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第160話 なら、今の私は何者なのだろう

真人さんの返事に疑問は残ったが、一先ずは泉から出した人を助ける事を優先し、

〈命素深水〉を洗い流した後、私達で神殿の外に運び出していると、

救援に来たであろう何台もの警察車両と救急車がこちらへとやってきた。


ただ、到着の仕方が想像とは大分違っていて、

その救援は地上から走ってきたのではなく、飛行機のように空を飛んでのご到着だった。

今まで散々色んな非現実的な現象を見てきたが、

これはちょっと現実感があり、見た時は却って驚きが強かった。

漫画やアニメで見た、いつか実現するのではと思っていた事が

こうもあっさりと叶っているのを見ると、感慨深さよりも呆れが先に来てしまう。


「救援要請を頂いたとお聞きし参りました! 皆様! ご無事ですか⁉」


着陸した空飛ぶ車から降りてきたのは志鶴さんだった。

彼女は救援要請をしたということから私達がピンチになったと思っていたようで、

非常に焦った表情をしていたが、私や真人さんの身体を見て安心したようで溜息をついた。

しかし、続けてソラちゃんを見た時、志鶴さんはギョッとなって驚き、顔を真っ青にしてしまう。


「ど、どうしたんですか⁉ 身体中真っ赤じゃないですか‼ な、なにがあったんですか!!?」

「あ〜……、えっと、ごめんなさい。これは自業自得で、別に何かあった訳じゃなくて……」

「ちょっと待ってて下さい! い、今〈回復薬〉を!

