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第126話 全て、今の今まで仕組んできたのか?

目の前で行われた余りに人権を無視した行為に、

私が近所迷惑なんて全く考慮しない悲鳴を上げてしまった。

事前打ち合わせや契約書など一切合切していない私の困惑など、

まるで考えてくれていないであろう、

カスミは熱が入ったように"粛々と"演説を続けていた。


『佐藤真知子様は皆様と同じく、ガーパイス株式会社に苦しめられてきました。

 花の候補者という言葉をお聞きになった事はないでしょうか?

 彼女はその候補者として見定められてしまい、

 ガーパイスが開催するイベントに無理矢理参加させられ、

 望まない戦いを強いられ続けていました。しかし、佐藤様は折れなかった!

 それどころか、自分と同じ様に苦しむ人々を救いたいと願うようになったのです!』

「いや、しっかり折れてたけど!?」


『しかしながら、佐藤様は人々を救うには

 自分の力だけでは足りないとお考えになりました。

 だからこそ、植木鉢という組織を立ち上げ、

 私や隣にいるヒガンとミモザに手を差し伸べて下さったのです』

「ないわよそんな記憶! 勝手に握ってこないで!」


『そうしてガーパイスに反逆する為に力を蓄えていた時……

 モンスターによる全世界同時襲撃があの男によって引き起こされました。

 まだ力が足りなかった私達はガーパイスによって、

 各世界に出現されられたモンスターを

 力のある佐藤様の所まで送り付ける事しか出来ず、

 佐藤様にモンスター達の殲滅をお願いする他ありませんでした。

 頼りない私達はただ無事を祈るしかなく、

 見守るだけでしたが……佐藤様はやり遂げられた。

 佐藤様は全世界のモンスターを全て、討伐なされたのです!』

「何カッコつけてんの!?

 こっちはあんたらの尻拭いをしてやっただけなんだけど!?」


『皆様はガーパイス株式会社、

 あの社長にご自身や家族の多くを傷付けられたかと存じます。

 度重なる苦労を重ね、日々の生活が侵され

 壊される恐怖に耐え続けた事だと思います。

 しかし! これからは違います! 

 我々が‼ 佐藤真知子様が‼ 皆様の生活を守り支えます!! 

 これから我々は皆様に決して暗い道を歩かせる事なく、

 平穏なる暮らしを取り戻す事を──約束致します!!!』

「もうなんなのよこれはぁあああ!!?」


こいつの目には何が見えてんの!?

何がどうしてこうなった!?

なんで私がこいつらのトップみたいになってるの!?

意味不明が過ぎるにも程があるでしょうが!!! 


