フィーネの思惑
歴史書によれば「勇者ファーブとその仲間が闇に支配されかけた世界を救った偉業」となる、ファーブがアリストを殺害したあの現場。
「……フィーネ。アリストを復活させるのか?」
アリストの死体を見つめるフィーネに目をやりながら口にしたマロからのその問いに相手は首を振る。
「いいえ。そのつもりならとっくに復活させています。私もアリストを止めるべきだと思いましたが、さすがに殺すところまでは思い至りませんでした。その点ではファーブやマロに感謝しなければなりません」
「ですが……」
「それと同時に考えておかねばならないことがあります」
「アリスト・ブリターニャという大きな障害が消えたとわかった瞬間にグワラニーが豹変した。そのときの対策です」
「あり得るのか?」
「わかりません。ですが、あのアリストが一瞬であれだけ変わるのです。有利な立場になったグワラニーが変わることだったあるでしょう。そして……」
「その時は……」
「アリストを復活させたうえ、今度は全力で彼に協力したいと思います」
「そのためにアリストの遺体を私たちが確保しておかねばなりません」
そう。
フィーネは、グワラニーが態度を一変させた場合の切り札としてアリスト復活を考えていたのだ。
遺体の確保はそのため。
むろん遺体がなくても死者蘇生は可能なのだろうが、成功の可能性が低くなることも考えられるうえ、フィーネが死者を復活させる魔法を使用できることが発覚する。
その点、アリストの遺体が手元に置けば、理由などいくらでも捻りだせる。
「いかがですか?」
「いいだろう。だが、生き返ったアリストのお仕置きは怖いな」
「その場合は、お仕置きを受けるのはファーブだけだ」
「こいつが勝手にやったのだから当然だな。いや。俺たちを巻き込んだのだ。今回は俺たちもお仕置きする側だな。覚悟しておけ。糞尿勇者」
「ふざけるな。この糞尿兄弟。お仕置きされるときはおまえたちも一緒だ」
「御免被る」
「なんだ。さっきの立派な言葉はまやかしか……」
……まあ、おそらくそのようなことにはならないでしょうが。
……ですが、人間の本性が現れるのは、自身が優位な立場になったとき。あの男だってそれはあり得る。そして、もし、そうなったとき起こるのは、最悪の中の最悪な出来事です。
……まあ、とりあえずこの三人だけでも元の状態になったことは喜ばしいことです。
心の中でそう呟き薄く笑ったフィーネにの耳にファーブの声が届く。
「……ところで、フィーネ」
「アリストを連れ帰るにあたって、ひとつ提案がある。いや……」
「お願いがあるのだが……」




