幻となったアリストの妃
勇者一行が魔族との最終決戦のために王都サイレンセストを出立するまでの間、アリストは父王と何度も話し合いの機会を持った。
むろんそのほぼすべての時間を魔族との戦いに関するものに費やしたのだが、それとは全く違う種類の話もしている。
これはそのひとつとなる。
「フランベーニュ人というところは気に入らないが、アレならおまえの妃としても問題なかろう」
「さっさとアレと結婚し、未来の王の顔を私にみせろ」
むろんそれはアリストの妃についての話であり、アレというのは言うまでもなくフィーネのことである。
以前、「おまえの正妃は私が決める」と言っていたことを忘れたかのような突然の父王の言葉はアリストを苦笑させた。
「ですが、フィーネを妃にするのは大変なことです」
「なにしろフランベーニュの前王太子ダニエル・フランベーニュは国の半分を貢ぐから結婚してくれと言ったらしいですし、彼女を口説きにやってきたアルディーシャ・グワラニーには魔族の国の南半分をくれたらつきあうことを考えてもよいと断ったそうですから」
「私も彼女と結婚するには我が国の領土の多くを貢ぐ必要があります」
「まあ、彼女にはそれだけの価値があると思いますが」
父王はそれを完全な冗談と受け取った。
「それは相当頑張らねばならないな」
「まあ、子供が出来てしまえばなし崩し的に妃になるということもあるが、この際構わないぞ」
むろん父王の誤解を解くのは簡単だ。
だが、そうなった場合、フィーネの傲慢さに激怒した父王が彼女をフランベーニュに追放するということになりかねないのだが、戦力の大幅ダウンだけではなく、下手をすれば魔族側に転籍だってあり得るのだから、間違ってもそんなことは口にできない。
父王の笑いとともにやってきたその言葉にアリストは曖昧な表情で応じた。
別の世界の常識を知るフィーネやグワラニーには理解しがたいものであるのだが、この世界の為政者たちは「女は男に従うだけの生き物」という男尊女卑の思想の中で生きてきた者たち。
絶対に受け入れられない。
当然女性が組織の頂点に立ち、男たちを差配するなどという事態を許すはずがない。
そういう点では、特別な才の持ち主という理由はあるものの、人間の女性であるアリシアの言葉に頷き、さらにアリシアに断られ破談にはなったものの彼女に国政の一翼を担わせようとして魔族の王は先進性の保有者だったといえるかもしれない。