「……くっさ……よくも、そんな台詞を吐いて……

 マチコさんを、何だと思ってんの……?」


私が髪の毛を振り回して悶えていると、

寒気がする程に冷たい口調で発せられた言葉が耳に入った。

声がした隣を見れば、ソラちゃんが親の仇でも見るかのような

形相になってテレビを睨んでいた。


……こんなに怒ってるソラちゃんは始めてみた。

私自身も勝手に"植木鉢"なんて名前のダッサイ組織に

参加させられた事に腹を立てていたが、

ソラちゃんは私の怒りなんて優しく見える程に激怒している。


「……ソラちゃん。大丈夫?」

「──っ、マチコさん……」


その様子に心配になった私が声をかけると、

ソラちゃんはハッとなって私に視線を返した。


そして、直ぐ様笑顔になったが、

その笑顔は初めてあった時よりも、作りものだとわかる笑顔だった。


「すいません、私は大丈夫ですよ。

 ちょっと目の前で女狐がはしゃいでるのが、気持ち悪かっただけです」

「……そ、そう」


乾いた笑顔で言った物凄く辛辣な言葉に私はちょっと引きながらも、

いつものように憎まれ口を叩くソラちゃんに少しだけ安心した。

けれど、作り物の笑顔はそのままだ。

どんな言葉をかければいいのか分からなかった私は、

安心させるようにソラちゃんの右手をぎゅっと握る。


「えっ!?」


急に手を握られたソラちゃんはびっくりして私を見てきたので、

私はニッコリと微笑んでソラちゃんを迎える。

ソラちゃんは私の笑顔を呆然と眺めると、

今度はちゃんとした笑顔になって笑い返してくれた。


「やっぱり、ソラちゃんには笑顔が似合ってるわ」

「…………ほんと、ズルいです。マチコさんは」


ソラちゃんはそう言って私の手をぎゅっと握って、

再びテレビに目を向けたが、その目の鋭さは大分丸くなっていた。

どうやら私の笑顔は気休めになってくれたみたいだ。


『──皆様、我々は皆様を助ける為に身を粉にして励ませて頂く所存です。

 ですが、我々を信用する事がまだ難しい方々もいらっしゃることでしょう。

 なので、これより我々は皆様にガチャアイテムとは違う、

 ご自身の身を守れる道具を皆様に提供し、

 皆様自身でも身の安全を確保できる用に手配させて頂きます。

 勿論、配られた道具は捨てて頂いても構いません。

 ですが、皆様の輝かしい未来の為、

 皆様が望むこれからの為に、どうか受け取って下さい‼』


私達がイチャイチャしながらも演説は続けられていたようで、

カスミの言葉を合図にして部屋の中央に青白く光る球体が現れた。


その中からヒラリと何かが落ちてくる。

それはソラちゃんが病室でカスミから受け取っていたあの"御札"だった。

ただ、現れた御札は依然と同じ夕焼け色ではなく、

先程見た青い光と同じような色で染まっていた。


青い光の玉が消えた後、御札は部屋に敷いてある

カーペットの上に落ちたので、私はそれを拾う。

すると、その瞬間に私を中心に青白い色をした球体型のバリアが貼られた。


……この御札は〈成長玉〉を使った人間を操る術式を破壊する為のものだった筈。

それを今配ったという事は、運営の社長が操ろうとしていた人達を、

開放するという意図があると思っていたのだが……

これは効果が変わっていると判断していいだろう。


『お届け致しましたその御札は持っているだけでも効力が発動し、

 皆様の安全を可能な限り守ってくれます。

 ガーパイス株式会社は皆様をコントロールする為に、

 ガチャから排出される一部アイテムに洗脳する効力を備え付けておりましたが、

 その御札を持っていればその効力は打ち消して、防ぐ事が出来ます。

 更にはモンスターによる攻撃に対する防御手段にもなります。

 試しにご家族やご友人と一緒に居られる方は、御札を持って、

 張られた防護膜……バリアを叩いてみて下さい。壊れることはない筈です』

「──!」


どうやら色がわざわざ分けられていた理由は効果が違うかららしい。

洗脳を解く為だけではなく、防御手段にも使えるようにしたのか……

確かにあの災害で現れたモンスターにトラウマを覚えている人は多いだろうし、

これは欲しがる人も間違いなくいるだろう。


そして、カスミの説明を聞いたソラちゃんが何も言わず、

御札を持った私の肩に触れてこようとするが、

張られているバリアにボヨンと弾かれ、ソラちゃんの手は押し戻されてしまった。


「……生意気な壁ですね」

「そ、そうね」


ソラちゃんは弾かれた自分の指を見ながら、少し残念そうにそう呟いた。

カスミはまた〈枯葉〉の人達を解放した時のように、

使用感を確かめている人達を暫く待っている。

その間、ちょっと試したくなった私は御札をソラちゃんに渡した後、

握ってもらっている御札に向かって、

ステータスアプリを開いてATK値を最大値に戻してから、軽くビンタしてみた。


すると、部屋の中にブオンという音と風が起きて、

貼られていた筈の壁がパァンという音を立てて破壊された。


見えない壁が破壊されてしまったせいか、

御札はボロボロと濡れた紙のように崩れていき、紙くずと化してしまう。

私は目の前で崩れ落ちた御札の残骸を、

信じられない思いで見つめる事になった。


「…………」

「……あちゃー、やっちゃいましたねぇ……」


い、いやだって、壊れるなんて思わないじゃない!

ガチャ空間の壁とかは頑丈だったし、東京ドームに貼られてた壁だって、

真人さんの攻撃を受けても平気だったんでしょ!?

なんでこれはこんなに脆いのよ!?


私がどうしようかと途方に暮れていると、

またもや青白い光と共にもう一体御札が現れた。

落ちてきた新品の御札を反射的に私が拾おうする前に、

ソラちゃんが素早く御札を拾う。


「……一応、これはわたしが持ってますね」

「……うん。お願い」


ソラちゃんの気まずそうな様子を見て、

私は大人しくしていようとステータスを日常レベルまで戻して、

演説の再開を待つ事にした。


ふと、カスミの隣にいる女の人を見れば、

一瞬だけカメラ目線でこちらを見ていた気がした。


……多分、気のせいだろう。


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