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第105話 これぞ私が臨んだ勇敢

「「ゴォオオオオオオオ!!!」」

「おぉおおおおおおお!!!」


未来でも現在でも、

私は目の前のモンスター達を皆殺しにする為、

怒涛の勢いで迫りくる津波に向かって、足を踏み出す。


早速性能を試させて貰いましょうか!


「──"飛風"っ!!!」


そして、件のまじないを唱え、

私はモンスター達に向かって〈冠天羅〉を真横へと振り抜いた。


「「グギャアアアア!!?」」


するとその瞬間、凄まじい風切り音が聞こえたと同時に、

眼前にいたモンスター達の身体が忽ち二つに分かれた。

風刃が届いたのは大体10メートルくらいか。

私の刀が半円の軌道を描いた通りに、

その範囲内にいたモンスター達は一気に命を落とした。


──予想していたよりも、遥かに高性能な技だ。

けれど、この技を放った時に少し疲労感を感じた。

もし使う度に疲労感を感じるとするなら……

これは考え無しにバンバン使える技じゃなさそうだ。


「使い所を考えないとね……」

「グギャギャ!!」

「ゴゥオオオ!!」


私の後ろからゴブリンとヘルハウンドが

数匹襲いかかってくるが、思考の片手間でそれを斬って防ぐ。

ステータスが随分と上がったからか、モンスター達の動きがとても遅く感じる。

私が万全の状態であれば、いくら集まっても傷付ける事は出来なかっただろう。


しかし、今の私はステータスを強引に引き上げていて身体が軋んでいる状態だ。

戦いが長引けば長引く程に痛みがぶり返してくる筈。

余裕ぶってはいられない。


「…………攻めるか」


私は二倍以上跳ね上がったAGLをふんだんに使おうと思い、

刀を構えつつ敵へと駆け出した。


「──っ!? ちょぉっ!?」

「!! グギャアアアアアアア!!?」


しかし、想像を遥かに超えたスピードのせいで、私は上手く止まれず、

打ち出されたビリヤード玉みたくモンスターの群れに突っ込んでしまった。

私がぶつかった衝撃でモンスター達は放物線を描いて空中へと放り出される。


幸いにも私のズッコケは渾身の体当たりになっていたらしく、

多くのモンスターがそれによって黒い煙となった。


しかし、意図せず体当たりをしてしまった事で、体勢が大きく崩れてしまう。

その隙を狙って蜘蛛型の魔物が私に向けて糸を吐いてきた。


動けなくさせようと粘着性のある蜘蛛糸を

飛ばしてきたのだろうが、余りにも遅い。

私は素早く体勢を耐え直し、難なく糸を避けて蜘蛛の頭を切り落とした。


……糸を吐いてきた数匹の蜘蛛に合わせて、

他のモンスターからの陽動や支援はなかった。

各個体が好き勝手暴れているだけでしかなく、

ダンジョンで襲ってきた魔物のような戦略は取ってこない。

やはり、未来と同様に魔物達は統制が取れていないみたいだ。


予想通り、魔物の一匹一匹はそこまで脅威じゃない。


しかし想定外だったのは、

いつも持っていた筈の馬鹿でかい棍棒をオーガが持っていない事だ。

あの頑丈な棍棒があったら、かなり戦いが楽になったかもしれなかったのに……。


あの御方とやらがこの試練の難易度を上げたかったのか、

それとも他の花の候補者にとってはオーガが棍棒という武器を

持っているのは危険だと判断したから無くしたのか……

どちらにせよ、私にとっては面倒な仕様だ。


だけどまぁ、そんなものがなくても──


私は今度こそ転ばないように気を付けて、モンスター達へと突っ込んだ。

しかし、それでも動く脚の速さは自分が想定とかなり剥離していた。

気を抜くとまた人間ストライクをやってしまいそうだ。


駆ける速さを調整しながら、

通りすがりにモンスター達の身体を斬り付けていく。

上がり過ぎたAGLについていくだけで精一杯で正確に急所を狙えなかったが、

それでも何も出来ずに斬られていくモンスター達は、

その殆どが身体を輪切りにされて死んでいった。


そうして私が切り裂き、押し通った道にはモンスターは全く残らず、

黒い煙となって消えたモンスター達の隙間だけが残った。


化け物達がいなくなって造られる空白の道のりが、

まるでグネグネと曲がる蛇を描くかのように出来上がっては、

押し寄せるモンスターによって埋められていく。


暫く、そんないたちごっこが続いた────







「……はぁ、はぁ……」


モンスター達を黒い煙へと変えていきながら、

私は額に汗をかいて息を切らす。


ここまで、モンスター達は私に全く攻撃を当てれていない。

以前とは戦いやすさが格段と違う。

流れ作業のようにモンスター達を駆逐出来ている。

しかし、何度も何度も刀を振っている内に

恐れていた身体の痛みがぶり返してきた。

痛み出した身体は少しずつ動き辛くなっている。


それなのにモンスター達の数は減っている気がしない。

もう何百体は優に倒した筈なのに、

それを遥かに超える数がそう感じさせてくれない。


「ははっ……思ったよりも、きついかも……」


道のりの険しさに思わず弱音を吐いてしまったが、当然諦めるつもりはない。

自分にはモンスター達を全滅させられる力が充分にある。

だったらやり遂げられるように工夫すればいい。


その為にも、先ずは"手段"の確認だ。

私は刀を振り回しながら、転移した時に居た隅っこへと戻り、

