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第167話 務めの一つであり、苦痛の一つだ

「……しかし、〈プロテイン〉かぁ。なんでこんな形にしてくれたんだか」

「経口摂取の方が効果が高かったりするからでしょうか?

 機会があれば、直接地球さんに聞いてみても良いかもしれないですね」

「……聞く機会なんてあるのかな?」

「わたしはあると思ってますよ」

「そうなの? 会わないって言ってたのにねぇ……」


ソラちゃんと話しつつ、みんなが飲んでいる〈プロテイン〉がどういうものか気になり、

私は〈プロテイン〉の封を開けて中を覗いてみる。

そこに入っていた粉末と付属のスプーンは一見すると何の変哲もないものだった。

しかし、事前に命素で出来ていると聞いていたので、

私有地の看板を看破したあのやり方で中身を見てみると、

中に入っている粉末の色が一気に変わっていく。


「……うわぁ……」


そうしてココア味に相応しかった柔らかな茶色だったものは、

あっという間にペイントツールで塗り潰したかのように真っ黒く変色した。

まるで光が完全に遮断されているかのようなドス黒さだ。

見るんじゃなかった……こんなもの飲みたくないわ……。


「どうしましたか? マチコさん?」

「……あー、えっと……ソラちゃんもこれ、飲んだのよね?」

「え? あ、はい一応。私は試しにスプーン10分の1の分量で既に飲んでます。

 わたしは命素を操る事は出来ませんが、外部から命素を取り入れた時の感覚を掴めれば、

 もしかしたら操れるかもしれないと、真人さんからアドバイスを受けたので……」

「そ、そう……」


ほ、本当に飲んでるんだこれ……。

どうしよう、ちょっと嫌かも……。


「……あのマチコさん。もしかして〈プロテイン〉の中身って、見た目と違──」

「そ、そんな訳ないでしょ⁉ 大丈夫! 見た目通り綺麗な茶色だから!

 ペン○ブラックとか黒色○双で塗りたくったようなナニカになんてなってないから!」

「…………成る程。本当はそんな色してるんですね……確かにそれは、飲みたくないなぁ……」


し、しまった、口に出ちゃってた!

ただソラちゃんはそれを聞いた時は嫌そうな顔をしていたが、すぐ思い直したのか勇ましげに笑った。


「まぁ、でも言っても色の違いだけなんですよね?

 だったら安い代償です。それだけ我慢するだけで強くなれるのなら、毎日だって飲んでみせますよ」

「そ、そう? でも、ソラちゃん……成分表見たけど、

 そんな事しちゃったら……太っちゃうわよ? それも滅茶苦茶に……」

「大丈夫です! その分運動すればいいだけですから!」


ソラちゃんは両手でガッツポーズを取りながらそう言ったが、

この〈プロテイン〉は市販の物とは比較にならない程に

物凄い量のタンパク質や脂質といった身体を構成する栄養素がこれでもかと配合されている。

カロリーだけ見てもラーメン三杯分くらいはあるというのに……!

こ、これを毎日仮に飲んだら一体どれ程の脂肪になる?

これを消費するまで、どれ程の運動量が必要になるというんだ……?


ゴクリと喉を鳴らし、私はソラちゃんの覚悟に戦慄する。

まさか、デ──ふくよかになるのを許容してる訳がないだろうし、

ソラちゃんは最低でも毎日ラーメン三杯のカロリーを消費するつもりだという事だ。

それが如何に大変なのかは一度でもダイエットに真剣に取り組んだ人ならわかるだろう。

なんて凄い覚悟なんだ……!


