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第149話 そろそろ壊せそうですね

緊張した面持ちでソラちゃんはそう地球に尋ねた。

恐らくこの要望も私達にとっては重要なものなのだろう。

しかし、何故アイテムをここで要求したのだろう……?


『……ふむ。それは構わないけれど、その願いの意味を聞いてもいいかな?』

「……はい。この願いでわたしは運営の支配からの

 完全な脱却を成せばと考えています。

 地球さんが私達の身の安全を保証してくださると仰って下さるのならば、

 私は、その確固たる物証が欲しいのです」

『──そうか。君は彼らの手が一切入っていない

 "僕だけ"が作成したアイテムを貰う事で、

 万が一彼らが君達に危害を与えようとした時に

 守ってくれる"お守り"が欲しいんだね?』

「その通りです」


成る程、ソラちゃんが欲していたのはそれなのか。

確かに私達を運営の魔の手から守ってくれる物が身近にあれば、

私達も少しは安心してこれからの日々を過ごせる。

口約束だけで終わらせない為の確証として、

ソラちゃんはこれが一番に欲しかったのだろう。


『ふーむ、彼らも信用が無いねぇ。

 いや、当然と言えば当然なんだけど、僕から見れば

 一応彼らは君達に相当気を遣っているんだけどね。

 なにせ彼らは自分達の計画を進める中で、

 君達の命を誰一人として奪っていないのだから』

「……え? いや別の未来では沢山奪ってたし、この未来でも奪いかけてたけど?

 それに〈枯葉〉にされた人が自分の家族を殺したって話も……」

『あー……えっと。その、未来での虐殺は僕の失敗のせいだし、

 〈枯葉〉に選ばれて戦うように指示された人間は

 そういう風に"敵の動揺を誘う嘘"をつく様に設定されているんだ。

 だから、そんな事を言われたとしても実際には殺されていないよ。

 それに、彼らには僕を止める事は出来ないからね。

 彼らを責めるのは筋違い……あぁいや、

 それを僕が君に向かって言う資格はないか。ごめんね』


そう言って地球は気まずそうにして私に向かって頭を下げてくる。

……あの時、私を襲ってきた〈枯葉〉にされていたおじさんの家族は無事だったのか。

ずっと気に掛かっていたから、無事で良かった。


「……あれ? そういえば運営は貴方を止められないの?

 力の使い方を教えた立ち場なんでしょ?

 アイテムを上げるとか、勝手な事して貴方は大丈夫なの?」

『確かに命素の使い方は教えては貰ったけれど、

 それはただ使い方を教えてもらっただけに過ぎない。

 僕と彼らでは命素量の大きさに天と地ほどの差があるし、

 僕はこの世界の全ての命の源である星そのものであるのに対して、

 彼らはあくまでもたった5人の人間だ。

 力関係だけで言うのなら僕が絶対的に上なんだよ。

 だから、僕がその気になれば彼らは僕のする事に抵抗は出来ないんだ』


──あんな超常的な力を使いこなす存在ですら、

星からすれば取るに足らない存在なのか……。

確かにそんな凄い存在が味方になってくれれば、こんなに心強い事はないだろう。


ソラちゃんはそう考えて地球にお願いをしたのだと思うし、

理にかなった判断……だとは思う。

でも、ソラちゃん自身も賭けと言っていたが、

これは地球が私達に何の同情や関心も抱いていなければ成立しなかった取引だ。


例え運営の協力者である"あの御方"が地球であると分かったとしても、

地球にそんな感情があるという証拠は何一つなかった筈。

だから、恐らくソラちゃんは状況証拠と運営のやり取りだけで、

地球が感情を持っているのではと考えたのだと思う。


……ソラちゃんは一体、どれほどの覚悟と狂気を以て、

この賭けにベッドしたのだろう……?


