第129話 我が社員ながら弱すぎる!
『────顕現せよ!〈皓波〉!』
高田さんの煽りで血管が切れてしまった社長が、猛スピードで"シラナミ"と叫ぶ。
その言葉によって社長の胸に黒い渦が現れ、
そこから淡く金色に光る純白の長剣が飛び出てきた。
飛び出した長剣を握り締めた社長が猛スピードで高田さんへと迫る。
テレビを介して見た感想でしかないが、とんでもない速さに思える。
私よりも速いような気がする……流石に親玉は実力が違うみたいだ。
社長はその凄まじい速さの斬撃を高田さんへと振るう。
しかし、高田さんは斬撃がくる前に杖を光らせていた。
オレンジ色の光線が杖から放出され、
身体に当たるギリギリの所で迫りくる剣に光線がぶつかる。
たが、社長はその光線に押される事無く、
寧ろ放たれ続ける光線を剣で段々と押し返していった。
やがて光線を全て切り払い、高田さんが持っていた杖を剣で弾く。
『っ……』
『先ずは一人!』
手から弾かれた杖が宙を舞い、
社長の振るった凶刃が高田さんの身体を切り裂こうとする。
しかし、その前にヒガンが大剣を投げて高田さんの目の前へと突き刺し、
大剣を盾代わりにして社長が繰り出した斬撃を防いだ。
『チッ……邪魔をするな!!』
『ハッ!! やっぱり、こっちの方が手っ取り早いよなぁ!? 社長さんよぉ!?』
『黙れ! 奴隷の分際で私を嘲笑うな!!』
ヒガンの言葉に更に激昂した社長は、
長剣を横薙ぎにして大剣に叩きつけて弾き飛ばした後、
杖のように長剣を上へと掲げ、「"天泣"!!!」と叫んだ。
すると、国会議事堂の議場の中に光の雨が降り注いだ。
凄まじい勢いと密度で放たれたいくつもの光線が、
議場の屋根を無数に貫いて地上へと落ち、
カスミ達を穴凹にしようと襲い掛かる。
カスミはその光線を紙一重で躱していき、
ヒガンは投げた大剣を素早く拾い盾のように構えて光線を防いだ。
高田さんも弾かれた杖を間一髪で拾って、
半透明のバリアを生み出して光線から身を守る。
しかし、社長はジグザグに動き回って、
降り続ける光の雨を躱しながらもカスミ達へと接近し始めた。
光線への対処で手の回らない三人は、社長の接近を許してしまう。
社長はまず追い詰めていた高田さんを標的にした。
目にも留まらぬ勢いで剣の連撃が高田さんの張るバリアをいとも簡単に破壊した。
そして、そのままの勢いで放たれる斬撃が
高田さんへと殺到し、その身体から鮮血が舞う。
『ぅあ……』
『今度こそ一人目だ!』
高田さんが倒れた後、社長は次にヒガンを狙った。
光の雨を大剣を盾のように構えて凌いでいる為、
動けないでいるヒガンの横腹に長剣が振るわれるが、
ヒガンはその攻撃を社長の太腿を右脚で蹴りつける事で防ごうとする。
たが、その反撃は読まれていたようで、
横腹に向けて振られていた剣は急激に軌道を変えて、
ヒガンの振り上げていた足を深々と斬り裂いた。
それによって一瞬怯んだヒガンへと怒涛の斬撃が襲い、
ヒガンの身体をズタズタに引き裂く。
『がぁ……!!?』
『これで二人目!』
全身から血を流して地面へと倒れ込んだヒガンを足蹴にし、
最後の標的であるカスミへと社長が襲い掛かる。
未だ降り続ける光の雨を避けるのに精一杯であろうカスミは、
なけなしの余力で水の槍を社長へと繰り出す。
けれど、社長は余裕を持って水槍を長剣で叩き落として防ぎ、
カスミの懐まで駆け付けた。
カスミの身体を逆袈裟に斬り裂こうと社長の剣が迫る。
その剣撃をカスミは避けようとはせず、
何本もの水の槍を出現させて社長の持つ長剣へと殺到させた。
三叉に分かれた矛先がいくつも長剣を抑え込んだ事で、
社長は長剣を手から離してしまう。
『何っ……』
『甘く、見ないで下さい!』
明確に出来た社長の隙を狙い、
カスミは自身が握る水槍で社長の頭を突き刺そうと振るった。
そして、槍が社長の胸へと突き刺さろうとしたその瞬間、社長が叫んだ。
『──"皓波"!! "皓波"!!』
『っ!!?』
その瞬間、武器の名前を呼んだ事で、
〈アイテムボックスアプリ〉の機能により、
槍に抑えつけられていた長剣はボックス内へと格納されて消えた。
そして、間を置かずに再び武器の名前を呼んだ事で、
長剣が社長の胸から飛び出してきて、
カスミが突き出した槍へと丁度よくぶつかった。
それだけでカスミの攻撃は止められないが、
社長の狙いはそこではなく、刺突への牽制を兼ねつつ、
ボックス内から飛び出す長剣の勢いを殺す事だった。
社長は槍の矛先へ剣がぶつかったと同時に、
胸に押し戻された長剣を取って、横薙ぎに振るって槍を弾いた。
こんな使い方も出来るのか……ガチャ運営の社長らしく、
アイテムの使い方を熟知していると理解させられる戦い方だ。
そうして槍を弾かれて体勢を崩したカスミの身体に容赦なく一閃が走った。
上半身を大きく切り裂かれた身体から激しく血が吹き出して、
カスミも他の二人と同様に倒れてしまう。
あっという間に三人が倒れた事で光の雨も止み、
議場はこれまでの熱い討論が行われていた場所とは思えないほどに静かになる。
テレビの前には人間が血溜まりに沈んだ凄惨な光景が映し出され、
救世主と自称した誰かが、人々が微かな希望と呼べるものが、
無残にも潰えた事を否応なしに知らしめてくる。
『ふはははははははははは!!!』
その光景を作り出した社長が狂ったように大声で笑い、
戦いによって崩壊した議場に響いた。
血溜まりに沈むカスミの頭を足蹴にし、
勝ち誇ったようにペラペラと喋りだす。
『全く持って下らない!!!
