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第156話 あの成長速度であれば充分そうですね

真偽の怪しい答えを見送りの挨拶として聞いたその直後、

私達はクローンが暴れている防衛地点へと転移した。


いや、正確にはここからその地点とはまだ数十メートルくらいの距離がある。

近過ぎると戦火に巻き込まれる恐れがあるので、

その配慮として離れた所に転移させたのだろう。


そこから立ち昇る爆炎と耳が割れるような轟音が聞こえてきて、

悲痛さと必死さを感じさせる雄叫びと指示の声がそれらを迎え撃つ。


勿論、声を上げてるのはガチャ筐体を守ろうとしている警備隊の人達だ。

鉄砲を撃っていたり、ガチャアイテムらしき剣や槍で懸命にクローン部隊と交戦しているが、

警備隊の人達は既に疲弊して息を上げており、今にも陣形を崩しそうになっている。

このまま放っておけば間違いなく全滅してしまうだろう。


「……助けに行くわ。二人とも、良いわよね?」

「……その前にマチコさん。一つお聞きしたいのですが」

「えっ? な、何? こんな時に……」

「──マチコさんは、あのクローンを殺せますか?」


その質問をされた私は、思わず息を呑んでしまった。

私はただ単にクローンを無力化して止めようと考えていたが……

よく考えればクローンがただの人間と同じ様に対応して止まるとは限らない。


もしかしたら下手をすると……いや、しなくとも、

首を刎ねられても動いて反撃してくる可能性がある。

あぁ、そうか……確かに遠慮などしている場合ではなかった。

私の浅慮のせいで、助けられない人が出てしまうかもしれなかったんだ……。


「……ごめん。ソラちゃん。私、考えが甘かったわ」

「いえ、分かって頂ければ良いんです。

 ただ、あのクローンはカスミが言うにはあれは人間ではなく、

 人の見た目をした人格も知性もない人形という話でした。

 なので、あれを殺した所でマネキンを破壊したようなものです。

 気に病む理由は全くないと、わたしは思います」


……そういえば、そんな話もしてた。

余りにも目の前に見えるクローンが人間にしか見えないから忘れていた。

言われて防衛地点のあちこちに転がっているクローンを見れば、

その身体から血も流れていないし、四肢が外れていても断面には筋肉や骨もなく、

マネキンらしく、ただの肌色だけがあった。

成る程、あれは確かに人間じゃないみたいだ。


それに加えて……私は第二イベントで、

擬態モンスターという人のような見た目をした生物を殺してる。

やらなければならない理由があり、人間でも生物ないのであれば、

もはや躊躇う理由など有りはしない。


「──大丈夫。私は、あれを殺せるわ」

「……分かりました。それなら、わたしはもう止めません」


ソラちゃんは何とも言えない顔をしてそう言った。

安心したような、悲しんでいるような、色んな感情が入り交ざった表情だった。


「……行きましょう、二人とも。こんな茶番なんて、早く終わらせてやりましょう」

「はい! すぐに終わらせましょう!」

「あぁ、征こう!」


そして、私達は防衛地点に向かって駆け付けていく。

私は全速力で走って、ソラちゃんは真人さんの背中に乗って、現場まで一気に急行した。


「‼ き、君達は……!」

「や、やった! 来てくれたぞぉ‼ 俺達の救世主が‼」

「佐藤様が! 佐藤様が助けに来てくれたんだぁ!!」


事前に情報を知らされていたのは間違いでは無かったようで、

警備隊の人達はやって来た私達の姿を見て一様に喜びの声を上げていた。

うわぁ、小っ恥ずかしい……! これ、毎回聞く事になるの⁉


少し戦意が削がれてしまったが、それでも刀の勢いは衰える事はない。

私は警備隊を槍で胸を貫こうとしていたクローンの頭を切り飛ばす。


「あ、ありがとう!」

「どういたしまして!」


