王都事情のあれこれ
戦乱の最終盤で、魔族の国の王都イペトスート、そして、ブリターニャ、フランベーニュ、アストラハーニェの王都が破壊の憂き目に遭った。
そのうち魔族の国の王都イペトスート再建は順調であった。
理由のひとつが破壊の前に住民が退去し、さらにその際ほぼすべてのものが持ち出されていたため、人的損害だけではなく物的損害も住居を除けばほぼゼロであったことだろう。
つまり、残っているのは文字通り瓦礫。
そう時間をかけることなく撤去が終わると、グワラニーの設計図に従い再建されていく。
クアムート新市街の発展形ともいえるそれは再建される新イペトスート、その最大の特徴は、やはり、王宮から延びる幅広い歩道まで備えた片道五車線のメインロードであろう。
そして、その左側は旧市街地と呼ばれる、以前と変わらぬ「混沌」を表現した細かい路地に入り組む街並みが再現され、新市街地と呼ばれる左側はいわゆる官庁街から始まる「秩序」がいたるところで感じるものとなる。
さらに新イペトスートは城塞としての機能が一切なかった。
旧イペトスートも人間界の王都に比べれば数段劣るものの、城壁と堀はあったのだが新王都からは城壁が消え、広げられた堀も防御的な意味よりも物流目的の意味が濃いものとなる。
理由は言うまでもない。
そもそも王都に攻められている段階で負けは確定している。
さらにいえば、どれだけ城壁があっても強力な魔法一撃で瓦礫になることが今回の戦いで証明されたのだから、その時代に住む者にとっては城壁など閉塞感を生む醜悪なだけの無駄なものというわけである。
せっかくなのでここで主要国の王都についても少しだけ語っておこう。
同じ王都が焼失したフランベーニュの王都アヴィニアの再建計画は、ほぼ復元に近いものであり、実際に五年後に完全復興したアヴィニアは長所短所ほぼすべてが残るものとなる。
それに対し、アストラハーニェの王都ニコラエフカは破壊された建物の撤去に加えて、貴族の屋敷も接収したことにより大きく様変わりした。
権力のすべてを抱え込んでおり、城塞都市の中の城塞都市化していた王宮の規模を小さくしたうえ、公的施設を分散配置した。
これは王宮に一撃加えただけ国家機能が完全消滅した、いや、消滅させたカラシニコフの反省の上にあるのは間違いない。
ただし、上級貴族に対しては容赦なかったもの、自身の支持基盤である平民や下級貴族に対しては配慮する必要があるから、都市改革は中途半端になったのは否めないところである。
戦災を免れたアリターナの王都パラティーノ、ノルディア王国の王都ロフォーテン、そして商人国家アグリニオン国の中心セリフォスカストリツァは当然何も変わることがなかったのだが、後にその不便さは際立つことになる。
特に王都内の主要道路の狭さは大きな問題となるのだが、物流の重要さを理解する商人国家アグリニオン国はともかく、ふたつの王国はステークホルダーが皆王族と大貴族であったため、大胆な拡幅工事が出来ず為政者たちの悩みの種となっていく。
残るはブリターニャ王国の王都サイレンセスト。
こちらも当初フランベーニュと同様、元の姿をそっくり再現するために瓦礫の撤去を始めたものの、その死者の多さにまったく作業は進まず、「旧王都は墓地として国が管理し、隣地に必要最低限の施設だけを備えた新王都をつくる」というホリーの言葉によって事実上再建計画は放棄される。
そして、新たなつくられた王都は、サイレンセスト包囲戦の際に魔族軍が本陣を置いた丘に王宮が置かれ、そこから広いメインロードが伸び、その両脇に多くの公的施設が整然と並びその周辺を住居が取り囲む、まさに新イペトスートのコピー、いや、洗練度からいえば、さらに上を行く近代的ともいえる建物配置を持つものとなる。
ブリターニャ王国史では、新王国の初代となるホリー・ブリターニャがその原案を提示し、それがホリーの偉業のひとつとなるのだが、むろんその原案はグワラニーの手によるものである。
そして、同時期に山賊国家と呼ばれるマジャーラにも変化が訪れる。
これまではアストラハーニェは他の人間の国を陸路での往来には必ずマジャーラを通らなければならなかったのだが、魔族の国を通ってのやり取りができるようになるとその怪しげな収入が激減。
明確かつ正当な通行料を定めることを余儀なくされる。
ただし、それによって多くの国と繋がりが生まれ、マジャーラを自国の反乱分子としていたアストラハーニェが新王になったところで完全な独立国だと承認し国境を確定させたこともあり、自国の強みである良質な石炭とこの世界における鉄鉱石の一大産地という利点を生かし山賊国家の面影など影も形もなくなる発展を遂げるというある意味とんでもない副作用を手に入れることなる。




