第109話 巨悪を打ち、事成せる証明を
自分の不安を振り払う為にわざとらしく告げた台詞を
デュラハンはしっかり聞いていた様で、
意地の悪い騎士はカッカッカッと嗤って応えた。
そして、デュラハンの身体と頭が同時に私に襲いかかってくる。
私へと迫りながらも身体と頭は一緒に火球を放ってきた。
次々と発射される火球をその場で〈冠天羅〉で斬り裂いて対処する。
何発もの火球を斬った事で爆風と濃煙が発生して視界が覆われ、
その煙幕を切り裂くように騎士の大剣が私の喉元を突こうと飛び出してきた。
私は後ろに飛び退く事でそれを躱すが、
続け様に頭が一際大きな火球を飛ばしてくる。
これは……私がデュラハンに"飛風"を食らわした時と同じ形か。
くそっ、意趣返しのつもりか……!
「──こんなものっ!!」
私は上段に大きく振りかぶって、〈冠天羅〉を大火球に向けて振り下ろした。
それにより激しい爆発が起こり、私は打たれたボールのように
放物線を描きながら外野側へと吹き飛び、壁際に転がされた。
そこでふと、ある事を思い付いて。
「……っ……ははっ、センター前ヒットって所かしら……?」
誤魔化すように軽く冗談を言っていると、
爆発で立ち昇っていた煙を突き破り、デュラハンが猛然と攻め寄ってきた。
まだ倒れたままの私を両断しようと、
デュラハンの大剣が私の胴体目掛けて振り降ろされる。
その斬撃を転がって避けると、
私の身体は避けた先にあった外野フェンスにぶつかった。
「っ!!? しまっ……!!!」
私は逃げ道が無くなり、追い詰められたと声を上げる。
その隙を逃さないと言わんばかりに、
デュラハンが私に大剣を振り上げながら猛然と突撃してきた。
騎士の身体にぴったりとついて来ているデュラハンの頭が、
私の事を追い詰められた"獲物"だと思って頬を裂けさせて、
カッカッカッと、金属製の無機質な嘲笑い、
デュラハンは一気に私の眼前まで迫る。
そして、いざ私の息の根を止める為に、
デュラハンはなんの迷いもなく、大剣を怒涛の勢いで振り下ろそうとした。
────あぁ、よく引っ掛かってくれた。
「"獲物"はお前よ。空っぽ頭」
「────!!?」
デュラハンが私へと大剣を振り下ろす前に、
それまで敢えて動かずにいた私は急速に身体の向きを変えて、
罠にかかったデュラハンの右脚を狙い定めて、私は〈冠天羅〉を突き上げた。
鎧にはいくつも可動部として隙間がある。
鎧の化け物であるデュラハンもそれは同じだった。
そして、私が狙ったのは膝当と脛当の境目だ。
そこを掬い上げるように、私は境目へと〈冠天羅〉を貫き通す。
「!!?」
「はぁあああっ!!」
そのまま私はデュラハンの鎧に通したままの〈冠天羅〉を、真横へと振り抜いた。
脚の中に食い込ませた〈冠天羅〉が凄まじい勢いで振られた事により、
デュラハンはその身体を真横へと倒してしまう。
芝生に寝かされたデュラハンから〈冠天羅〉を引き抜き、
次の手を打とうとした瞬間、
デュラハンの頭がまた私に向けて大火球を放ってきた。
私は身体を起こしながらも大火球を
〈冠天羅〉で切り払って、わざと火球を爆発させる。
そうして起きた爆煙の中へ、私は火傷を負うのも顧みずに突っ切り、
片手でデュラハンの頭を鷲掴みにする。
「カッ……!?」
「仕上げだぁああ!!」
掴んだデュラハンの頭を、起き上がろうとしていた
身体へと叩きつけ、強制的に寝かし付ける。
そうしてちょうど胸辺りに押し付けられたデュラハンの頭から手を離して、
今度は脚で騎士の頭を踏みつけて、デュラハンの頭と身体を同時に抑えつける。
そして、〈冠天羅〉でデュラハンが握っている大剣を弾いて遠くに飛ばし、
私は〈冠天羅〉を大上段に構えて振り被って叫んだ。
「さぁ!!! 私の脚と心中しろ!!! 性悪騎士!!!」
「!!? ───ッ!!!」
「"飛風"ぇええええええっ!!!」
勝利を祈って呪文を唱えながら、
私は持てる力を全て込めてデュラハンに〈冠天羅〉を振り下ろした。
これまでとは一線を画した、凄まじい突風と鎌鼬が巻き起こる。
一瞬の内にデュラハンの頭は削り取られ、
頭が鉄屑に変わってからも騎士の身体は風刃によって掘削されていく。
そうして身体は頭と同様にガリガリと削り取られていき、
最後には胴体と下腹部は全く残らず、
あるのは千切れ飛んだボロボロの腕と脚だけとなった。
「──上出来、ね……」
ただ、その代償にデュラハンを抑えつけていた私の脚は、
肉がごっそりと抉り取られ、殆ど骨しか残っていない状態になっている。
咄嗟に考えた作戦通りの結末ではあるけど……
これ、〈回復薬〉で治ってくれるのかな……?
