第148話 なんて防護力……!
『でも、君になら答えて上げよう。理由は簡単さ。
君達人間が、僕を使って自分勝手に遊ぶからだよ』
子供の悪戯を叱るような口調とポーズで、青白い光が不満げにそう言った。
どういう意味か分からない私は具体的に説明をお願いすると、
青白い光は溜息をついて答え出す。
『……はぁ。じゃあ、例を上げていこう。
真っ先に物申したいのはあの核兵器とかいう物騒なものだね。
あんな馬鹿みたいに有害で危険な物を使われると困るんだよ。
僕に住んでる生物は君達だけじゃないんだよ?
あんな物を万が一にでもあっちこっちで爆発させられたら、
誰も生活出来ない環境になるわ、僕の自慢の自然が台無しになるわで最悪なんだよ!
そんなのがそこかしこに積み上がってるもんだから僕は気が気じゃない!
君達だって飼っているペットが死んじゃったり、
大事に育てた庭が台無しにされたら嫌じゃないの!?』
「……い、いや、嫌だけど……」
『だろう!? 君達はそんな酷い事を平気でやっているんだ!』
そう言って私に指をビシッと指した後も地球の叫びは止まらなかった。
彼(?)は身体全体ポーズを取って不満と憤懣を表現しつつ、話は続けた。
『他にもある! 君達が生み出したゴミだというのに
君達はそれを僕の色んな所で沢山捨ててるし、
ビルとかタワーとか色々な建物を乱雑に置きまくって
僕の"頭"を潰そうとしてくるし、挙げ句の果てには
僕を飛び出して他の星に移住しようとしてるんだよ!?
散々僕を良いように使ったから暮らし辛くなったのに、
自分達が困りそうだからって僕ごと捨てようとするなんて……
君達人間で例えるなら、慢性的に博打や酒に溺れていながら
献身的に支えてきた番を裏切った挙句、
あっけなく他のメスやオスに乗り換える行為だ!
全く酷い奴だと思わないかい!?』
「……あー……」
青白い光……いや、地球が言っている"頭"とは、恐らく"地面"を指しているのだろう。
その頭に上で私達人類は確かに地球環境の事など考慮せず、
好き放題して自分達の暮らしを良くしている。
最後の例えは妙に俗っぽかったが……成る程、私達人間は酷い事をしている。
怒り心頭となって地団駄を踏み出すのも納得だった。
「ご、ごめん……」
『……ふんっ。まぁ、とにかく僕はこれまでの生活に不満を持っていたんだ。
色々と地震とか環境を変えたりして頑張って抗議してきたけど、
君達は聞く耳を持ってくれないから程々困り果てていた。
でも、そんな中、彼らが……ガーパイス株式会社と名乗ってきた連中が
突然別の世界からやってきて、自分達の計画に協力すれば
僕の不満を解決できると言い出してきたんだ』
「……それで私達人間に復讐をしたくて協力を?」
『ううん、復讐とはまた違う。僕は問題を解決出来る手段を得たかっただけだ。
実際、命素っていう便利な力の使い方を教えて貰う事で、
今は計画の一環で行ってはいないけれど、
核兵器や廃棄物を処理出来るようになって、
会話だって出来るようになった。
彼らによって人間社会を変化されられるのを受け入れたのも、
君達の余裕を失わせて"余計なもの"を創らせない為だったし、
君達が酷い目に合っている現状は言ってみれば
二次災害によって引き起こされたものと言える。
その時の僕は人間を可愛がりたいとは、あまり考えられなかったしね』
つまり、地球はただ単に自分の要望を叶える方法の一つとして、運営に協力していたのか。
同じ人間の身の上からすれば堪ったものではないが、
私達人類が引き起こした自業自得の結果でもある訳か……。
成程、確かにお怒りはごもっともだし、何とかしたくもなる。
これでは地球の判断を責める事は出来ないだろう。
寧ろ、申し訳無さすら覚えてしまうくらいだ。
「……待って、"その時"って事は今は違うの?」
『まぁね。問題を解決出来る力を手に入れたから
心に余裕が出来たってのもあるだろうけど……
僕は彼らのお陰で、君達人間がとても面白い生物であると気付いたんだ。
元々、僕は感情というものがそれ程あるわけじゃなかったんだけど、
彼らに命素の使い方を教わってから心が豊かになり、
人間のように大きく、様々な感情を持つようになっていった。
そうして君達が映画や漫画を見て楽しむように、
僕は運営の計画によって奔走する君達を見て
感動したり、悲しんだり、楽しんだり出来るようになっていったんだ。
だから、今では一応は好きと言えるくらいになったよ。
君達を使い潰さないようにと彼らに言ったのも、それが理由さ』
……命素を使えるようになると、感情が豊かになるのか?
私は使えるようになってから、そんな風に感じた事はないが……
文字通り地球規模になると話が違ってくるのかもしれない。
『特に君の活躍は見ていて飽きなかった。
僕は君から道徳を学んでいったようなものだ。
まだまだ勉強不足ではあるけどね』
「……お役に立てて何よりね」
『さて、僕が彼らに協力した理由はこれで話したけど、他には質問はある?
何度も言うけど、答えられる範囲で答えるよ』
──どうしようか。
私が思いつく質問は、しても答えてはくれなそうなものばかりだ。
……ここはソラちゃんの意見を聞こうかな。
「……私はもうないかな。ソラちゃんはある?」
「──あります」
『うん、言ってみてくれ』
「……運営産ではない、地球さんが生み出したアイテムを、
頂く事は可能でしょうか?」