零れ落ちた言葉 Ⅱ
「それからもうひとつ」
「これは感想というより少し落胆というところですが……」
真実にニアピンというべきフィーネの言葉に頷くと、グワラニーは苦笑いというべき笑みを浮かべて口にしたのは、向こうの世界ではお約束になっている魔法に関するものだった。
「最初魔法の存在を知ったとき、私が思い浮かべたのは長い魔法詠唱とかっこいい魔法名。それから術者の上に現れる大きい魔法陣でした」
「ところが、いざそれをおこなう様子を見ていてもいっこうにそれが現れない。思わず尋ねたところ、何もない。というか、すべてを否定されました」
「あの時味わった落胆は今で忘れられません」
「それは私も同じだわね」
グワラニーの述懐にフィーネも大きく頷いた。
「映画で登場するあの魔法陣は何を根拠に考え出されたのかと文句を言いたくなりました。もちろん呪文も」
「まあ、呪文についてはすべての説明を聞いた後は納得しましたが」
「そうですね。今考えると長い魔法詠唱している最中になんで相手は攻撃しないのかと思いますが、あのときはそこまで思いつきませんでした」
「数段階にしか分かれていない魔法の力も」
「いざ使うとなればそれは非常に使いにくいです」
「蝋燭の芯に火を灯すところから山ひとつ燃やすまで加減自由というのは確かに便利ですね」
「そういうことです」
「ところで、転移避けという魔法封じの方法は向こうにありましたか?」
「私が知っている範囲ではなかったですね。こちらでトレンドになっている攻撃魔法も見たことがなかったです」
「だいたい火球や光を打ち出すこちらのオールドスタイルの魔法でしたね。そう言えば」
「もしかしたら、あれはこちらからの持ち込みかもしれませんね」
この魔法談義であるが、グワラニーは少しだけ意識して話をしていた。
だが、より注意深かったのはフィーネだった。
なぜなら魔法に詳しいのは魔術師だけ。
それがこちらの世界の常識だから。
……向こうでの知識と興味があるとはいえ、これだけの知識を持つということはやはりこの男も魔法を使えると思ったほうがいいかもしれませんね。
フィーネは美しい笑みの下でそう呟いていた。