ホリー女王の即位式の前日譚
即位式。
当然相応のものが必要となり、莫大な費用が発生する。
しかも、ホリーの即位に関しては玉座など前王からの引き継ぐべき品も新調する必要があったため、さらに費用が増える。
本来そのような場合、王都サイレンセストに店を構える王室御用達商人がその仕事を担うことになるのだが、彼らはすべて王都と運命を共にしていた。
そうなれば、商人を通じて外国の職人に発注することになるわけなのだが、王都炎上の際に御用商人や工房は軒並み略奪に遭っており、隣国のフランベーニュも状況はブリターニャと似たようなもの。
残る二か国のうち、ノルディアは直前の領土侵犯もあり、国民感情を考え除外せざるを得ない。
そうなれば委託先はアリターナ一択となる。
そういうことでチェルトーザを介してグワラニーがアリターナ王家の御用商人を手配した。
ただし、アリターナの服飾技術はこの世界最高水準。
工芸品についても同様。
さらに金に糸目はつけないということもあり、当然のようにすばらしいものが出来上がる。
ちなみにこの代金はグワラニーの支払い。
グワラニーはさらにブリターニャ出席者の服飾についてもその代金の支払いをおこなっている。
「このような部分に金をかけるのは我々魔族には信じられないことではあるのだが、人間界では見た目が重要視される。他国の代表がやってくる場で新王になるホリー王女に恥を掻かせるわけにはいかない」
グワラニーはこのように説明しているが、その総額はブリターニャ金貨百万枚に達し、アリターナの職人や商人たちに特需をもたらしたとアリターナの記録に残っている。
だが、支払いはそれだけではない。
そう。
出席する以上、自分たちもそれにふさわしい服を身に着ける必要がある。
軍人であれば、礼服も軍装となるのだが、さすがに一国の王の戴冠式に王都を焼き多く国民を殺した国の軍人が制服姿で山ほど出席するのはいかがなものかという軍官たちの指摘があり、魔族側の出席者の服装は軍民問わずブリターニャの文官に準じる形で落ち着く。
だが、当然ながら魔族の者はそのような服の持ち合わせなどない。
それからまもなく、魔族とアリターナの国境にあるチェルトーザの別荘「ベッラ・パーチェ」に多数の魔族とそれに対応するアリターナの高級服飾店の者が集まった。
ホリーの戴冠式に出席することが決まっているグワラニー軍の幹部アンブロージョ・ペパスの言葉。
「ほんの少し前まで命のやりとりをしていた相手の式典に参加するだけでも奇異と思えるところに、勝者である我々が人間の様式に合わせる。全くもっておかしなことだといえる。ハッキリ言って違和感だらけだ。いや。だった」
「だが、こうして仲間たちとお互いに相手を指さして笑いながら採寸をしながら思う。これはこれで悪くない」
同じく採寸するために「ベッラ・パーチェ」に出向いたときの感想を口にしたのは、グワラニー軍魔術師長アンガス・コルペリーアだった。
「我々に人間の服が似合うかと言えば微妙ではあるのだが、それでもそれなりになっているのはアリターナの服飾職人の技術の高さのおかげであろう。この点に関しては我が国はアリターナに劣っているといえるだろう。まあ、我が国は服に関しては耐久性と動きやすさこそがすべてであり、実用性には無縁な見栄えなどというものは無視されていた。だが、これからは我が国においてもそのようなものにも力を入れた服がつくられていくことだろう」