骨だけに成り果てた脚では立ってられず、
更には朦朧とした意識と全身の痛みも相まって、
私はその場で尻餅をついてしまう。
全身が沸騰しているみたいに熱くて、痛い。
目の前が暗くて……息が、続かない……。
意識がどんどん遠くなってくる……でも、あいつはまだ回復するかもしれない。
ここで……気を失う訳には……。
「……………」
「……ぁ……はぁ、ぁ……」
点滅する真っ暗な視界で、辛うじて見える黒い鎧からは、
あの赤黒い炎は出ていないように見える。
ピクリともしてない……けど、倒したのかは分からない……。
なら、また"飛風"を食らわせないと……。
そう思い、私はデュラハンに〈冠天羅〉を当てようとする。
けれど、腕は動かない。
それどころか〈冠天羅〉は手から滑り落ちてしまった。
芝生の上にボスンと落ちたのを呆然と見る。
刀を拾い直そうにも、私の身体は
糸が切れた人形の様にピクリとも動かなかった。
「……ぅ……あぁ……」
身体に力を入れようとしても、呻き声しか出ない。
消えそうな意識を必死に保って、
霞む視界で騎士を見る事しか……もう私には出来そうになかった。
これでもし、あいつが回復してしまったら私は死ぬ。
…………お願い。もう、終わって……。
そうして只々成り行きを見守っていると、
騎士の身体から黒い煙が立ち昇ってきた。
一瞬赤黒い炎かと思って絶望しかけたが、
その煙がデュラハンの身体を治す事はなく、
却ってボロボロに崩れさせて、忽ちその身体が無くなっていく。
やがて、デュラハンの身体は全て黒い煙になって消えて、
静かになったドームには私一人だけが残された。
「…………ははっ、やっ……た……」
そこまで見届けた私は沈む意識に身を任せ、深い眠りに落ちていった────
『続いてのニュースです。
本日未明、世界各地にて未確認生物が出現し、
多くの物的被害を引き起こしました。
未確認生物により、多くの方が軽い怪我を負いましたが、
各国の警備隊や軍隊が迅速に対応し、死傷者は出ませんでした』
『ご覧頂いている映像は実際に起こっていたものです。
未確認生命体の姿はファンタジー小説や漫画等で
よく登場するモンスターによく似ており、
警察の調べによりますと、現れた生き物は
これまで発見された事のない全く新しい生き物であるとのことで、
非常に攻撃性の高く、近づくだけでも危険な為、
怪しい生き物を見かけた場合は近寄ったりせず、
直ぐに逃げるようにと、注意深く呼びかけています』
『また、生物学者の有野川教授のお話によると、
発見されたどの未確認生物も
姿形は既存の生物と似ている部分が見受けられるが、
どの生物も死亡した場合、黒い煙となって消える生態を持っている為、
既存の生物とは身体の構造が全く違う生き物であり、
早急に研究し対策必要があるとのことです。
次のニュースです───』
@TxT_sakura_O9O9 ――
怖い。色々書きたいのにこれくらいしか書けない。
もっと書きたいのに、怖いよ……。
@024_kouki arakawa――
ニュース見たけど、色々説明足りないだろ。
マジでこの状況何とかしてくれ。友達同士でしか話せない。
段ぺき的な情報とか、直接的な表現を避けても全然駄目だ。勘弁してくれ。
@konbudasi2023 ――
もう終わりだろこの国。
@cigarette0701 ――
俺の友達がモンスターに襲われて怪我したんだが、その後、目の前で
これ以上書くと駄目だ。
色々やばそうだし、自分自身が消されるかもしれないけど、
一応断片的にでも頑張って書いてみようかな。
@cigarette0701 ――
自分の前からモ が消えた後、 ド が突然おかしくなった。
その時俺はたまたま現地にいて、そこを見たんだけど、
見た目は同じでも明らかに雰囲気がおかしくて、
入ろうとしても見 に当たって何処からも入れなかった。
モ は絶対ガ がやってた
イ で見たことあるやつだし、
皆、ガ 株式会社は信用しちゃ駄目だ。絶対にやばい。
@harusamedouhu ――
やっぱり僕達が思っていた通りだった。
どうにかしてあの動画に出てる人に会って話を聞きに行かないと……。
@vOv_arounyan_vOv ――
例の動画持ってます。
新宿駅南口にデッカイ看板を持って奴が自分です。
是非見に来て下さい!
@ramen_gaman ――
知り合いに動画見せて貰ったけど、ヤバすぎ。
あれ本当に現実なの?
でも、噂を聞く限りあの人が皆を助けてくれたんだよね?
@xxxx_samezima ――
全人類、オフラインで集まってあの動画共有するべきだ。
間違いなく解決したのは、"あいつら"じゃない。
っていうか、あんな動画誰が撮ったんだろうな……?
状況的に撮れる奴なんていないと思うんだが。
@takataka2324 ――
マジか、動画に写ってた女の人ってうちの会社の人だ。
どうりで色々と待遇が変だった訳だよ。納得したわ。
@sorarikuumi_hanaaaa ――
みんな、オンラインにこだわりすぎだよ。
折角みんなには口があるんだから、使わないと勿体無いよ?
【????】
「…………あの人間が、彼らのお気に入り、か。
同族同士、助け合うのはどの生物も共通してるけど、
人間という生物があそこまで必死になってまで助けるのは……凄い事だよ」
「面白い。彼らが持ち上げたくなるのも分かる気がするなぁ。
自分の為に自分の命を賭けて、他の同族を救おうとする。
なんて矛盾していて見応えがある光景なんだろう?」
「あぁ……我慢できないや。
やっぱり、彼らの邪魔にならない様にまた"邪魔"をしよう。
大丈夫。きっと彼らも最後には満足してくれる」
「さて、次は何をしようか?」