返事を返しながら、同じ様に追い詰められている人達を中心に助けていき、

クローンの数を次々と減らしていった。

初陣として使う〈空籠〉の使い勝手は〈冠天羅〉と何ら変わりない。

慣れた感覚で使えないかと、少しばかり心配していたが、杞憂だったようで良かった。


「──"飛風"!」


お馴染みの技によって何十体ものクローンが切り飛ばされて真っ二つとなる。

うん、やっぱり'飛風"もいつも通りの感覚で飛ばせるな。


クローン部隊は私を最優先で排除するべき相手と理解したようで、

他の人達を襲うのを止めて、全員で私へと襲い掛かってきた。


無表情とすら呼べない、印刷した人の顔を貼り付けただけの人形が一斉に私に殺到する。

……意図した訳じゃなかったけど、良いように誘導されてくれた。


「──ソラちゃん!」

「お任せを!」


そこで、敢えて戦況を見守っていたソラちゃんがニ挺の水鉄砲を発射する。


銃口から発射された二つの弾丸が集まっているクローン部隊の中央で着弾し、破裂する。

そうして溢れ出たのは〈粘水〉だ。

バシャリと放射状に拡がったトリモチが、

クローン達を雁字搦めにして動けなくしてくれる。


「"飛風"っ‼」


そこへ空かさず私が"とある意識"を持ちながら、

命素を込めて"飛風"を放った。

すると、狙い通りに"飛風"は形を変えて飛んでいき、

クローン達を粉々に引き裂いてくれた。


──今回放った"飛風"には出来る限り横幅を持たせる事と、

発生する鎌鼬の密度を上げる事を"意識"して命素を込めていた。

そして、その要望通りに命素は作用し、

敵をただ切り裂くだけの"飛風"は、飛来する斬撃の壁と化してくれた。

今まで威力だけを高める事だけを考えていたが……思った通りこういう使い方も出来るようだ。


……もっと早く知ってれば、東京ドームの時も少しは楽出来たのだろうが……まぁ、今更だろう。


急襲してきた私達に対応出来ず、多くのクローンが一連の攻撃によっていなくなったが、

まだチラホラと生き残っている個体もいる。


クローンが持っているガチャアイテムは当たり前だがどんな効果があるのかは分からない。

基本的な剣や槍といった近接武器を使っているみたいだが、

その武器が銃みたいに使えたり、火の玉や水の槍といった魔法とか、

相手を動けなくする光線とかを打てるかもしれない。


だから、第一イベントと同じで、

ここは相手に何もさせずに先手を打って勝つのがセオリーになるだろう。


「──レッツロック!」


そこで、ソラちゃんは二つの拳銃をクローン達へ連続で発砲した。

発射している弾は〈重水〉で、当たる度に次々とクローンをその重力で動けなくしていく。

遠距離からの素早い連続攻撃はそういった戦法を取る時には最適と言えるものだ。

それを可能としているのは地球から貰った銃のお陰というものあるだろうが、

偏にソラちゃんのガンスキルが高いからだろう。流石だ。


「オオォオオッ!!」


それとは打って変わって、真人さんは凄まじい勢いで

クローン達を強襲して瞬く間にその身体を切り飛ばしていっていた。

クローン達は真人さんを各々の武器で向かい撃とうとしていたが、

剣撃はサーベルで弾かれ、刺突は盾で受け流されて、

魔法はいとも簡単に躱されている。


……明らかに以前とは動きが違う。

やっぱり命素が使えるようになっただけじゃなくて、

ステータス値自体が上がっている感じがする。


でも、一体どうやって上げたんだろうか?

私の〈成長玉〉は真人さんには上げてないし、

ソラちゃんが持っている分を渡したとか……いや、それはないか。

もし余ってる〈成長玉〉があったのなら、

ソラちゃんはステータス値が仲間内で一番低い自分に使う筈だ。

仲間の戦力差を埋める為にも、

私の隣で戦いたいと思ってくれる彼女はそうすると思う。


しかし、だとすると……真人さんは何をしてあんなに強く?