そこに置いてあったケースを手早く開け〈回復薬〉を回収する。


そして、ケースを閉め、改めて隅っこに追いやった後、

片手に持った〈冠天羅〉でモンスター達をバラバラにしながら〈回復薬〉を飲んだ。


「…………駄目か、くそっ」


かすり傷の手当ついでに栄養ドリンクみたく、

だんだん重くなってくる身体の痛みや疲労感が治らないかと期待したが、

傷が治っただけで、〈回復薬〉は期待した方面には全然効いた感じがしなかった。

どうやら事前の説明通り、〈回復薬〉は傷に対しての効果しかないらしい。


再び私はモンスター相手の芝刈り機と化して、刀を振り続けていく。

このまま走ってモンスターを消していくだけでは、

ジリ貧になって身体が動かなくなる可能性が高い。

しかし、他に方法も思い付きそうになかった。


まずい、どうすれば……!?

あんなにカッコつけておいてやられるなんて、

いくらなんでもダサすぎるんだけど!!?


そこで、私のスマホから着信音が聞こえてきた。

こんな時に誰だと思いながらも、

私はスマホを取り出して掛けてきた人の名前を見る。


「──っ!!!」


その名前を見てしまい、私は脚を止めてしまった。

震える手で、状況も顧みずに私はその電話に出る。


「…………もしもし」

『マチコさん!!? 今どうしてるんですか!!? ご無事なんですか!!?』



────ソラちゃんの声が聞こえる。



ちょっと前まで普通に聞いていた声が、私の耳を震わせて、

私の心と体を安心させ、煌々と温かくしてくれる。


あぁ、生きていてくれている。

私の事を心配して、こうして電話を掛けてくれている。

あの日常が返ってきたのだと、私に思わせてくれている。


「ゴォオオオオ!!!」

「──"飛風"、"飛風"、"飛風"、"飛風"」


感動の再開に喜んでいる私に対し、

無粋にも襲いかかってくる奴らを、四方に"飛風"を放つ事で追い払う。

4連続で技を放った事でドッと疲れが押し寄せてくるが、どうでも良い。

今はただこの喜びに浸っていたかった。


『……えっ……ま、まさか、マチコさん。

 今って、戦いの真っ最中だったりします!?』

「ふ、ふふっ……えぇ、そうよ。

 しかも最大級に大変な戦いでね?

 下手をすると平気で死にそうな戦いなの」

『ええっ!? な、なんでそれで平然としてるんですか!?

 もっと真剣に戦わないと駄目じゃないで──』


「だから、ソラちゃん。良かったらアドバイスをお願いしてもいい?

 ちょっと……私一人だけじゃ厳しそうでさ」

『──っ! はい!! 是非、私に任せて下さい!!!』


何も説明してもいないのに、ソラちゃんは頼もしい返事をしてくれた。


私は戦いながらソラちゃんに状況を教える。

何故私がこんな戦いに身を置いているのかは

時間もないので聞かないで貰いつつ、

戦ってる場所やモンスターの種類と数、

自分が持っている攻撃の手段と物資を簡潔に伝えた。


説明を聞いたソラちゃんは電話越しでも分かる程に唖然としていたが、

話を遮らずにしっかりと聞いてくれていた。

そして、ソラちゃんは直ぐに作戦を考え、

私にどうすればいいのかを教えてくれる。

その作戦内容を聞いた私はソラちゃんに続くように唖然となってしまった。

とてもじゃないが、私には思い付きそうにない、凄い作戦だった。


作戦を教えてくれた後、邪魔にならない様にと急いで、

ソラちゃんは電話を切ろうとする。


『では、マチコさん!! ご武運を!!!

 必ず帰ってきて下さい!! 約束ですよ!!!?』

「待って、ソラちゃん。側に真人さんはいる?」

『は、えっ!? い、いますけど、今は戦闘に集中を……!』

「お願い。声が聞きたいの。変わってくれない?」

『……わ、わかりましたよ! 今変わります!』


それから直ぐに電話口の声が真人さんのものへと変わった。

あぁ……真人さんも生きててくれてる。

本当に嬉しい。これで二人の無事が確認出来た。


『変わったぞ……!? ま、真知子殿、本当に今話していて大丈夫なのか!?

 後ろからとてつもない叫び声が聞こえてくるのだが!?』

「あははっ、全然大丈夫よ。真人さんも、無事で良かったわ……本当に」

『……真知子殿、詳しい事情は後で聞かせて貰う。

 よし、手短に済ませよう。要件はなんだ?』

「ごめんね、ただ声が聞きたかっただけなの。だから要件はこれで終わり」

『なっ!? そんな事の為に……い、いや、話は後にしよう。

 気張れよ、真知子殿。俺も笠羽殿と一緒に武運を祈っている。

 必ず生きて帰ってこい!!!』

「えぇ!! 必ず!!!」


私は電話を切ってスマホをポケットに入れながら、

再び押し寄せてきていたモンスター達を斬り捨てた。


ソラちゃんが立ててくれた作戦。

その名もかまくら大作戦──を遂行するにはある"材料"が必要だ。

ただ、この作戦はなんというか……とても非道徳的な作戦であり、

実行するのは少し憚られるものだ。


けれど、これも生き残る為。

モンスター達には潔く犠牲になってもらうとしよう。


「さて、と……二人の声援を受けた事だし、もうひと頑張りしましょうか!!!」


そうして私は、"かまくら"の組み立て作業を始めるのだった。



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