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第103話 やはり、そんな理由で引き起こしたのですね

私から情報を受け取った後、

彼女は再び頭を私に下げながら言葉を続けた。


「佐藤真知子様。お話を伺わせて頂いた事を踏まえ、

 弊社よりお伝えしたお話がございます。

 お急ぎの中、大変申し訳ございませんが、

 私の話をお聞き願えますでしょうか?」


カスミは先程言った条件に上乗せしてお願いをしてきた。

私は程々嫌に思いながらも、

皆を助ける為だと我慢して話を聞くことにした。


「…………何?」

「先ずは前提としてお話させて頂きます。

 今回生じた災害につきましては弊社の意志で行ったものではなく、

 弊社にご協力頂いている"ある御方"の

 独断によって引き起こされたものです。

 その動機については現在調査中となりますが、

 今回の一件は我々と結んだ契約に反した行為であり、

 弊社の方針によって引き起こした事ではございません。

 予めご承知おき下さいませ」

「──っ!? 協力者が……いるの?」

「はい。私共のイベントや計画は、

 あの御方のご協力が無ければ、開催する事は叶いませんでした」

「…………」


まさか、運営に協力者がいるなんて。


……信じたくない情報だ。

いや、この一件が運営の意志で行われていないとしたら、

確かにその線も充分に考えられた。

けど、こんなブラック企業の頂点みたいな会社に

関わりたいと思う奴がいるとは想定したくはなかった。

だから多分、私は無意識に頭からその可能性を外していたんだろう。


上位存在と言える存在の、更に上らしき存在がいるとか、

話の規模が壮大過ぎてついていけない。

この件が無事に終わったとして、

私やソラちゃん達は一体どう立ち向かえばいいのだろう?


……くそっ、今は考えても仕方ない。

とにかく目の前の事に集中しよう。


「……で、何? だから、今回のは

 自分達の不手際じゃないって言いたいの?」

「いえ、此度の一件はあの御方の意思を汲み取れず、

 独断専行を未然に防げなかった、弊社の過失であると考えております。

 ただ、騒動の原因としましては、

 あの御方は弊社が提示していたスケジュールでは、

 〈花の候補者〉の方々の成長が遅いと感じていた事が要因かと思われます」

「……スケジュール?」


「はい。佐藤様には度々ご迷惑をお掛けしておりますが、

 弊社が行っている計画では〈花の候補者〉の方々に

 戦士として成長して貰う事が重要となっております。

 その為、あの御方はこの騒動を引き起し、

 モンスターを大量に討伐して貰う事で、佐藤様を筆頭として、

 〈花の候補者〉の方々のステータスを

 上げる目論見があったのだと思われます」

「……はぁ? 意味が分かんないんだけど?

 なんでモンスターを倒すとステータスが上がんのよ?