もし何もしていないのなら、どんな理屈で──


「──っ!」


咄嗟に傾けた首の横を氷の礫が通り過ぎる。

危ない。ぼけっと悩んでたせいで怪我をする所だった。

考え込んでる場合じゃない。戦いに集中しなくては。


「……はぁああっ!」


私も真人さんに倣って敵に突っ込んでいき、その数を出来る限り早く減らしていった。

カスミが言っていた通り、クローンは戦闘用として向いていないようで、

私の動きを捉えられずにアイテムの効果を発動する間もなく斬られてくれる。


しかし、それでも難を逃れてアイテムを使える個体はどうしてもいる。

基本的に遠距離からの攻撃を放ってくる奴らだが、

どれもこれも直接的で速度も遅い。

飛んで来る吹き矢だって簡単に防げていた私が今更この程度防げない筈も無く、

見る見る内にクローンはその数を減らしていった。


やがて、最後の一体まで片付けて、その場には夥しい数のクローンの残骸が残された。

人間もどきの腕やら足やらが辺りに無数に散らばっている光景を見てると酷く気分が悪くなる。

今すぐにでも帰りたい気分だったが、まだ現場には戦っていた警備隊の人達が残っている。

私は残骸を見ないようにしてその人達へと声を掛ける。


「あの、大丈夫ですか?」

「あ……あり、がとう……助かった……」


近くにいた警備隊の一人に声をかけ、怪我の具合を見る。

必死にこの世界を守ろうと足掻いてくれたのだろう。

切り傷や打撲痕だらけで、見るも痛々しい姿だった。

私は〈空籠〉から〈回復薬〉を取り出し、警備隊の方に差し出す。


「これは……〈回復薬〉……?」

「はい、そうです。怪我をして動けないでしょうし、私が手伝っても大丈夫ですか?」

「た……たの、むよ……」


私は警備隊に口を開けて貰い、〈回復薬〉を服用させる。

そうしてあっという間に怪我が治っていき、顔色も良くなってくれたが、

怪我が酷かったせいか、完治とまではいかなかった。


「……もう一つ、お渡ししますね」

「い、いや、大丈夫だ。俺はもう充分に回復出来た。

 だから、それは他の隊員に分けてやって欲しい……悪いが、頼んでもいいだろうか?」


優しい方だ。まだ自分も痛みで辛い筈なのに……。

私はそのお願いを受け入れ、他の負傷している隊員に

〈回復薬〉を同じように服用させて貰い、怪我を治していった。


「た、助かったわ……ありがとう」

「元気になって良かったです」


それから私はソラちゃんと真人さんに手伝って貰い、

怪我をしている隊員を〈回復薬〉で治し続けた。

途中、一人一人に薬を使っていては負傷している隊員の多さから鑑みて、

明らかに数が足りなくなる事に気が付いたので、仕方なく半分ずつ使っていた。


それでも私は〈空籠〉に入れていた〈回復薬〉を全て使い切り、

ソラちゃんもカバンに入れていた分を殆ど使用してしまった──のだが、それでも数が足りそうにない。


「……これ以上使うと、わたし達の分が無くなってしまうのですが……」

「仕方ないわよ。全部使いましょう。人名優先よ」

「だ、駄目です! 救世主様の分まで使うなんて……!」

「そうです! 私達を助けたせいで貴方が死んでしまっては……!」 


……ほんと、どういう紹介の仕方したのよカスミは。

救世主様って呼ばれるのは遊びだったら悪い気はしないけど、

こんな真顔で言われたんじゃ、居心地悪いったらありゃしない。


「死にませんよ。先程の戦いを見て下さってましたよね?

 私達がクローンに負ける事はありえません。だから、安心して下さい」

「おぉ……なんて頼もしいんだ……」

「……救世主様……!」


私は安心して回復して貰う為に、警備隊の人達に強気に笑って見せた。

警備隊の人達はまるで崇拝する神を見つけたかのように私を見て感嘆の声を上げた。

中には拝んでいる人までいる。


……嫌だなぁ。この人達には悪いとは思うけど、

私はこんな風に慕われたくはない。重いと思ってしまうだけだ。

でも、ここにいる警備隊の人達はこんな戦争に急に参加させられて、きっと大変な思いをした筈。

なら、私が多少苦しくなるくらいでこの人達を救えるのなら安い対価だろう。


そうして〈回復薬〉を全部振るった後、遠くから誰かが走ってくるのが見えた。


「おーい、みんなぁ! 大丈夫かぁああ!」


背中にどでかいバックパックを背負い、両手にはトートバッグを持って、

慌てながらこちらにやってくる女性は普通の人間にしてはかなりのスピードを出している。

私や真人さん程ではないが、それでも自動車並みの速さはある気がする。


「あ、あれっ⁉ も、もう終わってるっ⁉」


青年は余程余裕が無かったのか、

私達がいる所から数メートルの距離まで近付いて、

やっと戦闘が終わった事に気が付いたようだった。

そうして私達のところまで辿り着いた彼は、

息を切らしながら両手のバックを地面に下ろした。


「はぁはぁ……ほ、本部から〈回復薬〉といった支援物資を色々持ってきたんですけど……

 どうやら、佐藤様が終わらせてくれてたみたいですね。

 あ、ありがとうございます……はぁはぁ……」

「え、えぇ……」


現れた青年はそう言った後、

少しの間両膝に手をついて息を荒くして呼吸を整えてから、

私達に敬礼して挨拶をしてきた。


「申し遅れました! 自分はこの度立ち上げられた

 "植木鉢"直下部隊である国家保安警備隊所属第二中隊隊長

 志鶴しづる 若葉わかばです! どうぞ宜しくお願いします!」


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