「……いや、寧ろ運動はしないくらいがちょうどいいかもしれんな」

「……! ま、真人さん⁉ 何言ってるの! そんな事女子に言っちゃ駄目よ!」


しかし、そこで真人さんが口を挟んできて信じられない事を言ってきた。

いくらソラちゃんがスタイル抜群だからと言って、それはデリカシーが無さ過ぎる発言だ。

ソラちゃんも心外だと言わんばかりに両腕を上げて、その発言に抗議してくる。


「真人さん‼ わたしがデブになっても構わないって言うんですか⁉ それはあんまりですよっ‼」

「そうよそうよ!」

「い、いや、そうではない。〈プロテイン〉を飲んでみて分かったのだが、

 このアイテムを摂取すると身体の内側が燃えているような感覚を覚えるんだ。

 というか、笠羽殿は既に飲んでるから知っているだろう?」

「……!」


身体が燃えるような感覚と聞き、私の頭の中で〈成長玉〉を過剰摂取した時の記憶がフラッシュバックした。

あの時に感じた……煮え滾り内側から溶かされるような熱と、身体中を崩壊するのではと錯覚する程の痛み。

苦痛の度合いでは比ぶべくもないだろうが、もしかしたら原理としては一緒だったのかもしれない。


「あの感覚を説明するなら、自分の肉体を燃料にして身体の中に命素の保有量を増やしていると表現するべきだろうか。

 恐らくだが、あの熱は命素を自分のものにする為の、

 身体が引き起こす急激な代謝反応と防護機能によるものなのだと思う。

 だから、〈プロテイン〉に身体を構成する栄養素を多分に含ませる事で、

 肉体の浪費を極力無くすようにしているのではないか……と、思ってな」

「……成る程! つまり、ダイエットする必要はないと言う事ですね! よかったよかった!」


今日初めて知ったかのように、ソラちゃんは大げさに明るく振る舞ってそう言った。

……いや、気にする所はそこではないと思う。


「……まぁ、そう言えると思うが……どちらにせよ、流石に毎日これを摂取するのは危険だと思うぞ。

 何せ身体を消費してるんだ。肉体的疲労は当然溜まるし、

 取り入れた命素を自分に馴染ませるのはかなりの集中力がいるから精神力も減る。

 特に笠羽殿はまだ命素のコントロールを出来ていないんだ。

 摂取する回数は抑えた方が良いだろう」

「……はぁい。分かりました。止めときまーすぅ」


まぁ、この子がその問題点に気付いて無かった訳がない。

ソラちゃんは不満そうに真人さんに返事をした。


……それにしてもさっきの真人さんの言動は、

つい最近地球で暮らし出した──明け透けに言ってしまえばモンスターが発せられるようなものでは無い気がする。

一応、カスミ達が国会議事堂をジャックする前に空いていた一週間で

真人さん達の修行が終わった時に常識や生活の知恵といったようなものを教えていたりもしたが、

生物に関する知識なんて私は教えた覚えはない。

きっと、ソラちゃんとの会話で知見を得たんだろうけど……

そんな事まで話す状況にこの短期間で何があったらなるんだろうか?

高度過ぎてよく分からない。


「……はぁ、そうですよねぇ。

 先ずわたしは先ず命素を操れるようになる所からなんですよねぇ……頑張らないとなぁ」

「ソラちゃんなら絶対出来るわよ! もし出来なくても私が教えるし!」

「……そうですね! でも、もし自力で出来そうに無かったら、マチコさんに甘えさせて貰いますね?」

「うん! 任せて!」

「うむ。俺も出来る限り手伝わせて貰おう。

 だが、その前に……お前達は俺を呼びに来たのでは無かったか?」

「あっ! 忘れる所だった!」


私達は真人さんに呼び出しが掛かった事を伝えた。

そして、三人で現場に向かう為に家から外に出て、家の庭にある看板の前まで急ぐ。


この空間に転送された時、私達が最初にいた所にはあの空き地に立てられていた看板が同じ様に立っていた。

地球から受け取った説明書を確認するに、看板──つまり、〈ワープビーコン〉を利用すれば空き地に戻る事が出来るらしい。


「じゃ、皆掴まって!」

「はーい♪」

「あぁ」


私達は看板の前に急いで集合する。

そして、私の肩にソラちゃんと真人さんが手を置いたのを見計らい、

私は〈ワープビーコン〉のスイッチを押す。


視界が渦を巻き身体が宙を舞ったような錯覚を感じ、

目に写る風景が自然豊かな彩りからただの暗闇へと切り替わる。

そうして空き地へと転移すると、空き地の前には志鶴さんと同じ制服を着た壮年の男性が立っていた。


屈強な身体つきに、白髪が混じった黒髪をオールバックにして、

厳しく眉を顰めて私達を見据えている様子はまさに熟練の警察官と呼べる雰囲気がある。

その人は私達が転移してきたのを見たと同時に敬礼をしてくれる。


「皆様、御足労頂きましてありがとうございます。

 私は国家保安警備隊第一大隊隊長の鹿場誠一郎しかば せいいちろうです。

 どうぞ宜しくお願いします」


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