 ささ、これを飲んで下さい! ほら口を開けて!」

「むぐぅ⁉」


慌てに慌てていた様子の志鶴さんはソラちゃんの言い分を碌に聞かず、

半ば強引にポケットから取り出した〈回復薬〉をソラちゃんの口に押し込んだ。


カスミが前に話していた事から考えるに、

ソラちゃんの火傷痕のような痣は怪我に該当するものでは無いので、

〈回復薬〉では治せないという話だった筈だ。

なので、見た目と飲み心地の悪い〈回復薬〉をわざわざ飲まないといけない理由はない。

ソラちゃんはバタバタと腕を振って抵抗していたが、

志鶴さんはソラちゃんに薬を飲ませる事に必死で、

止めてくれと意思表示しているソラちゃんに気づいていなかった。


そして、私が止める間もなくソラちゃんは〈回復薬〉を無理やり飲まされてしまった。


「〜〜っ!」

「よし! これで……あ、あれっ、治らない! も、もっと飲ませないと!」

「ごほっ……ま、待って下さい‼

 この痕は〈回復薬〉では治せないんです! 話を聞いて下さい!」

「え、えぇっ⁉ な、治せない⁉ ど、どうして……⁉」


そうして次の薬を取り出す前にソラちゃんが制止すると、

少しだけ落ち着いた志鶴さんは話を聞いてくれた。


助けた事には変わらないが、ソラちゃんが何の防護手段もなしに

危険な水の中に入って隊員を助けた理由は自分のステータスを高める事だ。

その本当の理由をわざわざ話す事もないと思ったのか、

そこは隠しつつソラちゃんが〈命素深水〉という危険な水で作られた泉の中から

隊員達を助けたからこうなったと説明すると、

志鶴さんは感涙して何度もソラちゃんに頭を下げて感謝を告げた。


お礼を言われているソラちゃんは「気にしないで下さい」と答えたが、

その顔は明らかに引き攣った笑顔でいつも通りの仮面が割れかけていた。

きっとソラちゃんは騙して勝ち取ってしまった感謝だと受け取ってしまっているのだろう。


でも、そこにどんな思惑があったとしても、

ソラちゃんが隊員の人達を助けようと動いてくれたのは事実だ。

誇る事こそすれ、恥じる必要は全く無い。


だから、私も……彼女の成果を祝福するべきなんだ。


「……ありがとうね。ソラちゃん」

「? ま、マチコさん?」

「相棒の私も、鼻が高いわ」

「──!」


どうにか受け入れて告げた私の言葉を聞き、ソラちゃんは目を見開いて驚く。

そして、少しだけ申し訳なさそうに、誇らしそうにして彼女は胸を張って言う。


「……はい! わたしは、マチコさんの相棒ですから!」







それから志鶴さんや他の隊員と一緒に、私達は救出した人達を車両へと運んでいった。

全員を運び終えた後、志鶴さんが私達に深々と頭を下げてくる。


「隊員達を救って下さり、本当にありがとうございました! この御恩は一生忘れません!」

「いえ、気にしないで下さい。連れ去られた人達はこれで全員ですか?」

「はい! 全員揃って無事です! 本当に、皆様には感謝してもしきれません……! う、ううっ〜!」


志鶴さんは感極まったと言わんばかりに腕で目を抑えながら泣き始めてしまった。

こんなに喜んでくれるとこちらもやって良かったと思える。

化け物と恐れられただけのあの時とは違う、真っ直ぐな感謝の気持ちは私にとっても救いに感じられた。


「ふふっ、私も皆さんを助けられて良かったです」

「佐藤様……やっぱり貴方は私達の救世主ですね!」

「うっ。あ、あはは……そうかもねぇ……」

「? あれ……? もしかして、佐藤様は救世主って呼ばれるのお嫌いなんですか?」

「──なっ!?」


バレた! 鋭いな志鶴さん……!

私のちょっとした反応だけで察してしまうなんて……!


「いや、マチコさんは顔に出過ぎなので、志鶴さんが鋭いとかじゃないですよ」

「えっ」

「確かに、俺もよく分かるな」

「い、いやぁ〜……あはは。確かに佐藤様の表情はなんというか、

 その素直──あ、いえ、凄く。そう! 自然体ですよね!」

「……無理矢理フォローしなくていいです」


そんなに顔に出てるかなぁ……?

学生時代はよく言われてたのは確かにそうなんだけど、

一応社会人になってからはそういう指摘は受けた事無かったのに。

色々あったからそこら辺のブレーキが壊れてきちゃってるのかな……?

仮にも救世主として活動するなら、ポーカーフェイスが必要な場面があるかもだし、ちょっと気を付けないと。


「そ、それより志鶴さん。私達はどうすればいいでしょうか?

 カスミからは貴方にこれからの方針や計画をお聞きするようにと聞いているのですが……」

「あ、はい! 承っています! 自分の車にお乗り下さい! 道中ご説明しますので!」


志鶴さんの言う通りに私達は案内された車両に乗り込む。

その車は一見すると普通のワゴン車で、車内も特に変わった所はなかった。

広々とした中は私とソラちゃんは勿論、とても体格の良い真人さんが入っても充分にスペースがある。


「さぁ、皆さん! しっかりとシートベルトをしてくださいね! 快適な空の旅を楽しむためにも!」


私達が乗り込んだのを見送った後、志鶴さんが運転席に乗って車を発進させる。

すると車はタイヤを地上には走らせず、

真上へと浮かび上がっていき、ビルを見下ろせる上空まで飛ぶ。


「わぁ……」


さっきは見るだけだったが、乗る立場になるとまた一段と感嘆するものがあった。

飛行機とは違った独特の乗り心地と一般的な車の閉塞感が合わさり、

一風変わった面白さと楽しさが感じられる。


「おぉ〜、これぞ未来って感じですね〜!」

「でしょう!? あたしも始めて乗った時は同じ事思っちゃいましたよ! 感動ですよねー!」

「こ、こんな四角い鉄の塊が空を飛ぶとは……安全性は大丈夫なのか?」

「大丈夫です! あたしはこの車をもう何十回と運転してますけど、こうして怪我もないですから!」


こんな乗り物を運転するのってなんとなく難しそうに感じるが、

志鶴さんは平然とした様子だ。恐らく万全に練習した故の自信があるだろう。


そんな頼もしい姿を見て安心した私は座席に身体を預けて一息つく。

隊員の人達も無事だったし、真人さんとソラちゃんも……色々と思う事はあるが、一応は無事だ。


これから、こんな感じの仕事が続くのだろうか?

そうだったら……まぁ、思ったよりは楽なのかもしれない。

一緒に仕事をする志鶴さんや隊員も良い人ばかりだし、

この調子なら地球の言う通り、救世主も仕事とそう変わらないと思える。


どうにかこなせそうで良かった……。


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