零れ落ちた言葉 Ⅲ
「そういえば、あなたは文官だったと言っていたけど、ということは……」
「向こうの知識を使っての無双状態だったのかしら」
フィーネからやってきたこの問いにグワラニーは薄く笑う。
……ここで無双という言葉を使う?もしかして同類か。
その理由はいうまでもない。
異世界に渡った者が元の世界の知識を使って無双するというのは異世界小説のお約束のようなものだったからだ。
まあ、それはさておき、その問いの答えといえばイエスと言っていいだろう。
なにしろ彼は日本の頂点とされる学校出身の元官僚。
異世界で無双するという小説の主人公となる高校生や中学生とは知識のレベルが違う。
というか、そもそもどんなこともスマートフォンの検索に頼り、他人との直接的接触を好まない中高生がすべての分野の知識をあれだけ頭に叩き込み、さらに雄弁、詭弁を合わせ持つ交渉術に長けた言葉の魔術師であるはずがなどないと言っていいのだが、こちらまさに本物。
知識を豊富、事務能力に優れ、さらにチンピラ政治屋を言葉巧みに丸め込むだけの話術もある。
だが……。
……気持ちよく喋っていては元の世界の身分がバレるだけ。
……ここはやり過ごすしかあるまい。
「文官という組織はしがらみが多く、物語のようにはいかないですね。余計な仕事ばかりありますし、功績は上司もすべて持っていかれる。あのようなところにいては物語の主人公になどなれませんね」
「それで転属したわけですか?」
「まあ、そういう機会があったので転職したわけです。フランベーニュやブリターニャは知りませんが、魔族の国の文官は給料が非常に安い。その点、軍人は高給。しかも、税金がないのです。いわば特権階級。それも転職理由です」
「……高級取りの軍人は無税。それでよく経済が破綻しませんね」
「最初その話を聞いたとき私もよくやれるものだと思いましたが実際に運用されている。誰が考えたのかはわかりませんがよくできた仕組みです。もう少し説明しておけば、魔族の国では基本的に軍人を通してお金を市場に流している。つまり、軍人は向こうの世界でいう公共事業のようなものなのです。まあ、それは金や銀が豊富だからできる芸当なのですが」
……軍を公共事業と表現するとはおもしろい。
心の中でそう呟いたフィーネはグワラニーからある種の人間が持つ香りを感じ薄い笑いで応じる。
「まあ、たしかに人間の国には魔族の国から金や銀を分けてもらっていながら、税金も払わぬ特権階級が存在しているのですから、金銀が豊富の魔族の国ならそれくらいのことは可能ですね」
「……そこにつけ加えれば、魔族の軍人は常に死と隣り合わせですから特権に見合う対価は払っているということになります」
「自らの血が税金というわけですか。さすが現在軍人をしている元文官。口は達者のようですね」
……ですが……。
……魔族の国の軍人は純魔族のみがなれるもの。金に釣られてそちらへ行きたくても人間種は行かれない。
……それがあっさりと。
……まあ、その理由などあきらかですね。
「非常におもしろい話でした」




