第139話 正しいままの姿で
私は湧き上がる感情のままに、カスミを鋭く睨みつけた。
病室の空気が固く凍りついたのを感じるが、カスミには動じている様子は見られない。
最初から私に恨まれる事を想定していたという事か?
「いえ、そのような意図はございません。
ただ、私は笠羽様に私共の計画の全容を
どこまで予測出来ているのかをお聞きしたかったたけです」
「そうは思えなかったけど?
現にソラちゃんはあんたを物凄い形相で睨んでたわけだし、
その言い訳は厳しいんじゃない?」
「笠羽様を誤解させてしまう言い方になり、
大変不愉快な思いをさせてしまった事、深くお詫び申し上げます。
しかしながら、繰り返しとなりますが、
私には笠羽様を脅迫したつもりは一切ございません。
私はただ、笠羽様が導き出した答えをお聞きし、
私共の計画との認識合わせが出来ればと考えていたのです」
「? どういう事……?」
混乱してきた私はソラちゃんの方を見る。
ソラちゃんはカスミの言った事に僅かに困惑したような顔になった後、
直ぐ様カスミを害虫を見るかのような目で睨んだ。
そして、ほんの少しの間顎に手を当てて考え込み、
その答えを出せたのか、カスミに向き直る。
「……全て、語っても?」
「はい。お願い致します」
カスミの言葉を受けてソラちゃんは複雑そうな顔をした後、
私をチラリと見てから語り出してくれる。
「……では、先ずは一言で言い当ててあげましょう。
貴方達の最終目的は……"立つ鳥跡を濁さず"でしょう?」
「──!!」
ソラちゃんの言ったその諺を聞いて、カスミは目を見開いて驚いた。
私にはどういう意味か全く分からなかったが、
カスミはしっかりとその意味を理解したようで、感心したように頷いて応えた。
「…………お見逸れしました。
まさか、そこまで予測出来ていらっしゃるとは。
流石の洞察力に感服致しました」
「…………わたしとしては正解であって欲しくなかったですよ。
間違いなら、どれだけ良かったか……」
ソラちゃんは実に悲しそうな顔で、独り言のようにそう呟いた。
私がソラちゃんにその理由を尋ねようとする前に、ソラちゃんは話を続けた。
「どうやら想定と違ってたみたいですが、本当に全て語ってもいいんですか?
貴方の認識不足のせいで、マチコさんが
危険な目に合うのは避けたいんですけどね?」
「……そうですね……」
そして、カスミは私をじっと見据えて後、口に片手を当てて悩み出した。
眉間に皺が寄っていて随分と真剣な表情に見えるが……
一体、運営の計画とは何なのだろうか?
国会で起こしたあの事件も計画の一部でしかない筈。
これまでガチャ運営が行ってきた事や、これからやる事全てを引っ括めて、
運営が目指している"最終目的"は──どういうものなんだろうか。
カスミの様子を見るに、ソラちゃんは運営が予想していた以上に、
その計画がどんなものなのかを掴んでいたみたいだけど……
くそっ、こんな事なら国会に強制的に召喚される前に、
無理矢理にでもソラちゃんから全部聞き出しておけば良かった。
そうしておけば、ソラちゃんが口止めされるような事はなかったかもしれないのに。
何分とまではいかないが、そこそこ長い間カスミは深く考えて込んでいた。
けれど、考えは纏ったようで、カスミは片手を離して閉じていた口を開き出した。
「お待たせして申し訳ございません。
笠羽様、貴方様が予想している計画の全容は
この場で話せるだけ話して頂いて問題ございません。
どうぞ宜しくお願い致します」
「──っ」
……意外な返答だ。
てっきり予想と違ったからはぐらかすか、
ぼかして伝えるようにソラちゃんに言うと思ったのに。
カスミのその返答を聞いて、今度はソラちゃんが目を見開く形となっていたが、
ソラちゃんにとってその返答は意外ではあったが、
予想外では無かったようで、殆ど間を置かずに返事をした。
「……そうですか。じゃあ、言わせて貰います」
そして、ソラちゃんは私の方を見て、悲痛さすら感じる顔付きになった。
……どうして、そんな顔に……?
「────どうか、気をしっかり持っていて下さいね」
そう私に念押ししてから、ソラちゃんはこう言った。
「貴方達がマチコさんに押し付けている計画。
それは『マチコさんという救世主を世界中で認知させ、
人類にとっての希望となって貰い、貴方達が去った後は人々を導く"王"として、
マチコさんにこの世界を統治してもらう』……というものですね?」
「…………はへぇっ?」