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第144話 まさか、あなたは

それを受けたカスミは明らかに動揺した顔になっていて、

その顔はあの茶番劇と同じ様に白々しいものではなくなって、

明らかにソラちゃんがカスミとの舌戦に勝ったと示唆している。


もしかして今の今まで、ソラちゃんはずっと動揺してる演技を? 

相棒の私ですら全く気付いてなかった。

なら、赤の他人のカスミは尚更気づけなかっただろう。


「……まさか……貴女は……これが、

 私が動揺する質問だと知っていたのですか? 

 何度も質問をしながらも追い詰められていると見せ掛け、

 私を油断させてからこの質問を投げかけて、

 "それ"が動揺する問いであると確かめる為に、

 それだけの為に……これまでずっと質問をしてきたのですか?」

「さぁ、どうでしょう? でも、やっぱり"そこ"みたいですね?

 あなたが踏み込めない、あなた達が唯一制御出来ない領域は」

「……しかし、貴女は"あの御方"の正体を知らない筈……」

「そんなの簡単に予測出来ましたよ。

 あなた達がこれまで話していた目的と、行ってきた計画とその内容。

 それと、命素っていうとんでもエネルギーの概要を考慮すれば、

 自ずと協力者の正体は絞れますから。

 そして、今まで貴方が語っていた──『追い詰められてこの世界に来た』という話。

 それが真実であるのなら、この世界でそんな大きな協力者に

 該当する存在の候補者は……"一つ"しかないですよね?」

「──っ!」


そこまで聞いたカスミはソラちゃんとの会話を切り上げて、

私に手を向けて何かしようとした。

しかし、カスミが行動する前に、それを見越していたらしい真人さんが、

ソラちゃんと私をお米のように抱き抱えて、

勢いよく病室の窓から飛び降りてしまった。


「えっ、ええええええ!?」


突然地面が近づいていく情景に私が驚いているのを尻目に、

ソラちゃんが真人さんに抱えられながら〈水鉄砲〉を地面に向けて噴射した。

激しい勢いの水が落下の勢いを抑えつつ、真人さんが病院の庭へと着地する。


「な、なにがっ……」

「真人さん! ここで私を下ろして下さい!

 降ろしたら、これを病室に!」

「おう!」


急激に変化した環境に私がついてないまま事態は進んでいく。


真人さんがソラちゃんを下ろした後、

ソラちゃんは〈水鉄砲〉のタンクを真人さんへと投げ渡す。

それから真人さんは先程まで私達がいた病室にタンクを投げた。

投げられたタンクは病室の天井で破裂してしまい、

病室を埋め尽くた洪水が窓からドバッと溢れ出す。


「な、なにしてんのぉ!?」


突然の暴挙に私が狼狽えていると、

ソラちゃんはリュックサックを背中ではなく前で背負い出し、

その中から新しいタンクを取り出して〈水鉄砲〉に装着した。


そうした後、真人さんの背中に〈水鉄砲〉をパシャリと当てて、

自分の背中を真人さんの背中へとくっつけた。


すると、不思議な事にソラちゃんの身体は

真人さんの背中に磁石のように引っ付いてしまった。

小柄なソラちゃんの身体は宙に浮いてしまい、

真人さんは人間サイズの縫いぐるみを背負っているような形になる。


……この状況から察するに、

先程付けかけたタンクには〈粘水〉が入っていたのだろう。

その〈粘水〉を接着剤代わりにして、

ソラちゃんは自分を真人さんの背中にくっつけた。

でも、一体なんの為に……? 


「!!? うわぁああ!!?」


考える間もなく、今度は全力疾走で真人さんは私達を担ぎながら、

真っ黒い道路を駆け出し始めた。

ソラちゃんは別の〈水鉄砲〉をリュックから取り出し、

二丁の〈水鉄砲〉をジェット噴射のように発射し始める。


それで、疑問は直ぐに解消された。

ソラちゃんが自分を真人さんの背中にくっつけた理由は、

真人さんのスピードをジェット噴射によって上げつつ、

同時に道路上に〈粘水〉をぶち撒けていく事によって、

追いかけてくるであろうカスミの妨害をする為だったのだ。


実際、真人さんは高速道路を行き交う車よりも、

ずっと速いスピードでこの真っ黒な道路を爆走している。


私はその光景に狼狽える他なかった。

いや、そんな発想も凄いんだけど、なんでいきなりこんな事になったの!?

