第152話 上手くいってしまったようですね
「はぁ、はぁ……やっと入れました。
今……皆様は……"あの御方"と話しておられたのですか?」
どうやら地球は話が終わるまで私達を追ってきたカスミ達を
何らかの方法で足止めしてくれていたらしい。
こうして彼らを止めていてくれたのを見ると、
やはり信用していい味方なのだと思うし、
ソラちゃんがやってきたカスミ達に対してしたり顔をしているのを見るに、
この展開はきっと私達の理想に近いものなのだろう。流石だ。
「えぇ。地球"さん"と話していました。何か問題が?」
「……ちっ、くそっ。やっぱりそうかよ……あの方から何を聞いた?
それとも──っ、それは! お、お前ら! あの方から何を受け取った!?」
ヒガンは私達が持っているアイテムを見つけて目を見開いた後、
ソラちゃんが持っている拳銃に手を伸ばしながら詰め寄ってきたので、
私は黒い刀を構えてソラちゃんを守る為に前に出る。
それからソラちゃんは私の後ろに隠れながらカスミ達を嘲笑う。
「おや? 貴方達の"スポンサー"さんに貰ったものを
貴方達が勝手に盗んでいいんですか? 問題行為になるのでは?」
「違う! 別に奪おうと考えてる訳じゃない!
危険があるかどうか確かめたいだけだ!
あの御方が創った物は細部が大雑把なんだよ!
命素の使用量の制限の仕方が甘かったりして、
使用者の身体の限界を考えていない仕様になってる事が多いんだよ!
命が惜しかったらそのアイテムを調べさせろ!」
「いやです。絶対に渡しません。
マチコさんと真人さんも、絶対に渡さないで下さいね?」
「う、うん」
「いえ、あの〜、本当に危険なんですよ〜。
あの御方はご自身と人間との違いを
まだ充分に理解出来ておられなくてぇ〜。
一歩間違えていたら、使っただけで死んでしまう可能性も……」
……何となくだが、二人は本気で言っている気がする。
特にミモザは私の同僚だったし中々に長い付き合いだったから、
これは演技ではないと感じられた。
まぁ、私は彼女に騙されていたし、
あの顔が本当に演技ではないとは断言出来ないのだが……
え、そんなに危ない代物なのこれ?
「ははは、その時は貴方達の計画は失敗ですねぇ?
計画に必要な役者である私達が死んでしまうんですから」
「くそっ、俺達を憎むのはわかるが、ここは話を聞いてくれ! マジであぶねぇんだよ!」
「佐藤さ……様〜、お願いします〜。どうか、この子を説得して──」
二人はソラちゃんを何とか説得しようとしていたが、
そこでカスミが二人の肩に手を置いた。
「ヒガン。ミモザ。仕方がありません。戻りましょう」
「なっ!? カスミ……だが!」
「カスミちゃん。でも……」
「話は戻ってからにして下さい。今は"会議"が最優先です」
「……っ……あぁ、わぁったよ。クソッ」
「……うん」
二人はソラちゃんの説得を諦め、
カスミと一緒に降りてきた階段から立ち去ろうとした。
随分と簡単に追求を諦めてくれたが……会議という単語から鑑みて、
恐らく地球に話を聞きに行って情報を聞き出すつもりなのだろう。
「もう帰るんですか?」
「はい。急用が入りましたので、勝手ながらこれで失礼致します」
「あらら〜それは大変ですね。何のようかは知りませんけど、頑張ってきて下さいね?」
「…………はい。励ましのお言葉を頂き、誠に感謝申し上げます。
では、これにて失礼致します」
そうしてカスミ達は灰色の煙に包まれて何処かに消えていった。
あんなドヤ顔で言った皮肉たっぷりの発言を受けても、
少し押し黙っただけで表情を変えずに対応する胆力は敵ながら大したものだ。
ソラちゃんは消えていったカスミ達を、
先程までしていたドヤ顔が嘘かと思えってしまう程に冷酷な顔で見送っていた。
そして、私へと向き直って勢いよく抱き着いてくる。
「……ソラちゃん?」
「……良かったです。上手くいって……。
これで漸く……少し、マチコさんのお役に立てました」
──本当にこの子は……。
私はソラちゃんを抱き締め返しながら、
愛おしさを込めて頭を優しく撫でて言う。
「……何言ってるの。ソラちゃんはいつでも、ずっと私を助けてくれてるわよ」
「マチコさん……違いますよ。私は……ほんの気休めしか」
「違うわ。私が言うのもなんだけど、
ソラちゃんは私の役に凄く、すごーく立ってくれてる。
今だって私の為に頑張ってくれて、地球さんからこんなに凄いアイテムと
超快適な場所を提供してくれるように言ってくれたじゃない」
「……でも、それは……マチコさんの功績があったからで」
「ううん。ソラちゃんが地球さんにお願いしてくれなかったら、
こんなにいい結果には成らなかった。
貴方は私の事を私よりもずっと大切に思ってくれて、
沢山助けてくれてるわ。本当に感謝してる」
「…………マチコさん」
「大丈夫。貴方は今までもこれからも……ずっと。私の最高の相棒よ」
「っ……うぅ……わぁああん」
ソラちゃんは私の言葉に目を潤ませた後、私の胸に顔を埋めて泣き始めてしまった。
抱き締める力が強くなって、私を包む温かさが更に大きくなった。
この子の心を表しているかのようなこの温かさが、
私にとっては大切で、何よりも有り難い想いだ。
「まぁ、相方の方は頼りないとは思うけどね」
「……そんな事、ないです。マチコさんこそ、
最高の……そう、最高の……私の相棒ですから」
大粒の涙を零しながらそう言ってくれたソラちゃんは、
とても綺麗な、満面の笑みを浮かべていた。