クアムート移住計画
アリストの一撃によって完全破壊された魔族の国の王都イペトスート。
ブリターニャとの戦いが終わった直後から、その再建は始まるわけなのだが、王都に住んでいた者たちが再び戻ってくるまでは相応の時間が必要となる。
当然その間の住居が必要となるわけなのだが、イペトスート以外に相応の規模を持ち、インフラが整っている王都の暮らしに慣れた者たちが満足する魔族領内の場所はクアムートとクペル城周辺だけであった。
だが、クペル城は周辺に人間も多く住むので人間との接触に慣れていない王都の住民たちとのトラブルが起きやすい。
そのなると移転先はクアムート一択となるわけなのだが、言ってしまえば、一地方都市が王都全体を受け入れるのだ。
住居のスペースの許容範囲を大幅に超えることになる。
クアムートが混沌の代名詞にならぬよう現状のまま無秩序な受け入れは避けねばならない。
それがグワラニーの判断であり、まずはマンドリツァーラに避難していた住人たちを戻し、落ち着きを取り戻したところで、場所を確保したうえで受け入れを開始する。
その手順を軍官に検討させる。
むろんイペトスート再建も早急に完了させなければならないのだが、これもグワラニーの手足となる軍官の務め。
それをグワラニーの王位就任に伴う式典準備と、ホリーのブリターニャの王位継承とそれに続く停戦協定書の作成から始まるブリターニャ安定化を平行しておこなわなければならないのだ。
ハッキリ言って今までの数倍忙しいと言っていいだろう。
ただし、これはこれまでの破壊と死をもたらすものとは対極になる忙しさ。
しかも、なんだかんだと言いつつ、夜は酒場に出かけ、それなりの時間には家族のもとに帰っていたのだから、文句を言いつつ皆笑顔であった。
むろんそう大きなものではなかったのだが、こちらにもトラブルはあった。
いっそのこと準備がほぼ終わっている即位式典をまずおこなうべきだという軍官のまとめ役であるアンデルソン・ビルキタスからの提案をグワラニーは拒否していたのだ。
もちろんほぼすべての点においてビルキタスの言葉が正しいのだが、グワラニーが頑としてそれを拒む理由はむろんこの世界に来る前の記憶があるからだ。
国民から選ばれた為政者たちが、その国民より自分たちの利益を優先する様を何度も見てきたグワラニーにとってそれをおこなってしまうのは、自分もその同類に成り下がるという気持ちが強く働いていたのだ。
そして、それはグワラニーのこの世界における座右の銘である「力を持った者こそが弱者に対し譲歩すべき」という言葉とも共通するものといえるだろう。
「住むべき場所も決まらぬ者を放置して、何が即位の宴だ。避難した王都の住民たち、希望する者全員受け入れが済む。その目途が確定するまでは式典はやらない」
たとえば、この言葉が外向けの言葉であれば、十分な効果を持ったパフォーマンスということになるのだが、絶対的権力者による内輪への言葉となれば全く違う意味となる。
つまり、式典をおこなうためには移住を軌道に乗せなければならない。
そうかと言って、それが簡単にできるわけがないことは誰もがわかっている。
式典を準備している軍官たちが頭を抱えた中で、その解決策を提示したのはバイアとアリシアであった。
「どうせ彼らはイペトスートが再建されれば戻るのです。そうであれば、クアムートの住居は仮住まいでも問題ないでしょう」
「そういうことであればクアムート郊外に用意された土地の整地だけ済ませればよい。だが、それで納得するか?彼らは」
「それは私にお任せを。その代わりにバイア様は最難関のグワラニーの説得を……」
そして、その後の手際の良さ、いや、剛腕は、さすが「赤い悪魔」の長や、歴史に残る剛腕商人「アグリニオンの女傑」、さらに山賊国家の長たちを黙らせたアリシアといえるもので、避難者に対して現在の仮設住居のままクアムートに移るか、破壊されたままのイペトスートに戻るか、そうでなければイペトスートの再建が住むまでここに残るかという選択肢を示す。
むろん答えはひとつに集約される。
一方、バイアは全員の希望が仮設住居のままでのクアムート移住だと、中間部分を大幅に除いた説明をしてグワラニーを納得させる。
これによって魔族の国の国内問題のひとつは解決する目途はついた。