なんで私達は逃げる事になってるのぉ!!?


「ナイスです! 真人さん!」

「全く! どのタイミングで逃げるのか分からなかったから、ヒヤヒヤしたぞ!」

「あははっ、ごめんなさい。かなり探り探りの作戦だったので!

 でも、本当に助かりましたよ!」


この会話から察するに二人はこうなる事が分かってたみたいだけど、

一体いつ作戦を立てて──?


「ですが、本当にアイコンタクトだけで察してくれるとは思いませんでした!」

「ええっ!?」

「フッ、お前が俺にそれをしてくる時など、

 マチコ殿を助け出そうとする時だけしかないだろう!

 後は場の流れからタイミングを察すれば良いだけだ。難しい話ではない!」


ま、マジか……私が知らない内に二人は相当息があったコンビになっていたらしい。

ちょっと嫉妬しちゃうけど、私を心配してやってくれた事だ。嬉しい話でしかない。


「ふ、二人とも! よくわかってないけど、ありがとう!

 ありがとうなんだけど、何が起きたのか聞きたいんだけど!?」

「ただ単に長ったらしく質問攻めして、

 本命の質問の答えを聞き出しただけですよ!」

「いや、それがよくわかってないんですけど!?」

「詳しい説明は後です! 今は、後ろのストーカー女をどうにかしないと!」

「!? ま、まさか……!?」


ふと、後ろを見れば必死の形相で私達を走って追いかけてくるカスミの姿があった。

私達が窓から飛び降りた時、遅れて飛び降りてきていたのだろう。

水槍を水平に連ねてサーフボードのように身体を載せて、

空中を凄い速さで移動しながら私達に迫ってきている。


……どっかの三つ編みのおじさんがやってたやつだ!


「〈紺業〉!!!」


カスミは私達を追いながらも、水で作られた槍を何十本も顕現させ、

私達の前に壁になるように突き刺してきた。


水槍がザクザクと道路に刺さり、

刺さった水槍の石突へと新たに水槍が次々と突き刺さっていく。

そうして水槍の壁は道路を完全に区切るものとなっていき、

高さにして5メートル以上の壁と化した。


そんな不可思議な壁を創作した後、

カスミは幾本かの槍を私達に向かって飛ばしてくる。


「っ、〈冠天羅〉!! "飛風"!!!」


私は抱き抱えられながらも〈冠天羅〉を胸から呼び出して引き抜き、

"飛風"で迫りくる水槍を横なぎに切り払った。

"飛風"によって水槍は霧散し、道路を濡らすだけに終わる。


「さっすがマチコさん!」

「あ、ありがとう! でも、前が……!」

「大丈夫です! 真人さん、行きますよ!」

「おう!」


そして、真人さんはそのまま前方を防ぐ水槍の壁に

ぶつかる勢いで接近していった。

こ、このまま体当たりでもするつもり!?


「ハァッ!!」


しかし、ぶつかる直前にソラちゃんが後方へと発射していた〈水鉄砲〉を、

地面に向けて噴射し、それに合わせて真人さんがジャンプした。

それにより三人の身体は水槍の壁を悠々と飛び越えた。


その後、ソラちゃんが再び後方へと〈水鉄砲〉を噴射する。

〈水鉄砲〉のジェット噴射により、空中を大きく滑空する私達。

これにより詰められていたカスミとの距離が大きく離れる事になった。


暫く滑空した後、ドォンという大きな音を立てて真人さんは着地する。

その衝撃で道路はひび割れ、私は頭をぐわんぐわんと揺らされるが、

真人さんは何事もなかったかのようにまたもや道路を駆け出し始めた。


そのせいで、私の頭はガクンと揺らされてしまい、

胃の中のものが込み上げてくる。



「…………吐きそう」

「が、我慢してください! マチコさん!

 その位置だと私にかかっちゃいますから!」



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