その程度の実力で私に勝つつもりだったのか!?
私がお前達に全ての力を見せていたとでも思っていたのか!?
滑稽にも程がある!! そんな訳が無いだろう!!?
お前達如きが反逆を起こし、私の計画を白日の下に晒そうが、
私には何の痛手にもなりはしない!!
この力で捻じ伏せて、計画を修正すれば良いだけなのだからなぁ!?』
そういった後、社長はカスミの頭を蹴り飛ばした。
蹴られたカスミが瓦礫にぶつかって、力なく地面に落ちる。
まさに外道と呼ぶにふさわしい行為だ。
味方ではない人間がされているにしても、見ていると酷く腹立たしく感じる。
『この際だ‼ 放送を見ている者達に私自ら計画を語ってやろう‼
私の計画はお前達人間を私の都合の良い兵士に仕立て上げ、
私が支配するはずだった異世界へ侵略するというものだ!!
お前達を戦いの駒にする為にガチャアイテムを与え、
いざと信仰せんという時に操ろうとしていたのだよ!!
こいつらの言う通りになぁ!!?』
高田さんに地雷を踏まれて怒り狂って行動してしまった事で、
もうごまかせないと開き直ったのか、
社長が自らの悪行を自慢でもしてるかのように認め出した。
そして、更に社長は大袈裟な身振りを取りつつ、
誰もいない静まり返った議場で弁舌を振るう。
『何故私が今、お前達に計画を話したのかわかるか!?
何故これまでガチャアイテムを使った奴らを手っ取り早く操らずに、
自由にさせていたのかわかるか!?
それはただ私が慈悲を与えていただけに過ぎない!
お前達を自分達も気付かない内に洗脳出来ていれば、
無駄に手駒になる貴様らの数を減らさずに済んだからだ!
だが、その慈悲もこいつらのせいで無駄になってしまった!』
社長は倒れ伏すカスミ達にビシッと指を刺してそう言ったが、
カスミの話では社長が私達を永久的に洗脳出来なかった理由は、
"あの御方"に禁止させられていたからという話だ。
やはり、このシナリオでは名前を出さない方針なのか、
それとも本当は"あの御方"なんて存在しないのか……。
それはわからないが、兎に角社長はここでは
自分の気まぐれでそうしていたという事にするらしい。
ここでカスミ達が悪いと侮蔑的に発言する事で、
逆に社長は自分が悪者であると視聴者に強調しているのだろう。
『あぁ、可哀想に。
お前達が私の計画を不用意にこの世界の人間達に晒したせいで、
お前達が救いたかった大事な"皆様"はこれまで以上に酷い目にあう!
私は"皆様"にこの絶対的な力を行使し言う事を聞かせて、
馬車馬のように兵隊として働いて貰うしか無くなった!
お前達のせいで! この世界の人間共は
僅かばかりの幸福も失ってしまったんだ!』
社長はそこまで言った後、
戦いによって横倒しになっていた演壇を立て直し、
これまでカスミがやっていたように、
台に腕を大きく広げて置き、こう宣言した。
『これより、私は全世界に宣戦布告する!!!
私は貴様らを一人残らず捕らえ、どんな手を使ってでも言う事を聞かせる!!
暴力! 洗脳! 催眠! どんな手でもだ!!
私に従え奴隷共!! 私はこの世界の支配者になる男だ!!!
ふふふ、ははは……ふはははははははっ!!!』
そんな台詞を吐いた社長の顔は実に物凄い形相だった。
アニメとか漫画とかでしか見た事がない程の悪辣な笑みを浮かべている。
「…………」
隣で行く末を見ていたソラちゃんは黙って社長の怪演を見ている。
正直、頑なに演技と断言するソラちゃんがいなかったら、
私はカスミ達を応援してしまっていたかもしれない。
それくらい社長は悪党としての演技が極まっている。
「……そろそろ、マチコさんの出番ですね……」
「──え"っ? えぇっ!? こ、ここなのっ!?」