『まぁでも、僕は力の使い方を教えてくれた彼らに感謝してるからね。

 彼らの計画は僕がギリギリ許せる範囲で進めて貰ってるんだよ』

「……罪のない人間を洗脳した事も、許せてたの?」

『その人間達はいずれ解放して、

 命も生活も最後には保証すると言ってあったからね。

 気はとても進まなかったけど、許したよ。

 現に今、君達がいるこの施設は彼らがその人間達の為に用意した場所だ。

 僕の内側に作られた場所だから暗いけど、

 この岩盤の壁も施設が機能すれば擬似的な太陽と空を作り出せるように

 設計していたから、この中でも僕の頭の上のように暮らせる筈だし、

 色々考えて建てたみたいだから不便さもない筈だよ』

「…………そう、なの」


────だからといって、許せるような事ではない。


けれど、地球からすればその人間達一人一人の生活というものが、

どれ程複雑で繊細なものかは分からないのだろう。

私達人間には他の動物が何を考えているのかを正確には分からないように、

彼も彼なりに優しさを私達人間に向けてくれてはいたのだ。

……それが、例え歪な優しさであったとしても。


『うん。ただ……僕は自分から生まれた生物は基本的に好きだけど、

 他の星や世界からやってきたものは嫌いなんだよね。

 外から降ってくる石は一々僕の頭を穴だらけにするし、

 他の星からやってきた奴は意味の分からない落書きや

 悪戯をしていったりするし、はっきり言って迷惑してるんだ。

 実際蓋を開けてみれば、最初はいいやつに見えていた彼らも

 そいつらと大して変わらなかった……はぁ、今はかなり後悔してるよ』

「後悔、してるの?」

『今は……だけどね。彼らに計画を進めて良いと許可したのは僕だ。

 理由はさっきも言った通り、僕は人間なんて嫌な奴ばかりだと思っていて、

 問題が改善するなら多少いなくなっても良いと思ったからだ。

 けれど、その考えは……彼らの計画を通して、君の生き様を見てから変わった』


地球はそう言いながら私から視線を外し、自分の手を宙に翳した。

すると見る見る内に地球の青白い手に黒い煙のような靄が

次々と集まってきて、形を成していく。


そうして出来た物は真っ黒な鞘に納められた日本刀だった。

鞘の表面では仄かに光る白い光と靄がゆらゆらと漂っており、

まるで真夜中に飛び交う蛍を表しているかのようだった。

幻想的な鞘より先には鈍い銀色をした丸い鍔と柄頭が付けられており、

柄を彩る柄糸は白銀の如く輝いている。


地球はその刀を生み出した後、鞘から刀を抜いた。

引き抜かれた刃はひたすらに真っ黒で、殆ど光を反射していない程に暗い。

しかし、刀の内側からは時折淡く白い光が漏れ出していて、

黒の刀身の輪郭をなぞるかのように照らしていた。


様々な形を見せる星空を切り取ったような、不思議な刀だ。

こんな刀を一瞬で創り出せるなんて……やはり、目の前の存在は只者ではないらしい。


それから地球は抜いた刀を鞘へと戻してから地面に置き、

また宙に手を翳して何かを創りつつ、話を再開した。


『君のおかげで人間にも微笑ましさや優しさがあると知り、

 命を豊かに育める存在である事を知った。

 だからこそ今では君達を蔑ろにして、

 我欲を満たそうとしている彼らを僕は嫌っているし、

 軽はずみに許可した事を後悔してるんだ』


次に作成されたのはサーベルと鎧だった。

二つとも特別な意匠もなく、先程作った芸術的な刀を

作製した者とは思えないけど只々無骨で頑丈そうなだけの武具だ。


……もしかして真人さんが"自分の外から来た存在"に作られた生物だから手抜きした?

いや、流石にそんな事ないか。


地球はそのサーベルと鎧を先程創った刀と同じ様に

地面に置いてから、またもや宙に手を翳す。


『そして、僕はそれを教えてくれた君を助けたい。

 だから、償いを込めて君と君が大切にしている仲間達の望みを叶えたいんだよ』


更に地球が創り上げたのは二丁の拳銃と大量の弾薬だった。

生み出された弾薬の頭はそれぞれ、水色、黒色、白色と塗られており、

各色毎に山盛りに生み出されて地面に置かれた。

二丁の拳銃はどちらも形状を見るにリボルバーのようで、やけに銃身が分厚くて四角い。

いかつい印象を受ける形状だが、それに反して銃はパステル調に巧みに染められており、

片方が寒色系、もう片方が暖色系の色によって色分けされている。

物々しい形状とは裏腹な色使いにより、

その二丁のリボルバーからは奇妙な可愛らしさが生まれていた。


それらアイテム全てを地面に置き終わってから、地球は両手を広げ告げてくる。

 


『さぁ、受け取ってくれ。これらが君達に送るアイテムだ』



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