 それを上げるために〈成長玉〉があるんじゃないの?」

「簡単に申し上げますと、モンスターを討伐すると

 人間の身体には〈成長玉〉を取り入れる為の"土台"が形成されるのです。

 なので、佐藤様がモンスターを倒し、

 より多くの〈成長玉〉を取り入れられるように出来れば、

 それだけ計画が早められると、あの御方は判断なされたのでしょう」

「土台、ねぇ……まぁ、いいわ。

 それで? 結局、あんたは何が言いたいのよ?」


早く話が終わらないので、私がイライラしながらそう尋ねると、

カスミはその場で行儀よく土下座をし始めた。

突然の謝罪に私が驚いているのを尻目に、カスミは話を続ける。


「佐藤様。此度の一件、本来であれば弊社だけで解決するべき事です。

 しかしながら、佐藤様が体験なされた未来で弊社は多大なる失敗を繰り返し、

 その結果惨憺たる結末となったと伺いました。

 つきましては改めて、私から直接、

 勝手ながら佐藤様に申し上げさせて頂きます」


そして、カスミは深々と頭を下げて私にこう告げた。


「私共の役割を任せてしまい、大変申し訳ございません。

 どうか……どうか、世界を救って下さいませ。

 ……心より、お願い致します」



────結局、この女はそれが言いたかったのか。



長々と時間を取って上げたのが馬鹿みたいだ。

そんなのお願いされるまでもない。

最初からこいつらに手伝って貰えないのなら、

自分一人だけで動くつもりだったのだから。


ただ、まぁ……聞いてやった分の我儘くらいは、存分に聞いて貰うとしよう。


「一つ、お願いを聞く条件があるわ」

「はい。弊社は佐藤様のご要望に応えられる様に尽力致します」

「世界中に現れた全てのモンスターを

 私一人で戦わせて。条件はそれだけよ」

「──!!?」


カスミは私の言葉を聞き、目を見開いた。

いつも驚かされている身からすれば、運営のスタッフが驚いている光景は、

私の自尊心を少しだけ満たしてくれるものだった。

僅かに調子を良くして、私は話を続ける。


「強い戦士とやらが欲しいのなら、私がなってあげる。

 他の〈花の候補者〉なんて必要ないくらいに

 強くなってやるから、他の人達を傷つけないで」

「…………佐藤様のお気持ちは大変有難く思います。

 ですが、私共が立てた当初の計画でも、

 〈花の候補者〉はほぼ全員が一定のラインまで

 成長して頂く見積もりだったのです。

 佐藤様だけでなく、他の〈花の候補者〉も強化されなくては

 あの御方は満足なさらない筈です。申し訳ありませんが……」

「あんたらの計画って本当に人数が必要なの? 

 私がチートじみた力を手に入れて、

 一人だけでなんでも解決出来るようになれば、

 他の人の協力なんて必要ないんじゃない?」


カスミは私の反論に対して明らかに動揺しているが、

それでも平静さを保とうと努力しながら私を説得しようとしてくる。


「……理論上は確かにそうなります。

 ですが、もし佐藤様にお一人だけ成長する様に依頼した場合、

 この一件が終わった後も貴方様はあの御方に期待され、

 またこのような予想外の取り組みを

 行って頂く事になる危険性がございます。

 そもそも、世界中に生み出されたモンスターの数は

 第二イベントの最終戦で貴方様が戦った総数の百分の一にもたり得ません。

 正直に申し上げれば……むざむざ死にに行くようなものです。

 それでも、貴方様はよろしいのですか?」

「いいわよ、それでも。受けて立つわ」

「なっ……!?」


今度は感情を抑えられなかったのか、

カスミははっきりと驚きの声を上げた。


そのくらい大変になりそうだとは予想出来ていたから、

私の気持ちは変わらない。

私という強力な駒を失いたくないからか、

カスミは焦りながらも私を止めようとする。


「か、重ねて申し上げますが、

 今の佐藤様のお身体はステータスを無理に上げた為、非常に不安定です。

 鎮痛剤で痛みを抑えられておりますが、

 戦いが長引いてしまう程に危険となります。

 モンスターには殺されずとも、

 耐え難い激痛が佐藤様のお身体に襲いかかり、

 場合によってはそれによって死ぬ事すら──」

「知らないわよ。そんなの、死ぬ前に倒し切ればいいだけでしょう?」

「!? い、いえ、佐藤様がご無事でいられるかの

 保証など何処にもございません。

 私共も対応に追われ、佐藤様のバックアップが

 出来ない可能性が非常に高いです。

 何卒、何卒考え直して頂けないでしょうか?」

「…………私が未来から過去に戻ってきた理由、分かる?」

「……佐藤様の、ご友人を救いたいからでしょうか?」

「違うわ」


本当に下らない問答だ。


そんなに心配してくれるなら、

最初から、あの第一イベントの時からしてくれれば良い。

そうして無駄な事を話していると感じながらも、

私は自分の覚悟を固める為、律儀にもカスミに理由を教えた。



「────もう二度と、あんな辛い目に会いたくないからよ」



私が自殺までして過去に戻り、頼りたくもない運営から、

情けなくも施しを受けて強くなろうとした理由は、たったそれだけだ。


あの罪悪感と後悔も。

あの喪失感と深い悲しみも。

あの時、自分の首を斬り払った時の痛みも。

今この瞬間にも湧き上がってくる悲憤と辛苦も。


どれもこれも、もう絶対に味わいたくない思いだ。

ここで私が『他の花の候補者にも手伝って貰う』と言ったとして、

その人達を一人でも死なせてしまったら……

未来は大して変わらないものになってしまう。


あの未来よりかは幾分かはマシな結末なるのはわかってる。


でも……それでも、私はきっと……

後悔と罪悪感で、毎晩枕を濡らす事になるだろう。

あの時、私なら救えていたかもしれないと、

何度も何度も自分を責めるだろう。


そんな未来、絶対に嫌に決まってる。

だからこそ、私は……私が出来る全力を以って、

力を尽くさないといけないんだ。


「…………佐藤様」

「分かったらその"お得意様"を力づくでも

 何でもいいから早く説得してきてよ。

 そして、私の前に敵を用意しなさい。

 そいつら纏めて全部倒して……全部、私が救うから」


カスミは私の軽はずみな発言を受け、

驚愕した様子を見せつつ、どこか悲痛さを感じさせる遠い目になる。


その目は……何故か私を通して、

誰かを眩しく思い浮かべているように見えた。


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