを見守る。


鹿場さんは無線機を持ち直してから、三度目の息を吐いた。

それから無線機のスイッチを押して、ゆっくりと口を開いた。


「各員──構え」


指示の下、反撃の端材を持った隊員達が投げる為の構えを取る。

全員が構えた事を確認し終えて、隊長は撃鉄を下ろすように声を張り上げて言う。


「放てぇっ!!!」


その合図と共に隊員達が端材を敵陣へと投げ込んだ。

投げ込まれた端材をクローン達は眺めるだけで何もせず、

自身の頭にそれがコツンと当たるのを許した。


その結果、クローンは全身を白く染められる。

爆発した端材から怒涛の勢いで〈粘水〉が溢れ出し、

クローン達を次々と呑み込み、辺り一面が一瞬にして真っ白になっていく。


「ぐっ……⁉ お、おぉおおおっ‼」

「ぜっ、絶対にバリケードを倒すなっ‼ 持ち堪えろぉぉ‼」


烈々たる白い濁流は敵を呑み込むだけに飽き足らず、私達をも巻き込もうと流れ込んでくるが、

隊員達が必死にバリケードを抑え込む事で流れは塞き止められている。

だが、左右からの波はなんとか受け止められそうだが、

前後方からの波は持ち堪える事は厳しそうに見えた。


このままじゃまずいわね……!


「真人さん! 後ろをお願い!」

「あぁ、任せろ!」


私と真人さんはバリケードまで素早く移動し、隊員達達と一緒にバリケードを抑え込んだ。

凄まじい圧力だ。これは流石に私でも一人で抑え込むのは無理だっただろう。


「た、助かります‼ 救世主様‼」

「いえ、こちらこそ! 一緒に頑張りましょう!」

「は、はい‼」


私と隊員達の頑張りによって、荒れ狂う濁流はバリケードを超えずに抑え込まれて、

放たれた全ての〈粘水〉は液体から固体へと変わり、

バリケードを起点にとりもちの地面が出来上がった。


私と真人さん──そして、全ての隊員達が懸命に守り抜いた陣地は、

まるで型抜きをされた後のクッキー生地のように綺麗に四角く、

とりもちの地面からくり抜かれる形となった。


「あ……と、止まったぞ……!」

「クローン達の……クローン達の動きが……止まったぞぉおお‼」

「やったぞ‼ 俺達はやり遂げたんだぁああ‼」


その光景を見た隊員達から歓声が上がった。

クローン達の魔の手から助かった安堵と、

作戦を成功させた喜びを一人一人が噛み締め、笑みや涙へと変えていく。


「まだだ!!!」

「っ!!?」


しかし、そこで鹿場さんが冷水を浴びせるように隊員達に怒号を飛ばして、隊員達が静まり返る。

そう、戦いはまだ終わっていない。


「まだ戦いは終わっていない‼ 今こそが好機だ‼

 これよりクローン達が生み出されているビルへと乗り込む‼

 戦える気力がある者だけ私と佐藤様に着いてこい‼」

「っ! ──了解‼」


それからまだ余力が残されている隊員達は拠点防衛斑と敵陣襲撃斑に分かれ、

襲撃斑の隊員と鹿場さんは空飛ぶ車へと乗り込んでいく。


「佐藤様! こちらへ!」

「ありがとうございます! 行こ! ソラちゃん!」

「はい!」


そして、私とソラちゃんも隊員の一人に案内されるまま空飛ぶ車へと乗り込む。

真人さんは他の隊員達と一緒に別のビルへ襲撃して貰う為、私達とは別行動となり、

私が協力する部隊と真人さんが協力する部隊の2部隊に分かれ、ビルへと攻め込む手筈となっている。


「じゃあ、真人さん。頑張ってね!」

「あぁ、そちらもな!」


真人さんと挨拶を済ませて、私達は空飛ぶ車でクローンが生み出されていたビルの屋上まで移動していく。

空から下を見れば、白い地面からクローン達の頭や手足があちこちから飛び出しているのが目に入った。

なんとも奇妙で不気味な光景で背筋がゾクリとするものがあったが、

もしかしたら難を逃れたクローンがいるかもしれない。

そう考えて嫌々ながらも辺りを見渡したが、動いているクローンはいなかった。

また、ビルの入り口も〈粘水〉によって完全に塞がれていて、

クローン達が這い出てくる様子も見られない。


「はぁ……取り敢えずは抑えられてるみたいね……」

「ですが、あくまで発生源を抑えただけです。

 この隙にクローンの発生源を根絶する事が出来なければ、

 結局意味がありません。ここが正念場です」

「……ビルの中はクローンでびっしりなんでしょうね……」

「あー、それはまぁ……でも、入り口を抑えてるだけで、

 ビルには窓もありますから、そこから"漏れ出る"クローンも必ずいる筈ですし、

 空間を埋め尽くす程いる訳ではないと思いますよ?」

「なら、まだ……ん? それって大丈──あ、いや、出てもとりもちが待ってるのか」


一瞬クローンが窓から外に出ると聞いて不安になったが、

よく考えれば窓から出ても、外はとりもちで埋め尽くされているので、

ナントカホイホイの如く、クローン達はその場で動けなくなる。

だが、それでも何百何千と窓から排出されたら、いずれそこにはクローンの地面が出来上がってしまうだろう。

なので、時間があると楽観視は出来ないが、直ぐに戦況をひっくり返される事もない筈だ。

だから、不安な顔になる必要はない。そんな顔を私がしてはダメだ。


「はい。心配はありません。それにマチコさんの"飛風"ならクローンは一撃で粉々になりますし、

 ビルの中なので基本的に細長い廊下で相手する事になりますから、対処はかなりし易い筈です。

 いっその事、ストレス発散の道具として使い潰すつもりでいきましょうよ!」

「──!」

「え、えぇ……?」


ソラちゃんが笑顔で言った言葉に運転手をやってくれている隊員が引いた。

それは救世主という立場からすると中々に頷き辛い発想だ。そうなるのも無理はない。

けれど、その言葉は"私"という普通のOLにとっては100点の発想だった。


「……そうね。ソラちゃん。そのくらいの気概でいかなくちゃね?」

「はい! 頑張りましょうね!」


私は敢えて取り繕おう為にそう返事をしたが、

隊員の人には気付かれないようにソラちゃんと熱い握手を交わしていた。


また、ソラちゃんに助けられた。

そうだ。なにも裏表関係なく救世主でいる必要なんてない。

表で救世主の仮面を被る努力だけすればいい。

裏で何を思っているのかなんて、気にする必要は最初から無かったんだ。


だって、私は元々ヒーローなんかじゃないんだから。



「……精々、遊ばせて貰いましょうか」



目下のビルを見下ろし、わざとらしくほくそ笑みながら、

私はソラちゃんにだけ聞こえる声量でそう呟く。

そして、その笑顔に答える様に相棒はニヤリと微笑んだのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